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3.友達

滞りなく入学式が終わり、皆一様に教室に向かって移動をはじめている。イキシア殿下達がいるだろうところは、団子状態で人が埋もれている。押し合い圧し合いで、誰かが窒息してもおかしくないほどだ。


貴族は貴族で大変そうだな。怪我しないようにね。


中々進まない塊を横目に、そんなことを考えながら、わたしは一足先に会場を後にした。


教室に向かっている最中に、後ろから誰かに肩を叩かれ、「平民だからって理由で、もう虐められるのかも。やだなぁ」と心の中で息を吐き出した。顔には出さないよ。いちゃもんつけられたくないならね。


「はい」


微笑みながら振り返ると、髪の毛の表面がオレンジで内側がピンク色のボブヘアの愛々しい女の子がいた。ニッと歯を見せて笑っている口から、八重歯が覗いている。瞳は赤色だ。


「うち、ガーベラ。自分、噂の聖女候補やろ?」


関西弁? は? なんで? ゲームでは登場しなかった人物が、わたしに接触してくるとは何事? そんなことあるの?


「聖女候補とかの話は聞いたことないですけど、噂になっているのはわたしだと思います。フリージアと申します。よろしくお願いします?」


冷静に返すが、心の中は動揺しまくりである。


「なんで疑問形なん? よろしく! でいいやん。それと、敬語やめてや」


ガーベラのお日様のような笑みに一瞬キョトンとしてしまったが、わたしは笑顔で頷いた。


誰かに笑いかけてもらえるのは、単純に嬉しい。変に緊張していた気持ちは消え失せた。


今後どうなるかは分からないが、今は正直に喜んでいいはず。楽しいことを遠ざける必要はないはずだ。


「クラスメートかどうか考えたのと、わたしと仲良くすることで、ガーベラ様が嫌味言われるのは嫌だなって思ったのよ」


「ガーベラでええよ。様なんて気持ち悪いわ」


「わたしもフリージアで」


並んで歩きながらも、2人の会話は止まらない。


「それは当たり前。そうしようと思ってた」


「ええ! そこはお伺いを立てるとこじゃないの? 聖女候補なんでしょ」


「うわー、そういうん嫌いやわー」


わざと嫌そうに舌を出すガーベラと目を合わせ、同時に吹き出した。


ほんの少ししか話していないけど、絶対に気が合う。だってもう、こんなにも楽しい。


王立ブルーム魔法学園で、しかも貴族部の敷地内で、笑い合える相手がいるとは思っていなかった。声をかけてくれたガーベラには、すでに感謝している。


「あ、クラスメートかどうかやんな。うちら同じクラスやと思うよ。赤色の瞳まではSクラスって聞いたから」


「嬉しい! ガーベラ様、どうかフリージアをよしなにしてくだせぇ」


「うむ、苦しゅうない苦しゅうない」


また顔を合わせ、一拍置いた後に声を上げて笑った。


「フリージアと話してみようって思って、正解やったわ」


「ありがとね。本当に嬉しい」


「うちも嬉しいわ。このクソ学園でも楽しく過ごせそうやもん」


「クソ学園なの?」


シナリオ通りに進んだら、めちゃくそに虐められるわたしにとってはそうだとしても、ガーベラまでも「クソ」だと思っているとは不思議だ。


「うちもな、平民やねん。オクナ・セラルタ商会知ってる? そこの娘やねん。やから、平民部ちゃうくって貴族部に入れられたんよ。貴族と繋がってこいって言われたわ」


「知ってる! ものすっごく大きな商会だよね。わたし、誕生日の時だけ買い物させてもらってるよ」


「今後もご贔屓に」


「もちろん」


何度も笑顔になれ、会話のテンポが合っている。まるで昔からの友達のように感じるほど、心地がいい。


わたしが虐められたらガーベラとは距離を置こうと思って、さっきは今後どうなるか分からないって考えたけど、ガーベラとは一緒に過ごしたいな。どうにか虐められないように立ち回るしかないよね。わたしも友達と青春したいもんね。


「フリージアは、なんで貴族部なん? 嫌ちゃうかった? 貴族の顔色窺うん面倒やん」


「わたし、選択肢なかったんだよね。陛下から、貴族部って決められた手紙と、学園に必要な道具一式送られてきたの。神官様に聞いたら、こっちの方が高度な勉強できるんだって。だから、その点では有り難いかな」


