第十話
「そういえば、この町に魔法とかに詳しい人っていますか?」
ピアティーノ町で1日を過ごした翌日。私はガイドさんに図書館への道を尋ねると同時に、そんなことを聞いてみた。
ちなみにネクロは少し離れたところで待ってくれている。
「そうですね……魔力に関する本や武器などはたくさん保管しているのですが」
うーん、と考えをめぐらせてくれている。
そういえば、私たちの宿代は魔物を倒してくれたからという理由で無料になった。しかも報酬としてたんまりお金を貰えたので、今後はネクロに頼らずとも自分でお金を払えそうだ。
払ってもらった分のお金をネクロに渡そうとしたけど断られたことは納得いってないけど。
「それなら町の外れになるけど1人知ってるぜ」
そこに、1人の男の人が割り込んできた。気の良さそうな人だ。
「なんでも王族と同じくらいの占いの力を持っていて、その人ごとに適正な魔法を教えてくれるとか、くれないとか……」
ずい、と顔を寄せて熱弁する男の人に気圧される。近い。
「あ、あの」
「ああすまない! つい熱くなっちまった……」
私が声をかけると思い出したかのように大きく距離を取り頬をかく。悪気がないのは分かっているけれど本当に怖かった。相変わらず大人の男性は怖い。いつか慣れるかな……。
「そういえばそうですね。最近この町に来た方なのですが、あまり身分を詮索されたくないようなので、私達もなるべく距離をとっています」
「そうじゃなかったらあんな外れに住まねえもんなぁ」
なんだか謎の多い人だ。
王様に通行証を貰いに行った時のことを思い出す。王族と同じくらいの力、ということは、あの時の王様の力に似たものを持っているということだろうか。
適正な魔法を教えてくれるなら、もしかしたら私がより気を失わないような魔力の出力の方法も教えて貰えるかもしれない。図書館に寄ってからちょっと探してみようかな。
ありがとうございます、と図書館までの道が示された地図を持ってガイドさんにお礼を言う。
ネクロを探しに行けば、彼はなにか食べていた。
「ネクロお待たせ、何食べてるの?」
「今朝気が向かなくて食事を取らなかったから、今栄養食を食べている」
なんだかよく分からない色をした長方形の塊を食べながらそう返してくる。
「……おいしい?」
「慣れれば普通に食べられる」
けど、慣れるまでは「草みたいな味がする」らしい。何が入ってるの。
――
図書館に着けば、ネクロも少し見たいものがある様子だったので、しばらくしてからエントランスに合流という形で各々活動をすることにした。
私が調べたいのは、魔法の種類と、あの時空を明るくするまでに至った激しい光を伴う魔法についてだ。
1日経っても光は消えることなく、外は薄ぼんやりとした明るさを保っていた。
まだ普通に生活するには輝度が足りないけど、前に比べたら幾分かましだ。
魔法に関連する書物が沢山並べてあるコーナーに向かう。『やさしいまほう』『初心者でもわかる! たのしい魔法の使い方』など……。種類について調べようとすると入門書が多くなりそうだ。
適当に手に取りパラパラとページをめくる。
どうやら魔法は火、水、草、氷、雷の5つの種類の魔法が基本のようで、かなり上達すれば2つの魔法を組み合わせて使用することが出来るみたい。
基本的に魔力の出力は自由にできるみたいだ。
初心者でも出力しやすい魔法は火魔法のようで、いちばん難しいのは雷らしい。
おじいちゃんは火魔法を教えてくれていた。本当に基礎中の基礎だったけれど、その練習がなかったら魔力の出力の仕方も掴めていなかっただろうし、多分あの時氷魔法は打ててなかったかも。
改めておじいちゃんに心の中で感謝する。
ただ、光に関する魔法については記されていなかった。
火魔法の進化したものかなと思って他にも色々読んでみたけれど、火魔法は段階を踏んでいくと青白い炎が出せるようにはなるらしいが、どの書物にも光に変化するとは書かれていなかった。
ここまで書いていないと逆に絶対探してやろうじゃないか、と意気込む。
神話などを探して挿絵を見ようとパラパラとめくって見る。しかし、どれもその五大基礎魔法の始まりと力を授けた神々の話ばかりで、あんなに神々しい光を放っている挿絵は本当にどこにも見つからなかった。
バサ、と何かが落ちる音が背後でした。振り返れば、紺色の表紙に金の装飾が施された本が落ちている。
周りには誰もいない。勝手に本棚から落ちたようだ。
それを拾ってみるが、表紙には何も書かれていない。開いてパラパラとページを捲ってみるが、どのページにも見覚えのない言葉ばかりが連なっていて読めなかった。
ペら、と一枚めくると、黒い点だけが描かれているページにたどり着いた。
目が離せないでいると点は徐々に大きくなっていき、その影から大きな黒い手が私の方に向かってきて――
「っ!!」
そこで正気に戻り本を手放した。ばさりと音を立て、また本が床に落ちる。
「な、なんだったの……」
いや、とにかく怪しい。早くこの本をしまってここを離れよう。もしかしたらネクロはもう用を済ませて先に待っているかもしれない。
再び手に取るのもはばかられたが、本を急いで空いている本棚に押し込む。何も無かったように見えることを確認して、私はその場を後にしようとした。が、本棚に入れた瞬間、その本からまた黒い手が伸びてきて、私の手首をがっちりと掴んできた。
な、なんなのこれ!!
とうとう恐怖で動けなくなってしまった。図書館で大声を出して助けを求めてもいいものか思案している間にも、黒い手の掴む力があまりにも強いので、手の色がどんどん青くなっていく。
「誰か助けて――!」
私がそう声を上げたのと、手首の圧迫感が消えたのはほぼ同時だった。
手首を見れば、黒い手は本ではなく別の場所に吸い込まれていっている。
視線の先を辿れば、そこには薄水色のウェーブがかったロングヘアを持つ女性が立っていた。
その人は黒い手を自身の持つキラキラとした小さな石に収め、私の方をしっかりと見据えてくる。
その瞳は、王様のように美しい七色の光を携えていた。