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黒死病の呪いと、薬師の娘

南の港町を襲った、謎の奇病「黒死病」。それは、西方の魔術師が仕掛けた、呪いの疫病だった。特効薬もなく、絶望が広がる中、私は、一人の、風変わりな薬師の娘と出会う。彼女の持つ、古代の知識が、この国を救う、鍵となる!

南の港町、明州めいしゅうの惨状は、私たちの想像を、絶するものだった。

私と暁月は、身分を隠し、わずかな護衛だけを連れて、現地へと、急行した。街は、完全に、封鎖され、家々の窓は、固く閉ざされている。道には、人影もなく、ただ、不気味な、静寂と、死の匂いだけが、漂っていた。

臨時に、設けられた、隔離病棟には、次々と、病人が、運び込まれてくる。彼らは、高熱に、うなされ、その体には、黒い痣が、無数に、浮かび上がっている。医師たちも、なすすべなく、ただ、絶望に、打ちひしがれるだけだった。

「……やはり、ただの病では、ないな」

暁月が、険しい表情で、言う。

「ええ。これは、強力な、呪いの力で、生み出された、人工の、疫病です。通常の、薬では、治せません」

私は、前世の、栄養学と、この世界の、薬草学の知識を、総動て、対症療法を、試みた。免疫力を高める、薬膳スープを作り、人々に、配った。それは、病の進行を、わずかに、遅らせることはできたが、根本的な、治療には、ならなかった。

日に日に、増えていく、犠牲者。街は、パニックと、絶望に、覆い尽くされようとしていた。

私たちもまた、有効な手立てを、見つけられず、焦りを、募らせていた。

そんな時、街の、小さな診療所で、私たちは、一人の、風変わりな、少女と、出会った。

彼女の名は、アン。年の頃は、私と同じくらい。この診療所を、一人で、切り盛りしている、薬師の娘だという。彼女は、他の医師たちが、匙を投げた、この病に、果敢に、立ち向かっていた。

「……この病は、呪いだよ。それも、かなり、古い、タイプのね」

杏は、患者の、黒い痣を、見ながら、こともなげに、言った。

「わかるのですか?」

「まあね。アタシの家、ちょっと、特殊でさ。普通の、薬草学だけじゃなくて、古代の、呪術とか、そういうのも、代々、研究してるんだ」

彼女の、その言葉に、私は、希望の光を、見た。

「お願いです! 何か、この呪いを、解く方法を、知りませんか!」

私が、必死で、頼むと、彼女は、やれやれ、といった様子で、肩をすくめた。

「……方法は、一つだけ、ある。でも、ほとんど、不可能に近いよ」

彼女が、語ったのは、伝説上の、話のような、内容だった。

この、黒死病の呪いは、古代の、邪神の、血の、一滴から、生み出されたもの。それを、浄化するには、同じく、神聖な力を持つ、幻の、霊薬が、必要になる、と。

その名は、「月華草げっかそう」。

それは、百年に一度、満月の夜にしか、咲かない、と言われる、伝説の、薬草だった。そして、その、唯一の、自生地は、この国の、最も、険しい、霊山、「天柱山てんちゅうざん」の、山頂にしかない、と。

「……しかも、次の、満月は、三日後。今から、天柱山に、登っても、間に合うかどうか……」

絶望的な、話だった。

しかし、暁月は、諦めていなかった。

「……行くぞ、秀麗」

「え?」

「天柱山へだ。俺と、お前、そして、杏殿。三人で行く。他の者たちは、ここで、病の拡大を、食い止めてもらう」

「ですが、あまりに、危険です!」

「危険を、冒さなければ、この国は、滅びる。俺は、民が、死んでいくのを、黙って見ていることなど、できん」

皇帝としての、彼の、揺るぎない決意。

杏もまた、不敵に、笑った。

「……あんた、面白いね。気に入った。いいよ、付き合ってやる。アタシも、こんな、くだらない呪いに、負けるのは、癪だからさ」

こうして、私たちの、無謀な、冒険が、始まった。

皇帝と、妃(仮)と、そして、謎の薬師の娘。奇妙な、三人組の、パーティ。

私たちは、最速の馬を、駆り、天柱山へと、向かった。

しかし、その、私たちの動きを、遠くから、監視している、影があった。

西方の魔術師は、私たちが、月華草の、存在に、たどり着くことまで、計算していたのだ。そして、天柱山には、私たちを、始末するための、さらなる、恐ろしい罠を、仕掛けていた。

私たちは、まだ、知らない。この旅が、ただの、薬草採りなどではなく、この国の、古代の、秘密と、神々の、領域へと、足を踏み入れる、壮大な、冒険の、始まりになるということを。

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