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13.約束の場所

 朝日が、水平線の向こうからゆっくりと昇ってくる。

 波打ち際に打ち寄せる潮が、オレンジ色に輝く。

 彼女は砂浜に座り、両膝を抱えてじっと海を見つめていた。

 さっきまでの禍々しい気配が嘘のように、海は穏やかだった。

「……奇麗」

 小さく呟く声には、もう鬼の気配はない。

 その横顔に当たる朝日が、まるで彼女を祝福しているみたいに見えた。

「うん……きれいだね」

 俺は彼女の隣に腰を下ろした。

 潮風が優しく彼女の髪を揺らす。

 ゆっくりとした時間が流れる。

「本当は……ずっと怖かったんです。大切な人を傷つけてしまうのが……」

 すると、彼女はそっと俺の首に手を添えた。

 そこには、さっき彼女の爪がつけた傷跡がある。

「ごめんなさい……」

 震える指先が、そっと傷に触れる。

「痛くないですか?」

「全然平気だよ」

 そう答えると、彼女の目に涙が滲む。

「私……ずっとひとりだったんです。ずっと寂しかった……」

 声が震える。

「でも、あなただけは……あなただけは私のそばにいてくれました」

 波の音だけが静かに響く。

 彼女は顔を上げ、初めて真っすぐに俺を見た。

「……悠真くん」

 名前を呼んだその声は、今まで聞いた中で一番美しく聞こえた。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 頬が熱くなるのが分かった。

「悠真くん、ありがとう」

 嬉しいのと恥ずかしいのとが一度に押し寄せてきて、なんて答えたらいいのかわからない。

「あ、その……」

 声が上手く出ない。

 こんなに自分の名前を呼ばれて嬉しいなんて、今まで思ったこともなかった。

「どうしたの?」

 彼女が小首をかしげる。

 その仕草がまた可愛くて、俺の頬はますます熱くなった。

「い、いや……なんでもない」

 慌てて視線を海に向ける。

 でも、心の中では何度でも聞いていたかった。

 彼女の声で、俺の名前を。

 初めて呼んでくれた、なんて恥ずかしくて言えないけど、この気持ちは俺だけの秘密にしておこう。

「あの……」

 彼女が恥ずかし気に俯いた。

「また一緒に、海に来てくれますか?」

「もちろん。俺たちの――」

「「冒険はこれから始まる」」

 ふたりの声が重なり、一緒に声を立てて笑った。

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