天柱山の試練と、龍の伝説
幻の霊薬「月華草」を求め、私たちは霊峰・天柱山へ。しかし、そこは、神々の試練が待ち受ける、禁断の聖域だった! 古代の謎、精霊の妨害、そして、山の主である、伝説の龍。私たちの覚悟が、今、試される。
天柱山は、その名の通り、天を、柱のように、突き上げる、荘厳な、霊峰だった。麓から、見上げるだけで、その、神々しい、気配に、圧倒される。
古くから、この山は、神々の、住まう場所として、崇められ、人の、立ち入りを、固く、禁じられてきた、聖域だ。
「……ここから先は、馬は、使えない。自分たちの、足で、登るしかないよ」
杏が、案内役となり、私たちは、険しい、山道へと、足を踏み入れた。
しかし、この山は、ただ、険しいだけではなかった。
登り始めて、すぐに、私たちは、この山が、尋常な場所ではないことを、思い知らされた。
「……おかしい。さっきから、同じ場所を、ぐるぐる回っているようだ」
暁月が、眉をひそめる。
「山の、精霊たちが、我々を、拒んでいるんだ。ここは、彼らの、庭だからね。招かれざる客は、こうして、幻術で、追い返すのさ」
杏が、こともなげに、言う。
「じゃあ、どうすれば……」
「こういう時は、礼儀を、尽くすしかない」
杏は、懐から、小さな、布袋を、取り出し、そこから、乾燥させた、薬草を、一つまみ、取り出した。そして、それを、風に乗せて、飛ばしながら、古代の、祝詞のような、言葉を、唱え始めた。
すると、不思議なことに、私たちの、目の前に、かかっていた、靄が、すっと、晴れ、正しい、登山道が、現れたのだ。
「……あんた、一体、何者なんだ」
暁月が、改めて、杏を、見直す。
「ただの、薬師の娘だって、言ってるでしょ」
彼女は、悪戯っぽく、笑うだけだった。
私たちは、さらに、先へと、進んだ。
今度は、巨大な、岩の、ゴーレムが、私たちの、行く手を、阻んだ。
「山の、守護者だね。こいつは、力づくで、突破するしかない」
暁月が、剣を抜き、ゴーレMへと、斬りかかる。しかし、その、岩の体は、あまりに、硬く、剣が、通らない。
「陛下、下がって!」
私は、前へと、出た。そして、前世の、科学の知識を、応用した。
「杏さん、あなたの、荷物の中に、硫黄と、硝石は、ありますか!」
「え? ああ、あるけど……」
「それと、木炭を! それを、混ぜて、火をつければ……!」
私たちは、即席の、黒色火薬を、作り出した。そして、それを、ゴーレムの、足元の、岩の、亀裂に、仕掛け、爆発させた。
足場を、失った、ゴーレムは、バランスを崩し、崖の下へと、転がり落ちていった。
「……秀麗。お前も、一体、何者なんだ」
今度は、暁月が、私を、呆れたように、見つめていた。
数々の、試練を、乗り越え、私たちは、ついに、山頂へと、たどり着いた。
そこには、小さな、しかし、澄み切った、湖があり、その、湖畔に、ひっそりと、古びた、祠が、建っていた。
そして、その祠に、祀られていたのは、巨大な、龍の、石像だった。
「……これが、この山の、主。天龍様だよ」
杏が、敬虔な、面持ちで、言う。
伝説によれば、この龍は、古代、邪神と、戦い、その身を、犠牲にして、この国を、守ったという。そして、その魂は、今も、この山に、宿り、国を、見守っている、と。
「月華草は、この、天龍様の、力が、宿った、聖なる水でしか、育たない。湖の、どこかに、咲いているはずだ」
私たちは、手分けして、湖の、周囲を、探した。
しかし、どこにも、それらしき、薬草は、見当たらない。
そうこうしているうちに、日は、傾き、空には、満月が、昇り始めていた。
もう、時間がない。
焦りが、私たちを、包む。
その時だった。
湖の、水面が、にわかに、波立ち始め、そして、その、中心から、眩いほどの、光が、放たれた。
光が、収まった時、そこに、現れたのは、水で、できた、巨大な、龍の姿だった。
それは、伝説の、天龍が、私たちの前に、その、姿を、現した、瞬間だった。
『――何者だ、人の子らよ。我が、眠りを、妨げるのは』
その声は、直接、私たちの、頭の中に、響き渡った。
その、あまりに、神々しい、存在を前に、私たちは、ただ、ひれ伏すことしか、できなかった。
天龍は、私たち、一人一人を、その、叡智に満ちた、瞳で、見つめた。
そして、暁月を、見ると、言った。
『……ほう。お前には、王の、相が、見える。そして、その、魂には、友の、血の、香りがする』
「友……?」
『そうだ。かつて、我と、共に、邪神と、戦った、初代皇帝の、血の、香りよ』
暁月の、はるかな、祖先は、この、天龍と、共に、戦った、盟友だったのだ。
次に、天龍は、私を、見た。
『……そして、お前。お前の魂は、面白い。この世界の、ものでは、ないな。だが、その、魂には、濁りがなく、慈愛に、満ちている』
転生者であることまで、見抜かれてしまった。
最後に、天龍は、杏を、見た。
『……そして、お前は、我が、巫女の、末裔か。よくぞ、その、血を、繋いでくれた』
杏の、一族は、代々、この、天龍に、仕える、巫女の、家系だったのだ。
天龍は、全てを、お見通しだった。
「天龍様! どうか、お力をお貸しください! 今、地上では、邪神の、血の呪いが、人々を、苦しめております! それを、浄化するために、月華草が、必要なのです!」
暁月が、必死に、訴える。
天龍は、しばらく、黙っていた。そして、やがて、大きく、頷いた。
『……よかろう。我が、友の、末裔よ。そして、異界の、魂を持つ、娘よ。お前たちの、覚悟、確かに、見届けた』
天龍が、息を、吹きかけると、湖畔の、一角の、水面が、輝き始め、そこから、月光を、浴びて、青白く、輝く、一輪の、美しい花が、姿を現した。
「月華草……!」
私たちは、ついに、幻の、霊薬を、手に入れたのだ。
しかし、天龍は、続けた。
『だが、忘れるな。呪いの、根源を、断たねば、また、同じことが、繰り返されるだけだ。黒幕である、魔術師は、我が、力の、及ばぬ、西の、果てに、おる。……世界の、命運は、お前たち、人の子の、双肩に、かかっておるぞ』
天龍は、そう言うと、再び、水の、姿となり、湖の中へと、消えていった。
私たちは、月華草を、手に、この国の、そして、世界の、本当の敵と、戦う、覚悟を、新たにする。
私たちの、本当の、冒険は、まだ、始まったばかりだった。