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chapter 4

生物学者はじっと調査器を見ながら結果が出るのを待っていたが、目の焦点はしだいに調査器の向こうへとずれていき、虚空を見つめた。

最近は作業中にぼんやりすることが多くなった。


落胆していてもしょうがない。


生物学者は気分を入れ替えようと体を伸ばし、景色が良く見えるよう体勢を整えた。

辺りは相変わらずの風景だったが、彼のごく近くに一つの流動体がうごめいていることに気がついた。

視覚的には活発な運動は見られず、また地面を這うように動いているためにその存在自体は目立たなかったが、確かにまわりの岩石とは異なる、水分を多く含んだ個体であった。


この付近の星系にしては珍しい分子構造だな。


彼が成分を調べてみようと思って手を伸ばすと、まるで彼の手から逃れるように物体は後ろへ下がった。

生物学者の顔に微笑が戻った。


そのとき調査機から心地良い音のブザーが鳴り、調査の完了を告げた。

生物学者は機械のモニターを一目見て、結果の続きを見るのが嫌になった。


「ちくしょう、ひどい星だ!」


調査結果は悲惨なものだった。

生物が生きていくために最低限必要なものは何一つなかった。

上空より調査艇から調べてみた値とほぼ同じ。

こんな機械を使って調べてみるまでもなく、この星に生物が住めないことはわかりきっていたのだ。


彼は意気消沈する自分の心情をごまかすように勢いよくすっと立ち上がり、調査機からモニター部分を取り外し、結果を見せるために重い足取りで地質学者の方へと歩いた。


地質学者は相変わらず岩の壁面を、腕にある三つの感覚器で観察していた。


「この岩が何でできているかわかるかね?」


地質学者はモニターも見ず、そう言った。


「主成分は10122と66894です。21125と水和反応して固まっていますね」


生物学者はえらく形式ばった言い方をした。


「すごいとは思わんかね。まさに自然現象が作り出した芸術だ」


物理法則という芸術家が何億年もの歳月をかけて創り出した作品か。

なるほど確かにすばらしい。しかし――。


「この岩はその辺にある土砂とあまり変わりはありません。ですが無機物がこのような分子構造に変化するのはきわめてまれです。あるいは人工的に作られた、という可能性もないとは言い切れません」


生物学者はつい口をすべらした。

しまった、という思いからか生物学者は目を閉じていた。


「確かにまれかもしれない。それは認めよう。しかし何の人為的作用もなしにこうした物質ができあがるケースがたくさんあることは君も知っているよな。たとえばこの前行った第六惑星では――」

「ええ、わかってます」


彼には十分過ぎるくらいにわかっていた。

彼はどうしても夢を捨て切ることができなかったのだ。

そんな気持ちを察してか、地質学者はこれ以上この話題を続けようとはしなかった。

しばらくの間、二人に会話はなかった。


「長旅のせいでしょうか、こうも荒れ果てた星ばかりを見ているとふと考えることがあるんですよ」


風が吹いていた。

あまりにも穏やかなすがすがしい風が二人の間をかけ抜けた。

そして悲しき学者達をなぐさめるかのように頬をなで、腕をなで、全身を抱擁した。


「どんなことを?」

「たとえば、ほら、あそこに高分子の流動体があるでしょう。あれがもしかしたら原子的な生物じゃないかって私は思うのです。もしあれが生物だったらいいのになあってね」

「ははは。なんでも生き物に見えるんだな、君は」

「ええ、小さい頃からそんなことばっかり考えてました。まぁそれがきっかけで生物学者になったんですけどね。ほらあの流動体、まるで自分自身の意思で動いているようにも見えるじゃないですか。見えませんか?」

「まぁ確かに面白い動きをしているとは思うよ。しかし……」

「もちろんわかってます。無機物があのような動きをしても全然不思議じゃないことはね。ただあれが生物だったらと想像すると、なんて言うか……、すごく楽しい気分になりますよ」


生物学者は本当に楽しそうだった。

その表情には子供のように無邪気な笑みが浮かべられていた。


「ほらほら見てください、噂をしてる間にどんどん流動体達が集まってきましたよ。まるで私達を迎えてくれているようじゃないですか」


地質学者は胸のあたりで手を広げ、おおげさな口調で、

「諸君達、歓迎ごくろう!」

と言った。


二人は少し笑った後、隆起した岩に腰を下ろした。


今日の作業はこれで終わり。

いつものことながら、味気ない仕事だった。




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