4.アマリリスからのお誘い
授業が始まって1週間ほど経った。わたしは、基本ガーベラとツワブキと共に行動をしている。放課後だけは、勉強がしたいわたし・のんびりしたいガーベラ・稽古がしたいツワブキというように別々に動いている。
ありがたいことに、ヒソヒソ話はされるけど、直接何かを言われたり呼び出されたりしていない。話すこともないので、無視されたり言いがかりもつけられていない。このまま平和に過ごせたらいいなと思う。
食事は、昼食のみならず、学生寮でとる食事もガーベラと一緒に食べている。
本当に、初日に声をかけてくれたガーベラは神様かもしれない。食事の時間も楽しく過ごせているのは、ガーベラのおかげだ。伝えたら、神様のモノマネとかしてくれるかもしれない。想像しただけで笑いそう。
ツワブキも入寮しているけど男子寮なので、当たり前だけど朝夕は共に食卓を囲むことはない。
お昼休みになり、わたしはいつものようにガーベラとツワブキを誘って昼食に行こうとした。
「あ、あの……」
遠慮がちに声をかけられ振り返ると、アマリリスが両手をモジモジさせている。
仰天のあまり目を点にさせてしまったのは許してほしい。だって、頭の中はパニック状態だ。
どうして話しかけてきたの? わたし、何かしちゃった? 目が合わないように、アマリリス達のこと見てすらいないよ? お互い平和に生きたいんなら、無関係でいるべきだと思うんだよね? 違う?
違うのか、そっかー。腹割って話したい系? それでもいいけど、今じゃない方がよかったな。ものすっごく目立ってるもんね。
それに、公爵令嬢に話しかけてほしい人は、たくさんいると思うよ。その人達に「平民が」って言われるのは、わたしなんだよねぇ。ここまで平和だったのは、目立たず空気に徹していたからなんだよ。転生者なら分かるよね?
脳内でワーワー狼狽えている小さいわたしを落ち着かせ、次の言葉を待ってみるが、アマリリスからは何も発せられない。
えー、なにこれ。わたしにどうしろと? このまま注目を浴びて、目立ちたくないんだよぉ。早く終わらせて消えるのが1番だよね。おし! 行くぞ!
「何かご用でしょうか?」
周りが五月蝿くなったが、他に尋ねようがないし、冷たく聞こえてしまったのなら謝ろう。緊張しているんだよ。ここで行動を間違って、何かのフラグを立てたくないの。だから、ねぇ、どうして声をかけたのか教えて。
ってかさ、ゲームの悪役令嬢と違いすぎて、転生者で間違いないんだなって再確認できたよ。ありがとう。
たださ、ただ、わたしからヒロインを奪ったんだから、もっと堂々としてほしいなぁって……はい、ごめんなさい。文句じゃないです。考えるほどの時間が、返事を待っている間にあったせいです。
ああ、すみません。これも不満とかじゃないです。ちょっとアマリリスを観察する時間があったもので、強気女子じゃなくて守られ女子なのかなって。何歳の子が転生してきて、こんなにモジモジしているのかなって。もし同年代だったら、「はっきりせいや!」ってツッコみたくなるとこでしょ。
アマリリスを見守るように佇むイキシア殿下達にも、わたしに話しかけた理由が分からないのだろう。助け船を出せないように見える。
「あ、あの! よかったら一緒に食べませんか?」
あっぶない!「は?」と言いそうになった。わたし以外も目を丸くしているから、表情を崩したことは許してもらえそう。さっきから崩しっぱなしだけどね。それそれ、これはこれ。
捻くれているって言われても問題ないよ。わたしは捻くれてくる! って、心臓に毛が生えているような、わたしの性格はどうでもいいのよ。
今は、「は?」とも「あ?」ともとれる言葉を漏らしてしまうと、さすがに怒られたなって場面でさ。だから、本当に出なくてよかった。両親にまで危害が及ぶかもしれないもんね。怖すぎる。
気を取り直して、わたしは丁重に頭を下げた。
「申し訳ございません。わたしは食堂で昼食をとりませんので、辞退させていただきます」
機会があればなんて言わないよ。一緒に食べたくないもの。だってさ、憧れの高位貴族グループに、平民が入ってみなさいよ。「身の程知らず」って絶対に虐められるんだよ。わたしはそれを耐えるしかないの。同じ平民なら殴りかえ……違うな、蹴りか……これも違うな。話し合って分かり合えるかもしれないけど、貴族相手にそれらはできないでしょ。
「お弁当ですよね。食堂でも食べられますよ」
お、おう。話したことがないわたしの情報を、ここでさらっと出しちゃうの? なんで知ってんの? ってなるよ。誤魔化しようなくない?
だってさ、特待生は食事代も支援してもらっているって、結構な人数知ってると思うよ。それなのに、わざわざお弁当を持参しているっておかしな話でしょ。大丈夫? 「たまたま見かけたんです」って言えるくらいの1人時間が、お昼休みの間にあるの?
ちなみに、わたしが朝食の残りを学生寮の食堂からもらってお弁当にしている理由は、学園の食堂では和やかに食べられないから。どこに行くのも注目の的になっているから、食堂でも視線が痛くなるはずだからね。ガーベラとツワブキも同意見で、2人も同じようにお弁当を持参している。




