47.イキシア視点・アマリリスとのお茶会
休日のルーティンは、早朝に起きて訓練所を走り、汗を流してから朝食、勉強。昼食前に1時間ほど剣の訓練で体を動かし、昼食後は陛下である父についてまわっている。
現場の空気に慣れるようにという配慮からだが、慣れるというより退屈だ。毎回似たような話題で言い合って、飽きないのかなと思ったりする。
ただ今日は、お昼から月に1回あるアマリリスとのお茶会があるので、割と時間に融通が効く。少しのんびりできるかもしれない。
このお茶会は必ず2人っきりでと決めている。何を言われてもお願いされても、他の誰かを招待したことはない。もちろん婚約者になった時から欠かしたことはない。
訓練所を走りながら、日差しが強くなったから室内がいいが、白狼を連れてくるだろうから庭の方がいいかもと悩んでいたら、予定よりも大分と早くアマリリスが到着した。
訓練所まで伝えに来てくれた侍女に、白狼の様子を尋ねてみたら、アマリリス1人だけだと返された。
手紙に連れておいでと書いたのに、一緒に来なかったようだ。白狼がいないならと、庭に面している応接室に案内するように指示をした。
部屋に戻ろうとしている時でよかった。でなければ、僕の訓練が終わるまで侍女は待機していただろうから、アマリリスを長い時間待たせてしまうことになる。
私室に入ってドアを閉めてから、小さく息を吐き出す。
「エビネ、可能な限り早く終わらせるよ」
「お任せください。全てご用意しております」
「すごいね」
「アマリリス様の行動は予測済みですので」
無駄に顔をキリッとさせるエビネに苦笑いを向け、ボタンを外しながら浴室に入っていく。
行儀が悪いと分かっているが、今は仕方がない。エビネも何も言わず、脱いだ服を受け取ってくれる。
簡単に汗を流し、シンプルで清潔なシャツとズボンを身に纏う。
浴室が出ると、窓から外を眺めているイクシャに声をかけた。
「イクシャはどうする? 一緒に来る?」
『行かないほ』
アマリリスのことが好きじゃないようで、イクシャはアマリリスに近付こうとしない。元々避けていたのは知っているが、先日の武術大会後はっきりと拒絶するようになった。
怪我をした僕が悪いんだけど、アマリリスの心配は異常だった。アマリリスの瞳には、イクシャや擦り傷一つない僕が映っていないようだった。
彼女は一体、何を見ているんだろう。
「侍女にフィナンシェを持ってくるように言っておくよ」
『いらないほ。フリージアに会いに行ってくるほ』
イクシャに「分かったよ。気をつけるんだよ」と伝えながら窓を開けると、イクシャは嬉しそうに飛び立っていった。
空に溶けていくその姿を眺めてから、窓を開け放ったままアマリリスがいる応接室に向かった。
応接室に到着すると、ソファに座っていたアマリリスが立ち上がって駆け寄ってくる。
「ごめん。待たせたよね」
「いいえ。私がイキシア様にお会いしたくて、早く来すぎてしまったんです。急かしてしまい、申し訳ございませんでした」
「気にしなくていいよ。アマリリスとお茶会の日は予定を入れていないからね」
身を縮めているアマリリスに優しく微笑みかけると、アマリリスは安心したような笑みを溢した。そして、数歩下がって、スカートが広がるように回った。
「夏の新作なんです。いかがでしょうか?」
「似合っているよ」
「ありがとうございます」
アマリリスを座っていたソファまでエスコートし、僕は対面のソファに腰掛けた。エビネは僕の後ろに立ち、控えている侍女がお茶を淹れてくれる。
「アマリリス。今日、白狼はどうしたの?」
「気分が乗らなかったみたいで、動きたくないと言われました」
「そうなんだ。昨日、外で遊びすぎたとかなのかな」
「そうだと思います。毎日、追いかけっこをして大変なんです。私、日焼けして真っ黒になっちゃいそうでます」
両手を握りしめて頬を膨らませているアマリリスに、「怪我しないようにね」と伝えると、わずかに悲しそうな顔された。
だけど、他にかける言葉が思い付かない。きっと今の会話は、全部嘘だろうから。
アマリリスの目を盗んで、白狼と話して色々分かったことがある。
白狼とアマリリスの出会いは、アマリリスから聞いていたものと違っていた。山で蝶々を追って遊んでいた時に誰かに眠らされ、次に起きたらディセルファセカ公爵邸だったそうだ。山に帰ろうとしても帰れず、屋敷から出ようとしてもアマリリスがいないと出られないらしい。
僕が巨大猿に攫われた時、白狼を呼ぼうとしていたが、あれは演技だったんだろうか。
次に、白狼が嫌がる名前を変えてあげたくて、イクシャの名前を考えている時に「アマリリスも考え直してみる? 白狼にはカッコいい名前が合うかもでしょ」と提案してみた。でも、アマリリスは「白狼が気に入っている名前がマッシュちゃんなんです」と微笑んだ。すかさず白狼は怒っていたが、「気に入ってるもんね」と白狼に言っていた。
予想していたが、アマリリスは僕が白狼と話せるとは微塵も思っていないようだ。そして、僕と同じ紫色の瞳なのに、アマリリスは白狼以外と話せないということだ。
前回のお茶会の時もおかしかった。白狼にケーキでもと用意させたが、アマリリスが止めていた。白狼は食べたがっていたのに、アマリリスが「嫌いなんです」と断ってきた。
影の報告書には、ディセルファセカ公爵邸でアマリリスと白狼は一緒にいないと書かれていた。
何もかもが衝撃だった。
それでも変わらず微笑んでいる自分が信じられないし、アマリリスには笑っていてほしいと思う気持ちに偽りはない。
ただ、どうしようもなく悲しくはある。
12:10にもう1話更新します。




