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西方の魔術師と、明かされる正体

月華草で、国は救われた。しかし、黒幕である西方の魔術師を討たねば、平和は訪れない。敵の正体を追ううち、私たちは、後宮の、ある意外な人物へとたどり着く。最も、無害だと、思っていた、あの人が…?

天龍様の、助けを得て、私たちが、持ち帰った、月華草は、まさに、奇跡の、霊薬だった。

その、花びらを、煎じた薬は、黒死病の呪いに、苦しむ人々を、瞬く間に、回復させた。明州の街は、活気を取り戻し、国中が、安堵と、喜びに、沸いた。

私は、「医聖」とまで、呼ばれるようになり、杏もまた、その功績を、称えられ、宮廷付きの、薬師として、迎えられることになった。

しかし、私たちの心は、晴れなかった。

天龍様の、言葉が、重く、のしかかる。「呪いの、根源を、断たねば、また、同じことが、繰り返される」。

黒幕である、「西方の魔術師」。そいつを、探し出し、討ち取らない限り、本当の、平和は、訪れない。

私たちは、再び、調査を、開始した。

趙宇が、集めた、西方諸国の、情報。杏が、解読する、古代の、文献。そして、私が、宮廷内の、情報の、流れを、洗い直す。

しかし、敵は、あまりに、巧妙で、その、尻尾を、掴むことは、できなかった。

そんなある日、私は、ふと、一つの、違和感に、気づいた。

それは、後宮の、書物の、貸し出し記録だった。

ここ、数年にわたり、ある、特定の人物が、西方の、古代魔術に関する、禁書を、頻繁に、借り出している。

その人物の名を見て、私は、我が目を、疑った。

「……そんな……。ありえないわ……」

その人物とは、後宮の、片隅にある、書庫の、管理を、任されている、初老の、文官、ワンだった。

彼は、いつも、物静かで、穏やかで、誰に対しても、腰が低く、後宮の、誰からも、好かれていた。派手な、権力争いなどには、全く、興味がない、ただの、本好きの、老人。それが、彼の、後宮での、評価だった。

彼が、あの、残忍な、事件の、黒幕? 信じられるはずがなかった。

しかし、一度、疑いの目を、向けてみると、いくつかの、不審な点が、浮かび上がってきた。

彼が、管理する、書庫からは、いくつかの、重要な、古代文献が、紛失していることが、わかった。

そして、彼が、時折、「故郷の、親戚に会う」と、言って、後宮を、留守にすることがあったが、その時期が、皇后や、景王が、毒を、手に入れていた時期と、奇妙に、一致するのだ。

「……確かめなければ」

私と、暁月は、その夜、密かに、王の、私室へと、忍び込んだ。

彼の部屋は、質素で、壁一面が、本棚で、埋め尽くされている。ただの、学者の部屋、そのものだ。

やはり、私の、考えすぎだったのか。

そう、思いかけた、その時。

暁月が、一つの、本棚の、違和感に、気づいた。

「……この、一角だけ、埃が、積もっていない」

彼が、その、本棚を、押すと、ゴゴゴ、と、重い音を立てて、壁が、回転し、隠し部屋が、現れた。

その、先にあったのは、私たちの、想像を、絶する、光景だった。

そこは、禍々しい、祭壇が、設えられた、秘密の、儀式場だったのだ。

壁には、おぞましい、悪魔の、紋様が、描かれ、空気は、濃密な、邪気に、満ちている。

そして、その、祭壇の上には、一体の、黒い、水晶が、置かれていた。その水晶を通して、遠く離れた、場所にいる、誰かと、交信ができる、魔道具だ。

私たちは、息を、殺して、隠れた。

やがて、部屋に、王が、入ってきた。

彼は、祭壇の前に、立つと、その、いつもとは、全く違う、冷たく、そして、狂信的な、表情で、水晶に、向かって、語りかけた。

「――我が、主、アスタロト様。黒死病の儀は、天龍の、妨害により、失敗に終わりました。申し訳ございません」

『……構わぬ、王よ。あれは、ただの、陽動に過ぎぬ。お前の、真の役目は、我が、この世界へ、降臨するための、ゲートを、開くこと。準備は、進んでおるか』

水晶から、聞こえてきたのは、地獄の底から、響くような、おぞましい、声だった。

「はっ。全て、滞りなく。数日後の、皆既日食の日に、後宮の、中心にある、龍の祭壇にて、儀式を、執り行います。さすれば、我が主は、この、穢れた世界を、浄化し、真の、支配者となられるでしょう」

『……うむ。期待しておるぞ、我が、忠実なる、僕よ』

全て、聞いてしまった。

王の、正体。彼は、西方の魔術師などではなかった。彼は、この国に、生まれ育ちながら、太古の、邪神、アスタロトを、崇拝する、狂信的な、魔術師だったのだ。

彼の目的は、この国を、混乱させることではなかった。この国を、邪神が、降臨するための、生贄の、祭壇に、することだったのだ。

「……許さん」

暁月の、体から、静かな、しかし、凄まじい、怒りのオーラが、立ち上る。

しかし、私たちが、飛び出そうとした、その時。

王が、くっくっく、と、喉を鳴らして、笑った。

「――いつまで、そこに、隠れているつもりですかな、陛下。そして、李妃殿」

気づかれていた!

王が、手を、鳴らすと、隠し部屋の、周囲から、黒い、ローブを、まとった、彼の、弟子である、魔術師たちが、姿を現し、私たちを、完全に、包囲した。

「全て、罠だったのですか!」

「いかにも。あなた様方が、いずれ、私に、たどり着くことは、わかっておりました。そして、ここで、あなた様方を、始末し、我が、儀式の、最後の、生贄と、させていただく」

彼は、その、穏やかな、老人の仮面を、脱ぎ捨て、狂気の、本性を、現した。

「さあ、始めようか。最後の、宴を」

絶体絶命。私たちは、敵の、本拠地の、ど真ん中で、完全に、孤立してしまったのだ。

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