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chapter 3

「あれは宇宙人じゃないのか?」


一人の男が言った。

彼はこのあたりでは最もマシな人間であり、唯一脳が活発に動いている人間だった。


男はとりあえず横にいた中年の男に今言った言葉に対する同意を求めようとしたが、中年男の醜い顔はロボットみたいで何の変化もなかった。

その表情には彼が何も考えていないことを克明に表していた。


男はさらにまわりの人々に返答を求めようと振り返ったが、残念なことに皆、死んだように硬直し、揃いも揃って中年男と同じ顔をしていた。

顔についてある器官全部が大きく開き、そのすべてから液体を垂れ流していた。


こりゃだめだ。


男は地球人に取り入るのをあきらめ、異星人の方へと目を向けた。


とりあえずこいつらをなんとかしなくては。


男はまず向かって右側の異星人の方へゆっくりと歩み寄り、何をしてこようともすぐさま反応できるようにじっと睨めつけ、神経をとぎすませた。

かなり近寄ったところで震えを押さえながら、

「おい」

と話かけてみた。


しかしその異星人はくるりとそっぽを向き、てくてく(この表現が正しいかどうかはわからないが)と道路の反対側まで行ってしまった。

歩道にたどり着くと、異星人はビルの壁面をていねいに触り始めた。


男はばつが悪くなり、すかさずもう一人の異星人を見た。

そいつはぎゅるぎゅると音をたてたかと思うと、自分のわき腹からゲル状の薄気味悪い物体を取り出し、びちゃっと地面に投げつけた。

その物体は気色の悪さに拍車をかけるかのごとく、ぶよぶよと動いた。


これが友好のしるしとしての贈り物でなきゃいいんだが。

男はそう思った。


しばらく観察しているうちに異星人は背丈を低くし、ゲル状の物体をまさぐり始めた。

男は好奇心にかられ、つい物体のそばまで近寄ってしまった。


そのときである。

突然男の目の前にいた異星人は、彼に向かって何本もの触手を突き出してきた。

とっさに彼は後ろへ飛び跳ね、かろうじて触手の攻撃を防いだが、その拍子に足がすべり、後頭部を痛打してしまった。

群衆から悲鳴があがり、驚愕の声がもれた。

人々の目には今の出来事は明らかに敵対行為に映った。


「大丈夫だ」


男は立ち上がると皆が騒ぎ出さないよう、努めて平常心でそう言った。

額から汗がにじみ出るのを感じながら彼は群衆を見た。

するとそこには何百何千もの期待に満ちたついの目玉があった。


おいおいちょっと待ってくれ。

俺に何をしてほしいんだ?


男はひるんだ。

が、男のまわりにいた人々は容赦なく彼に期待のまなざしを送った。

誰もその場から避難しようとせず、かたずを飲んで男の行動を見守った。

男はしばし途方に暮れた。

そして今までの過去を振り返り、こんなにも人から注目されたことがあったかどうか記憶を辿った。


もしかすると俺は今、とてつもない責任を背負っているのではないだろうか。

人類と宇宙人との初めての遭遇で俺は人類代表として地球側のホスト役を勤めなければならない。

もしこのコンタクトに失敗したら、地球は危険にさらされる。

そのとき全世界の人間が俺を許してくれるだろうか。

許すもくそもない。

我が愛する緑の地球はこの粘土細工の化け物に支配され、人類は滅亡する。

俺はと言えば……、皆からののしられ、リンチを受け、挙句の果てに死刑だ。

人類滅亡の前に一足お先に死が訪れる。

これは一世一代の大仕事だ。


訳のわからぬ使命感が芽生えてきた男は、群衆に向かって大きくうなずいて見せた。

群衆はさらなる期待を抱き、男を見つめた。


「さて」


さてどうしようか。

急に何もかもをまかされてしまったその男は、くるりと異星人の方へ向き直り、考えた。




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