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第五話

声のした方を振り返れば、ファンタジー世界でしか見たことがないような甲冑を身に纏った女の人が立っていた。

 私の持っているランタンの光に照らされた、高い位置で括ってある銀色の髪が印象的だ。

「シ、シエル様!?」

 先ほどまで言い争っていた兵士はその人を見るや否や、慌てて頭を下げた。もしかしてすごく偉い人?

「そこの金髪の者」

 シエルと呼ばれた女性は私の方を見てそう言ってきた。金髪の人なんてこの場に私しかいない。

「は、はい」

「王からの命令だ。私についてきなさい」


――

 何がどうしてこうなった。

 私は今、そのシエルさんという人に連れられて、馬に乗って王様の元へ向かっている。

 色々聞いてみると、シエルさんは各国を回って外交などをしている王様直属の部下のようだ。細かいことは機密情報に関わると言って、ざっくりとしか教えてくれなかった。頭の弱い私でも、少ない情報からエリートらしいのは理解できた。

「この国が未来視や預言などで数々の苦難を乗り越えてきたことは、田舎者でも知っていることだろう」

 そういえばそんな話をおじいちゃんから聞いた。こくりと頷く。

「その未来視でお前の姿と一致した特徴の少女が映ったそうなのだ。金髪に桃色の瞳を持つ少女などそうそう出会えた者ではない」

 どうやら、空から光が失われる異変が起きてからすぐに王様からその預言と特徴を直属の部下全員に伝えられたそうで。共有された人たちは王様の預言に合致する人物を探し続けていたのだという。

 シエルさんもそのうちの1人で、まだ誰も踏み入っていなかったこのスヴェール村に入ろうとしたところ、私の存在が目に入ったのだとか。

 その話を聞いていて、私はちょっと疑問に思った。

 300年前に私の先祖が隠居してもしなくても、どっちみちこういう選択は取らなきゃいけなかったのでは――と。

 長い間こういった預言などで色々と進めてきているなら、外れたり異なった結果が提示されるわけもないだろうし……。

「着いたぞ。ここがエトラエル王国の中心地だ――乗馬中だからあまり近くには寄れないがな」

 先祖の判断と現状のことを考えてうんうん唸っていると、シエルさんからそう言われた。

 思考に集中するために閉じていた目を開けば、そこは思っていたよりもずっと明るかった。

 空は夜のように暗いままだが、少し離れたところからでも店の灯りが忙しなく灯っていて、村にいた時の何倍、いや何十倍も活気に溢れている。

 久々の光に目を細めつつ、そんな活気溢れる街の様子を凝視する。途中で可愛らしいマスコットキャラクターが沢山並んでいるショップが目に入り、思わず「可愛い……」と呟いてしまった。シエルさんに「預言に記されているだけで、年相応の子供だな」と微笑を向けられる。

 あの、私最近この世界では成人しました。

――

「ここだ」

 街の活気を全身で浴びた後、少し街中を外れ静かになったところで、シエルさんは馬から降りた。

 私もそれにならって馬から降りようとするが、何せ馬には慣れていない。どう降りようか地面を見ていたらシエルさんが手を貸してくれた。

 そういえば村でも私たちは歩いて移動していたけれど、その道中で私よりずっと幼い子が馬とじゃれあっているのを見かけたことがある。

 それに比べたら私は乗り降りで手を貸してもらっているレベルだ。これじゃ子供扱いされても仕方ないかも。

 馬から降りた先には長くて大きな階段があった。

「この先が城だ。王が待っている、行くぞ」

 シエルさんはそう言って階段に向かっていく。え、これ一番上まで登るの?

 もう先に登り始めているシエルさん。引き止めても何にもならない気がしたので、慌てて後を追った。

 ――

「シ、シエルさん……! ちょっと、休憩しませんか……!」

 しばらく階段を登ることに集中していたが、あまりにも息が乱れてきた。どうしてシエルさんはそんなにスタスタ登れるんだろう。

 体力も限界に近いのでそう呼び止めた。お城に向かう途中で体力切れで死んだら恥すぎる。なんのためにこの世界に来たんだ。

「何を言う。もう着くのだから辛抱しろ」

 え、と前にいるシエルさんの方を見れば、シエルさんの背後に大きな建物が立っているのがわかった。暗くて細かいところはよくわからないが。

 数段登ってようやく階段が終わったところで座り込んで息を整える。無礼をお許しください……。

「ご苦労。さて、これから王に会うわけだが」

 シエルさんは私の方をじっと見つめてきた。え、なに。

「……王は誠実でない者を嫌う。くれぐれも虚偽の内容を述べないように」

 私には王の元まで付き添うという命令は受けていないから立ち会いには1人で行けと言われてしまい、息を整え終えた私をお城の人に引き継いで、シエルさんは闇の中に消えていった。

 灯りなくても歩けるんだ……流石エリート。

 私もあんな女性になれるかな……。

 若干の心細さとそんな感心を抱きながら、私は案内に従ってお城の中に入った。

 

王様は想定していた通りの容姿だった。白髪に少し生やしたひげ、宝石がふんだんに使われた大きな黄金の王冠、鮮やかな赤色のマント。

 特徴的だったのは、角度や光加減によって色が七色に変わる、宝石のような瞳を持っていることだ。

「其方が未来視に選ばれた“英雄の少女”か」

 えいゆうのしょうじょ。すごい二つ名がつけられている。

「アシリア・セルヴィー。間違いないな」

「は、はい」

 どうしよう、こんな目上の人と話したことがないから、受け答えに困る。一言一言が無礼になりそうで何も言えない。

 そもそも、王様の年齢が声や顔つきから判断してお父さんと近しい気がする。本当にこの年代の男性が怖い、何が逆鱗に触れるかわからないから。王様なんて言うくらいなんだから、もし機嫌を損ねたら即死刑とかかもしれない。おじいちゃんから話聞いた時も血の気多いんじゃないかって思ったし。

 冷や汗が背中を伝う。王様のこちらを全て見透かすような目線が刺さる。この無礼すぎる思考も見透かされているような錯覚に陥った。

「……未来視では視ることができなかったが、其方には想定していた以外の力が備わっているように思えるな」

「力?」

 家系の話だろうか。いずれにしてもこちらから話しすぎるのはよくないと思い、王様の言葉を待つ。七色の瞳が細められた。

「――本当にこの国の人間か?」

 しかし、質問は想像の斜め上をいっていた。

 (これ、もしかしなくても)

 転生のことを言っている、とすぐに悟る。

 アシリアとして育ってきた数十年間があるのは事実だし、いいえ、とも違う気がする。でも“西条瑞希”という私の部分はこの国のものではない。最適な答えが見つからず、返答に困る。

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