「そっかー。まぁ、平民部の方に橙色と黄色以外がおったら、おかしいんかもな」


会話からも分かるように、王立ブルーム魔法学園は貴族部と平民部に分かれている。貧富の差という理由ではなかったが、不思議なことに貴族と平民とでハッキリと瞳の色が分かれているのだ。貴族で黄色の瞳をしている者は滅多にいないし、逆に平民では橙色の瞳でさえ重宝されている。魔力の保有量の違いで、貴族と平民が自然と分かれているだけになる。


だが、平民と同等を嫌がる貴族もいるので、分かれていてよかったのかもしれない。変に虐められなくて済む。ゲームではまさに、平民なのに緑色の瞳という理由でフリージアは虐められていた。


それに、貴族部は指定の制服や鞄を必要とするが、平民部では自由だ。授業料も変わってくるらしい。貧乏な貴族は可哀想だが、金銭が絡んでくる点でも分かれていて平民的にはよかっただろう。


ちなみに、フリージアは授業料や学生寮などの費用は免除されている。平民だと桃色以上の瞳であれば、国からの支援で通えるようになっているのだ。特待生扱いになるのだ。


ただフリージアのように貴族部に決定というわけではなく、どちらに通おうとも支援してもらえる。だから、ガーベラも支援されているはずだ。それを裏付けるように、陛下の贈り物の話に対して驚いていなかった。


Sクラスに到着すると、教室の中の数ヶ所でされていた内緒話の声が大きくなった。わたし達が入ってきたせいもあるが、遠巻きにされている1人の男の子も原因だろう。


ガーベラが率先して、その男の子の横に座るものだから、わたしもガーベラの左側、男の子の2個隣に腰を掛けた。


陰口なんか気にしないよ。わたしだってされているもん。巻き込むのは嫌だけど、巻き込まれるのは面倒だからって避けたりしないよ。わたしはお姉さんだしね。いざとなったら、緑色の瞳を盾に守ってみせるよ。


赤色の瞳を静かに前に向けている男の子は、ツーブロックの髪型をしていて、上部は淡い黄色で、刈り上げている部分は緑色をしている。


「なぁなぁ、自分も平民やんな?」


ガーベラが、男の子に話しかけている。男の子はゆっくりと顔をガーベラに向けると、表情を変えないまま話しはじめた。


「自分とは、俺のことか?」


「他におらんやん」


「そうか。その問いなら、俺は平民だ」


「うちも親友のフリージアも平民やねん」


突如ガーベラに肩を組まれたが、嫌な気分にはならない。むしろ親友と言われて、心が浮き足立った。嬉しい。


「うちはガーベラ。今年は、貴族部に通う平民は3人だけやねんて。仲良くしような」


「そうなのか。分からないことを誰に聞けばいいのかと悩んでいた。助かる」


「うんうん、3人で乗り越えてこ」


「俺の名前はツワブキだ。騎士を目指している」


「わたしはフリージア。よろしくね」


頷いてくれるツワブキに、わたしは笑顔を返した。


クラスは瞳の色重視で決められているので、3年間クラス替えはない。1人ぼっちの3年だと身構えていただけに、初日から話せる相手が2人もできて、緩んでしまった頬が戻せそうにない。


生徒達がぞろぞろと教室に入ってきたと思ったら、イキシア殿下御一行様と、御一行様を取り巻いている人達だった。


イキシア殿下を見るつもりで顔が動いたわけではなかったが、タイミングよく視線が重なってしまった。


昔会ったことを覚えていてくれたようで、懐かしそうに微笑んでくれた。


「ファンサされた」と手を振りたいほど有頂天になったが、本当にするほど馬鹿じゃない。小さく頭を下げておいた。これで不敬にはならないはず。


下げた頭を上げた時、酷く怯えているアマリリスが視界の端に引っかかった。


今はもう綺麗に微笑んでいるけど、辛そうな表情をしたような気がする。きっと見間違いではないはず。


はじめから関わるつもりはなかったけど、さっきのやり取りだけで不安になるのなら、絶対の絶対に主要メンバーには近付けないな。


というか、もうこの世界は、アマリリスが主人公だと思うんだけどな。それでもやっぱり「自分は悪役令嬢だから」って不安は拭えないものかな。


まぁ、学園生活がメインのゲームだったもんね。怯えちゃうか。わたしだって、逆に断罪されたくないって怖気付いているんだしな。


うん、アマリリスが築き上げた関係を壊したいわけじゃないし、2人の恋愛のスパイスにだってなりたくないもんね。やっぱり関わらないのが1番だな。






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