表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

束の間の平穏と、新たな脅威

武王の反乱は鎮圧され、私と暁月の絆は深まった。しかし、彼の背後にいたという「西方の魔術師」の存在が、新たな影を落とす。束の間の平穏の中、私たちは、この国を蝕む、より大きな闇の正体を探り始める。

武王の反乱が鎮圧され、帝都には、血なまぐさい戦いの記憶も生々しいながら、束の間の平穏が訪れていた。私の命を賭した秘術によって、奇跡的に回復した暁月は、見せしめとして武王とその一派を厳罰に処し、弛緩していた宮廷の空気を一気に引き締めた。

そして、私は、名実ともに、彼の唯一無二の、かけがえのない存在となっていた。彼は、後宮の妃という立場ではなく、彼の最も信頼する「相談役」として、私を常に傍に置いた。

「秀麗。この国の財政について、お前の意見を聞きたい」

「まあ、陛下。わたくしはただの料理人ですのに」

「お前の、その常識にとらわれない視点が、今のこの国には必要なのだ」

私たちは、政務の合間に、薬膳茶を飲みながら、国の未来について語り合った。それは、皇帝と妃というよりは、志を同じくする、対等なパートナーのようだった。私の薬膳の知識は、今や、彼の体だけでなく、疲弊した国の「健康」を取り戻すためにも、役立てられていた。

しかし、私たちの心には、一つの大きな棘が、刺さったままだった。

武王が、捕らえられる直前に、言い残した言葉。「俺は、唆されただけだ。西方の魔術師に……」。

その魔術師が、誰なのか、どこにいるのか、武王は、それ以上、口を開くことなく、処刑された。景王も、誠王も、その存在については、何も知らなかったようだ。

「西方の魔術師……」

その言葉の響きは、私の胸に、嫌な予感を呼び起こした。それは、単なる、外国の密偵というだけではない、もっと、人知を超えた、不気味な存在のように思えた。

「おそらく、皇后や景王に毒の知識を授けたのも、その男だろう」

暁月は、険しい表情で言った。

「奴は、長年にわたり、この国の、水面下で、暗躍していたに違いない。目的は、なんだ。ただ、この国を、混乱に陥れることだけが、目的なのか?」

謎は、深まるばかりだった。私たちは、趙宇に命じ、西方諸国との交易商人や、旅人たちから、それらしき人物の情報を、極秘裏に、集めさせ始めた。

そんな、不穏な空気が漂う中、私と暁月の、個人的な関係は、より、深いものとなっていた。

ある夜、私は、彼の私室で、彼の傷の、最後の治療を、していた。私の生命力を分け与えた影響で、彼の体には、微かな光の粒子が、まだ、残っていたのだ。それを、完全に彼の体に、馴染ませる必要があった。

「……もう、良い。これ以上は、お前の体に、障る」

彼は、私の、少し青白い顔を見て、心配そうに言った。

「いいえ。最後まで、やらせてください。あなたの体に、わたくしの、力の痕跡が残っているのは、なんだか、落ち着きませんから」

私が、そう言って、少し、意地悪く微笑むと、彼は、顔を赤らめた。

「……お前は、時々、本当に、大胆なことを言うな」

彼は、私の手を、そっと、握った。

「秀麗。俺は、お前に、救われてばかりだ。この命も、この国も。……俺は、お前に、何をしてやれるだろうか」

「何も、いりませんわ」

私は、首を横に振った。

「あなたが、ただ、健やかで、そして、時々、笑ってくだされば。わたくしには、それが、何よりの、褒美です」

私の言葉に、彼は、愛おしそうに、目を細めた。そして、私の、指先に、そっと、口づけを落とした。

「……いつか、この国が、本当に、平和になったら、その時は、お前を、后として、迎えよう。いや、必ず、迎える。だから、それまで、俺のそばにいてくれ」

それは、彼の、不器用で、しかし、何よりも、誠実な、誓いの言葉だった。

「はい、喜んで。暁月様」

しかし、その、束の間の、甘い時間は、新たな脅威の、到来によって、破られることになる。

数日後、趙宇が、血相を変えて、私たちの元へ、駆け込んできた。

「陛下! 大変です! 南の港町で、原因不明の、奇病が、発生しました!」

その病は、感染力が、非常に強く、罹った者は、高熱にうなされ、やがては、黒い、痣のようなものが、全身に浮かび上がり、死に至るという。

そして、その症状は、私が、かつて、文献で読んだ、ある、禁断の呪術――「黒死病の呪い」に、酷似していた。それは、人の手で、人為的に、生み出される、最悪の、疫病だった。

「……西方の魔術師か」

暁月の、呟き。

敵は、今度は、武力ではなく、疫病という、見えざる刃で、この国を、内側から、滅ぼそうとしている。

私たちの、新たな戦いが、今、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