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第三話

――300年以上昔の事である。ここエトラエル王国、通称雲の国――この世界で一番空に近いためそう呼ばれている――は、非常に平和で豊かな国であった。

人々は争わず助け合っていた。王は全ての始まりとされている“光の王国”から授かった未来視の力を使うことで災厄を予見し、何不自由なく、幸せに暮らしていた。

しかし、そんな平和は突如として終わりを迎える。

どこからともなく突如として現れた“魔王”と呼ばれる存在。魔王はこの国のみならず、全ての土地を焼き尽くし、世界を混乱と恐怖に陥れた。

未来視でも予見できなかった災厄の到来に、人々はパニックを起こした。国民は王を虐げ、争いをするようになった。

そんな中立ち上がったのが、私たちの先祖。セルヴィーの名を持つ騎士であった。

彼は捨て子だった。しかし、腐らず真っ当で純粋な心を持ち続け、困っている人には自分の身を顧みず助けに行ってしまうような強い正義感、そしてそれに見合った強大な魔力を手にしていた。

彼は世界を救うというただ一つの思いを胸に、妻と子供を置いて1人で魔王の元まで辿り着き、その魔力と剣で魔王の胸を切り裂いた。

魔王は消滅し、世界には再びの平和が訪れた。しかし、国民は争いをすることをやめなかった。魔王が消滅したところで、一度着いてしまった争いの火は消えることはなかった。

彼は絶望した。世界を覆い尽くした災厄を打ち払えば、人々も笑顔を取り戻せると信じていたからだ。

同時に、彼は願った。いつか全ての災いがこの世から無くなり、皆に笑顔が戻ることを。

彼はその希望を、彼の子供に託した。

――子が善悪を理解できる成人を迎えるまではこの力を隠し通し、成人を迎えたら全てを伝えよ。利用されないよう、これは血縁同士での情報とせよ。

――いつかこの血を受け継ぐものが、世界に平和をもたらすために。

――そして、この力が闇に堕ちぬように。

彼は魔王を討伐したとはいえ、それを賞賛され持ち上げられるのをひどく嫌った。逃げるように城下町から離れたスヴェール村に隠居し、身分を隠したまま生活を始めた。現在私たちの住んでいる村だ。彼はその地で老衰により生涯を終えた。

国では現在も「無名の英雄」として称えられているが、彼の意思を継いだ子孫は代々この秘密を守り通し、伝言を繋いでいた――。


――

――――

「――そして、現在に至るのじゃ」

「ご先祖様はきっと、再びこのような局面で引き継いできた力を子孫が使うことになるとは思っていなかったでしょうけど……」

お母さんの言葉に、おじいちゃんは何も言わずコップに入った水を口に含んだ。

私はというと、壮大な話を聞いて、しばらく言葉が出なかった。

あまりに崇高すぎる願いだ。

それと、やっぱり転生お決まりのいわゆる「チート能力」的なものはあるみたいだ。魔王を1人で倒せるほどの力をもつ先祖がいるんだから、弱いなんてことありえないよね。

まあ神から付与されたってより本当に生まれ持った能力なんだけど。

「アシリア。お母さんはね、心配なのよ」

ふとお母さんが私の手を取った。その瞳は言葉の通り、不安の影が揺らめいていた。

「成人するとは言っても、まだこんなにも小さな娘を世界のために送り出さなければいけないなんて。本当はしたくないわ。でも、これは代々のご先祖さまの願いが叶う契機になると信じているのも事実なの……」

「お母さん、私はもう決めたの。今の話を聞いてより決心がついた」

「アシリア……」

私の口が、今度は自分の意思で動く。

「大丈夫、ちゃんと生きて帰ってくる。お母さんを悲しませたりしない」

少し話しただけでも、お母さんはアシリアのことをすごく大切に思って接してきたんだろうなということがひしひしと伝わってきた。

転生した私がお母さんできることは、もうこの際この旅が避けて通れない道なら、最低限目立つ傷を負わずに全てを終わらせることくらいではないだろうか。

「あなたは本当に、強い子に育ったわね……」

「アシリア、決心がついたなら、その決心が揺らがないうちに着替えて準備をしてくるのじゃ」

おじいちゃんの言葉に私は頷き、再び自分の部屋へと入っていった。


――

「ふう……」

とは言ったものの、不安で仕方ないのは事実で。1人になった途端、さっきまで持ち合わせていた自信が消えていき、代わりにプレッシャーという名の重圧がかかる錯覚を覚える。

多分さっきの話からして、強大な魔力を持ってはいるけれど、使いこなせる技術はないと思う。なんなら魔法のまの字も知らないんじゃないか。いや、流石にそれはないか……?

というか、転生してきたはずなのによく見る展開じゃなくてもどかしい! こういう時って大体自分のステータスとかわかるものじゃないの?

どれだけ願ってもそんなものは眼前に出てこない。神とも会話できない。アナログすぎるよ……。

『悪口ですか?』

「きゃあ!!」

突然鳴り響いた声に思わず声をあげる。声の主を探すが、すぐ見当たるようなところにはいないようだ。

『探しても物体ないので無駄ですよ。ったく、システムがバグってたから手こずってたのに同期した途端悪口言われてるの、かなり癪なんですけど』

す、すみません。というより、あなたは……?

『サポート役です』

疑問を声に出す前に答えを返された。

『西条瑞希、実の父親に殺されて死亡。見かねた神がこの異世界に飛ばしてくれました。感謝するように』

私お父さんに殺されたの!?

確かに帰りがいつもより遅いとは思っていたけれど、まさかお父さんが犯人だと思わなかった。昔は暴力に走っても、そこまで道は踏み外していなかったからだ。ショック。

『あなたの兄、母は生きていますのでご心配なさらず。今は別居という形をとっているようです。そういえば転生というより成り替わりじゃ? って思いましたよね? でも元からこのアシリア・セルヴィーはあなたの魂と同じ性質を持っています。物心ついたのがさっきという認識でいいです』

な、なるほど……?

「あの、ステータスって見れたり」

『はい』

いとも簡単に眼前に透明な液晶が浮かび上がる。わ、本物だ。

確認してみるが、特にこれといった情報はない。強いていえば“魔力増大”という言葉があるくらいだ。これがさっき言ってた遺伝関係のものだと思う。

『これからはさっきみたいに念じるだけで出るようになります。それと私を無闇に呼ばないようにしてください』

それでは、と聞こえたのを最後に、謎の声は姿を消した。

嵐みたいな人だった……。人なのかな?まぁ、ステータス確認をいつでもできるようになったのは良かったかもしれない。自分の入手したスキルが可視化されるの、ちょっと楽しみかも。

私はおろしていた髪を高い位置でくくり、よし、と自分に気合を入れる。そして自室からまた下に降りていった。

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