45.アセビ視点・橋渡しをしたかった
5つのグループのバトルロワイアルが終わり、飲み物や食べ物、椅子等が置かれた控え場で5人で会話を楽しんでいる。
大人数が出場する武術大会の控え場所は、闘技場の横の更地に設置されており、今はもう16人になったため広々している。残った16人全員が各学年のSクラスの生徒だ。
武術大会はどう戦うかを見られているだけなので、トーナメントに進出できなくてもスカウトされる。だから、どうせSクラスの生徒がトーナメント進出すると分かっていても、みんな参加するのだろう。
最後の1人でトーナメントに進出できたツワブキが戻ってくるなり、ツワブキの背中を叩きながら喜びを分かち合っていた。ツワブキは、握りしめた手をじっくりと見ていて、とても浮かれていると分かった。
彼は表情が乏しいけれど、纏う空気で喜怒哀楽がはっきりと感じられる。
バトルロワイヤルでもトーナメントでも魔導師対騎士は当たり前だから、ここ1週間は私と模擬試合をしていた。本当に毎日頑張っていたから、進出が決まって私も嬉しい。
飲み物をもらい、隅にある椅子に座りツワブキと感想を言い合っていたら、クフェアが話しかけてきた。
「お前、平民なのにスゴイな」
クフェアの「平民なのに」という言葉の中には、指南してくれる騎士や訓練場所が揃っていないのにという意味がきっと含まれていて、尊敬の気持ちが込められている。
「ああ、ありがとう」
ツワブキが勘違いをしたら正そうと思ったけれど、きちんと分かったようだ。だから、落ち着いた声でのお礼なんだと思う。
「アセビは通ると思ってたぞ」
「クフェアもね」
クフェアは、歯を見せて笑いながら、近くにあった椅子を引き寄せて腰を下ろしている。
常々「クフェアとツワブキの橋渡しをしたい」と思っていたチャンスがやってきた。
魔法が好きな私・殿下・ローダンセと剣術好きなクフェアが話す時、どうしても魔法寄りの話を多くしてしまう。クフェアは話に乗ってくれるが、積極的に加わってはこない。
嫌なら、週1で催される4人の夕食会に参加しないだろう。でも彼は、いつも眩しいばかりの笑顔で参加してくれる。
その友情が嬉しくて、クフェアと同じ剣術バカのツワブキを紹介したかった。
「クフェア、飲み物はレモン水でよかったですか?」
「レモン水がよかった。サンキュ」
ローダンセがクフェア分の飲み物を持って現れた。殿下も一緒にいる。2人は先程のクフェア同様に、椅子を引き寄せて腰をかけている。
「1年生では私達だけですね。健闘しました」
「ローダンセ、これからが本番だろ」
「私は戦いに向いていませんから。1回戦で負けると思います。私の分も頑張ってください」
「僕は1回は勝ちたいかな」
「殿下も弱気だな。まぁ、それも仕方ないか。決勝は俺とアセビだろうからな。負けねぇぞ、アセビ」
「勝つのは私だよ。どうしても空飛ぶ絨毯は譲れないからね」
「アセビ様、俺も絨毯狙ってる。優勝する」
まさかツワブキも絨毯を狙っているとは思わなくて、ツワブキの顔をマジマジと見てしまった。
「あんなのが欲しいのか? 俺が優勝してもやるよ」
「助かる」
「んー、私が優勝したらフリージアにと思っているからね。先に謝っておくよ」
「それでいい。俺もフリージアにと思っている」
「フリージアさんには騎士が2人もいるんですね」
クスクス笑っているローダンセに、ツワブキはゆっくりと首を横に振った。
「何かあれば友だから守るが、アサギがいるからな。俺の手は必要ないだろう。でも、だから危ないんだ」
ツワブキの言葉の意味が分からなくて首を傾げた。クフェアたちは、話の続きを促すようにツワブキを見ている。
「あいつが絨毯を欲しいのは、学園と実家を行き来するためだ」
「そうだね。交通費がかからなくて済むって言ってたからね」
「そこだ。もし絨毯がなければ、どうすると思う?」
「普通に帰るんじゃないでしょうか?」
「いいや、あいつはアサギに乗って帰るだろう」
「「はぁ!」」
つい大声を上げながら、クフェアとローダンセと共に立ち上がってしまった。ずっとにこやかに聞いていた殿下だけは、口元を手で隠して肩を震わせている。
「フリージアは頭がいいのに能天気だ。白竜を喚んだことの意味を分かっていない。どれだけ凄いことをしでかし、どれだけ自分が特別な瞳を持っているか理解していない」
ゆっくりと腰を下ろすクフェアが、ツワブキの言葉に首を捻っている。
「でもよ、だからって白竜に乗ろうと思うか?」
慎重に座り直すと、ローダンセも私につられるように腰を掛けなおしていた。
「フリージアの中で、白竜は伝説上の生き物ではなくなっている。家族だと思っている。だから、白竜が国の上空を飛んで、どうなるかの考えに至らないんだ。それにもう、一度乗っているしな」
確かにそうだね。フリージアは恐れ多いことに、白竜の背に乗っているんだよね。白竜が乗せていたから、フリージアは普通に「乗れるんだ」くらいにしか思っていなさそうだよね。
「ダメな理由を説明してあげればいいんじゃないでしょうか?」
「もちろん絨毯を渡せなかったら止めようと思っている。でも、俺はフリージアに苦笑いをしてほしくない」
「好きなのか?」
「いいや、7歳になる妹と同列だ」
「妹かよ! でも俺、お前を気に入ったわ」
歯を見せて笑うクフェアに、ツワブキが頷いている。
私が願っていた通り、この2人が友人になれそうでよかった。夕食会にも呼びたいが、ツワブキが王宮に来てくれるかどうか。気張らなくていいと言っても緊張するだろう。それでは楽しくない。でも、殿下は簡単に外出できない。悩ましい問題だ。
「まぁ、5人いるんだから誰か優勝するだろ」
「でもね、クフェア。君と僕は優勝してもあげられないよ」
「殿下は欲しいなら買えばいいだろ」
「そうじゃなくて、優勝商品が婚約者以外の女の子の手に渡ったら、どうなると思う?」
「あー、だめだ。猛烈にキレられる……すまねぇ……」
クフェアが太ももに肘で体重を預けて項垂れた。
12:10にもう1話更新します。




