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出戻りマーメイド  作者: 未羊


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第10話 お姉さん的余裕

 教室の中で、周りをきょろきょろしながら、私は下駄箱に入っていた手紙を読もうとしている。

 私の席は教室の一番後ろの窓側だから、あまり視線を気にしなくて済むから助かるわ。基本的に転校生って空いている場所に席を作られちゃうからね。

 封筒はよく見るとシール留めしてあるだけだから、簡単に開けられちゃうみたい。

 まあ、丁寧にはがそうとしなくても、マーメイドである私の水魔法があれば、簡単にふやかせちゃうんだけどね。あっ、そうしたら手紙も滲んじゃうか。やっぱり、丁寧にはがそうっと。

 私はぺりぺりとシールをはがして中身を読む。


『今日の放課後、屋上の階段の踊り場で待ってます』


 呼び出しみたい。

 というか屋上への階段なんだ。てっきり校庭にある木のところに呼び出すのかと思ったわ。こんなのを入れてくるなんて、よっぽどシャイなのね。

 この手紙を入れたのは、おそらく私のクラスの誰か。私より先に来ていた誰かっていうことか。

 まぁ、誰かは知らないけれど、私はそんな簡単になびくような女じゃないわ。


(どこの誰だか知らないけれど、お断りをさせてもらおうっと。こんなの受け取っちゃって、前世の気持ちが再燃してきちゃったわ)


 手紙を机の中にしまうと、私はそのまま机に突っ伏してしまう。


(はあ……。海斗に会いたいなぁ……)


 朝に会ったばかりだというのに、私はそんなことを思いながら、朝のホームルームを迎えていた。


 変な手紙を受け取ったことで、この日の私はずっと前世の記憶をたどっていた。

 私と海斗は幼馴染み。

 小さい頃から家は近所で、同い年ということもあって家族ぐるみでよく付き合ってたっけ。

 それからもよく一緒に行動してたっけかな。

 海斗の方が少し誕生日が早いし、体も大きかったから、どっちかといえばお兄ちゃんって感じで甘えてたっけかなぁ。海斗から見ても、多分私は手のかかる妹だったと思う。

 私との関係があったからか、妹の真鈴ちゃんともそんなに仲が悪いわけじゃなかったはず。

 あれ? 私って真鈴ちゃんとの記憶があいまいな気がする……。

 おかしいな。海斗とよく遊んでいたのなら、真鈴ちゃんともそれなりに遊んでいるはずだし。再会した時にすぐに思い出せなかったのも気にかかるわ。

 ……十二年間のマーメイドのお姫様としての生活で、記憶が薄らいできちゃってるのかもしれない。


 それにしても、転生してから自分の気持ちに気が付くなんて、何とも皮肉というかなんというか。

 私は覚えているけれど、話を聞いている限り、前世の私のことは誰も覚えていないみたい。

 それでも構わないわ。せっかくこっちの世界に戻ってこれたんだもの。また、海斗と仲良くなっていけばいいだけだわ。……マーメイド族のみんなには悪いとは思うけれど。

 悶々とした気持ちを抱えつつ、私は問題の放課後を迎えることとなった。


(さて、屋上に向かう階段の踊り場だったわね)


 私はいつでも帰れるようにランドセルを背負って、手紙にあった約束の場所へと向かっていく。

 幸い、学校の中の見取り図は、まだ頭の中にしっかりと残っている。大きな工事はしていた記憶はあるけど、基本的な構造は変わらないものね。

 私のいる六年生の教室は、校舎の最上階。窓の外を見れば、学校内だけじゃなくて町の様子もよく見える。

 校舎の四階から見える光景は、本当に素晴らしいと思う。眼下に海が見えると、私はつい足を止めてしまう。


(私が連れ去られて、そして戻ってきた海……。もしかしたら、あの海の中に何か答えがあるのかな?)


 転生前のことと、おじいちゃん先生の話が頭によぎって、つい海に駆け出したくなってしまう。

 でも、今は手紙の返事をしなきゃいけない。

 私は首を横に振って、屋上へと続く階段へと向かう。


 階段を覗き込むと、誰かの姿が見えた。


「よかった、来てくれたんだ」


「えっと、誰かな?」


 安心したような声が聞こえるんだけど、私は相手が分からない。だって、昨日転校してきたばかりなんだから、顔も名前もあいまいだもの。自己紹介してないクラスメイトだっているし。


「そっか、昨日の今日じゃわからないっか」


 声の主が近付いてくる。


「僕は海堂翔(かいどうかける)っていうんだ。よろしくね、波白マイちゃん」


「うん、よろしく。翔くんね」


 自己紹介をされたので、私は事務的に挨拶をしておく。


「あの、早速なんだけど……」


「うん、なに?」


 海堂くんは、名前を呼ばれたことに照れてしまっているのか、私から視線を外していた。

 小学六年生はうぶだなぁと思いながら、私は様子を見守っている。


「あの、ぼ、僕と……」


 ちらちらこちらに視線を向けながら何かを言おうとしている。言いたいことは分かるから、さっさと言ってほしいな。

 私はちょっとイラッとしていた。


「僕と付き合って下さい!」


 実に折り目正しく頭を下げてきた。ちょっとびっくりしちゃったわ。


「うん、ごめんなさい。知らない人とそういう関係になりたくないの」


「そ、そんなぁ……」


 私が笑顔ではっきり言ってあげると、海堂くんはものすごくショックを受けたみたい。でも、これは当然よね?


「クラスメイトなんだし、友だちからなら始めてもいいと思うわよ。多分逆だったら、同じように思ったんじゃないの?」


「あ、うん……、そうかも」


 あっ、正直に答えてる。


「それじゃ、お友だちから始めましょ」


 私はにっこりと海堂くんに笑いかけておく。

 ただし、手は差し出さないわ。手を握らせたら、確実に勘違いするだろうからね。

 そんなわけで、ひとまずお友だちになることにしたわ。照れくさそうにしていて、なんだか可愛い弟って感じかな。

 これでよかったかな。

 この時の私はそう思って、安心して下校をしていったのだった。

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