第十三話
アストラさんは私たちの差し出したカードを見て「なるほど」とうなずく。
「ネクロさんの引いたカードは方向転換、区切りを意味するカードですね……。今なにか困り事でもありますか?」
ネクロは首を横に振った。
「そうですか。なら今後、自分の立場がガラリと変わるような物事が貴方の身に起こるはずです」
「そうか」
ネクロは静かに目を閉じる。
自分の立場が変わることってなんだろう。もしかしたら仲間割れ……とかなのかな。
ちら、とネクロの方を見る。
助けて貰ってここまで一緒に来てくれている、付き合いはまだ浅いけれど“仲間”と認識している人。もし仲間割れしてしまったら、私は怒るのだろうか。それとも悲しむのだろうか。
「ですが、そのような岐路に立たされた時は、自分の立場ではなく……気持ちで考えてみてください」
「感情論がすぎないか? 一時の想いで物事を決めるのは合理的ではないだろう」
「その感情が貴方を導く大切な鍵になるのですよ」
ふう、とアストラさんは息をつく。そして私に向き直った。
「そして、次にアシリアさん」
はい、と返事をする。手に少し力が入る。どんなことを言われるのだろうか。
「貴方の適正魔法ですが、水晶玉は今までに見たことの無い色を発しました」
先程の黄色の光を思い出す。太陽の元でピクニックをしている時に降り注ぐ日差しのような暖かさがあった。
暖かさ。連想された単語にまさか、と思う。アストラさんはそれに答えるかのように頷いた。
「今までに見たことがないとは言いましたが、当てはまるものがないという訳ではありません……あの慈愛に満ちた光。アシリアさんは、光魔法が適正ということになります」
「光魔法?」
ネクロが驚いた表情を見せる。
「アシリア、図書館に寄ると言っていたのはそれについて調べるためか?」
「そう。ごめん、ちゃんと言わなくて」
「しかしこれは、あまり安易に見せびらかす力ではありません」
アストラさんが続ける。
「この魔法は長らく失われていたもの。知る人こそ少ないですが、研究者や国のスパイなどに見つかったら無事で帰れはしないでしょう……。これは3人の秘密ということになります」
ネクロはきっと口が堅いから大丈夫だろう。2人でその言葉に頷いた。
「そして、次に引いたカードについてですが、アシリアさんの引いたカードは焦り、不当な扱いといった意味を持つものです」
言葉からあまり良くないもののように思える。
「アシリアさんはこの先、自分の意思とは異なった立場に置かれることがあるでしょう。先程の適正魔法の結果にも通ずるところがありますね。慎重に動くようにしてください」
ゲームなどにはよく光魔法は出てくるからそんなに貴重なのかなと疑っていた気持ちもあったけれど、こうも心をざわつかせる事ばかり言われてしまうと事の大きさをより実感する。
本当にこの世界では光魔法というものは需要な存在のようだ。
「貴方はその待遇や周りを取り巻く環境に対して焦り、不安を覚えるでしょう。しかし思いつきで動いてはいけません。……ここは先程のネクロさんとは逆のところですね」
たしかに、と思う。
「お2人ともはっきり言ってしまえばあまり良い結果ではありませんが、照らし合わせてみれば2人は助け合って困難を乗り越えられそうです。……このタイミングが来るまでは、当分は安心して旅を続けることができるでしょう」
さっきから不安な事ばかり聞かされていたので、「安心」という単語を聞いてほっと胸をなでおろした。
「占いの結果は以上となります。他に聞きたいことはありますか」
うーんと考えてみるが、情報を処理するので手一杯で質問が思い浮かばない……。
「アシリアの適正魔法は光魔法だと言うことは理解したが、光魔法は人目にあまり触れない方がいいのだろう。その場合アシリアはどの魔法を使用すればいいのだろうか」
ネクロが私に代わってそう質問する。言われてみれば今後ネクロがいない所でひとりで敵と戦わなければ行けなくなる時は来るだろう。いい質問をしてくれて助かった。
「今はどんな魔法が使えるのですか?」
私に質問される。
「えっと、火は出せます。あと、ネクロの魔法を見よう見まねでやって、氷魔法は1回だけ使えました」
「そうですか。光魔法から派生した魔法を使うのが1番相性が良いと思うのですが、何せ光魔法の派生魔法が何なのかさえ判明していませんし……。それに、光魔法に対しての適性が強いせいなのか、魔力の使い方が安定していないのか、他の魔法の適性が霞んで見えないのです。すみません」
私はまだ魔法を使い始めたばかりなので、きっと原因は後者だろう。逆に申し訳なくなってきた。
「いえ、最近魔法を使い始めたのできっと魔力の安定がまだなんだと思います。今1番使っているのは火魔法なので、そっちに慣れてみたいと思います」
「では、俺たちはこれで失礼する」
ネクロが立ち上がり、私もそれに続いて立ち上がる。
「少しお待ちください」
お礼を言って部屋を出ようとしたのだが、アストラさんに引き止められた。
「私も連れて行ってくれませんか? こう見えて出来るのは占いや未来視だけではないんです」
ヴェールを取り髪を整えながらアストラさんは言う。
「貴方たちの旅の目的はもう視たので理解しています。私はこれからの旅にきっと役に立ちますよ」
「素性の分からない占い師と行動する気はないのだが」
「承知しています。ですが、お2人は防御や回復の手は無いように見受けました」
ネクロの警戒気味な言葉に、アストラさんは綺麗な虹色の瞳を揺らした。
たしかに、私もネクロもどちらかと言うと攻撃するタイプだ。ネクロは氷魔法と剣を使って、わたしは火魔法を使って。
「私はその点を補うことが出来ます。どうでしょうか?」
「アストラさん、お願いします」
「おい、アシリア」
私が即答で了承したので、ネクロが止めに入ろうとする。
「未来視が出来る人ならリスクを冒さずに旅を続けられると思う。それに、空だっていつまた前みたいに真っ暗になっちゃうか分からないし……」
「そいつが嘘をついて俺らを導いていたとしてもか」
「そんな人だったらわざわざ占いなんてしてくれないんじゃないかな」
少しの睨み合いをする。
「……わかった」
先に折れたのはネクロだった。
「じゃあ、よろしくお願いします。アストラさん」
「ありがとうございます……。お2人の役に立てるよう頑張りますね」
こうして、仲間がひとり増えた。




