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33.推しというトキメキは急速充電と同じ

謁見室を出て少し歩いた所で、イキシア殿下が重たい息を吐き出した。


「なんだかごめんね。楽しく過ごしてもらいたかったのに、まさかあんな言い合いになるなんて」


わたしの願い虚しく、信じられないほど近くで大好きな声が聞こえる。


その会話は今じゃないといけなかったのだろうか。こんなの顔に力を入れたところで、意味を成してくれない。止められるわけがない。


突然、歩みを止めたイキシア殿下に、軽く手を引っ張られた。


「本当にごめん。慣れている僕でさえ憂鬱なのに、君はもっと嫌だよね。ディセルファセカ公爵が会いたいって急に言い出して、それなら大勢いた方がいいかってなったんだ。公爵だけなんて変でしょ。だけど、何度も断ればよかったよ。本当にごめん」


イキシア殿下は、後ろをついてきていたエビネからハンカチを受け取り、わたしの頬に当ててくる。流れてしまっている涙を、染み込ませるように拭き取ってくれるなんて、正真正銘の王子様すぎる。


「殿下……」


「うん、ごめんね」


「近くで話されると困ります」


「え?」


「自分の声の良さを自覚してくださいよ。もう本当に素敵すぎるんですよ。ああ、ヤバい。これ、鼻血もんだよ。耳が幸せすぎて、他の音聞きたくない」


2回の高速瞬きを3回も繰り返したイキシア殿下は、盛大に吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。近くで待機していたエビネも、肩を震わせながら小さく笑っている。数歩離れていて、はっきりと聞こえなかった護衛騎士達だけが呆然としていた。


「慣れてよ」


「話す分には慣れるよう頑張っていますよ。でも、近くで話すなんて裏技みたいなことされたら、無理ですよ」


声をあげて笑い続けているイキシア殿下の目尻には、涙が溜まっている。


『私は、あなたの気持ち分かるほ』


『我には分からぬ。小娘は頭のネジが飛んだのか?』


「鳳凰、嬉しい。アサギ、私は正常よ」


三度お腹を抱えたイキシア殿下の笑いがようやく収まり、深呼吸しながら「久しぶりに笑ったよ」とスッキリしたような顔で、微笑みながらハンカチを渡してくれた。


まだ止まってくれない涙を拭いながら、友達の距離感で肩を並べて、庭園に向かって歩みを再開する。


「さっきの謁見は、本当にごめんね」


「あれくらい大丈夫ですよ。文句を言う人は、絶対いるんですから」


「強いね」


「んー、強いっていうより、性格曲がってるんです。そこに体力も気力も使いたくないから、全部聞き流すんです。労力は大切な人達に使いたいですしね」


「それって曲がっているの?」


「はい。殿下みたいに真っ直ぐな性格の人は、全部を受け止めちゃうから、しんどいんだと思いますよ。優しすぎるんですよ」


「僕の場合は立場上ね。嫌だとも逃げたいとも思わないけど、時々誰にも会わず殻に籠りたくなるよ」


「籠ればいいんですよ。殿下の心を守れるのは殿下だけなんですから、休むために籠ればいいんです。何も考えない時間って大切ですよ」


わたしは割と、人と居る時間が好きな方だ。でも、それと同じくらい1人で居る時間が好きで必要だ。何も考えず、ただ好きな物だけを噛み締める時間は、心に栄養をくれ、笑う元気や動く力をくれるから。


きっと心は、充電式の電池と変わらないんだと思う。充電しながらだと電池に負担がかかるように、心と頭を同時に使い続けると疲労が溜まる。だから、頭をオフにし、赴くままに心を感じる時間が大切なんだ。


たぶん、推しというトキメキは、急速充電と同じなんだろうな。あれほど短時間でフルパワーにしてくれる刺激的な感情はないもの。


「許してもらえないから」


「何言ってるんですか」


誰も言ってあげないのなら、わたしが休息方法を教えてあげようじゃないか。


「命令しちゃえばいいんですよ。王子様」


「暴君になっちゃうね」


「誰彼構わず殺したら暴君ですけど、休日を用意しろくらいで暴君になりませんよ。仕事をサボらなければ、性格に少し難があったとしても問題ありませんしね。それに、殿下には素晴らしい声があるじゃないですか。カバーできます」


キョトンとした後、愉快そうに笑っているイキシア殿下の顔色は明るい。さっきと今と大笑いしたことで気分転換ができ、吐き出したことで心が軽くなったのかもしれない。


ゲームの中の王子様だと思った気持ちは、もう消え失せている。


「声は君限定だよ」


「わたしが好きすぎるのは認めますが、鳳凰だって好きだって言ってたじゃないですか。きっと周り人達全員思ってますよ」


『我は分からぬ』


「アサギは天邪鬼なんです」


人差し指を立てながら言うと、アサギに尻尾で人差し指を叩かれた。不機嫌な面持ちにも関わらず、叩いてくる強さは戯れる程度だ。


アサギの行動に愛しさが込み上げてきて「可愛い」と抱きしめると、アサギは満更でもない顔をした。


わたしとアサギが羨ましかったのか、鳳凰がイキシア殿下の頬に体を擦り付けた。口元を緩ませたイキシア殿下は、「鳳凰も可愛いよ」と鳳凰を撫でていた。






次話で王城でのお話は終わります。

今週短かった分、来週は少しだけ長めになる予定です。


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