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16.白狼

静かに自分の行く末を待っていると、巨大猿は洞窟に入っていった。進んでいくと広場のような空間があり、空間の脇には光る石が生えている。


その場所に投げ捨てるように放され、地面にぶつかった時に「ぐえ」と蛙が踏み潰されたような声が出てしまった。


巨大猿は、舞うような足取りで洞窟の更に奥へと消えていく。


逃げなければいけないと分かっているが、今はそれよりも、尻餅をついているわたしの横で、口元を隠して笑っている人物が問題だ。


「殿下。この状況で、よく笑えますね」


「だって……ふふ……ぐえって……ふふふ」


「びっくり痛かったんです」


「でも、女の子が……ふふ……」


相当面白かったのか、イキシア殿下の笑いは収まらない。


問題の人物には軽く文句を言えてスッキリしたので、光る石が気になってきた。痛いお尻を気遣いながら立ち上がり、光る石に向かって歩き出す。


「動くと危ないよ」


「でも、逃げるにしても、灯りがないと外に出られそうにありませんから。光を灯す魔法、まだ覚えられていないんですよね」


「僕は覚えているけど、逃げない方がいいんじゃないかな」


イキシア殿下も立ち上がり、近くにやってくる。


「どうしてですか?」


「目が薄ら光っていたから分かったんだけど、ここまでの道なりに何匹も魔物がいたんだよね。僕達だけで動いたら、襲いかかってくると思うんだ」


「それは怖いですね」


「本当にそう思ってる?」


「全然です。何だか非現実すぎて、夢じゃないかと思っています」


肩を揺らして笑うイキシア殿下の声に耳をくすぐられながら、最後に聞くのが大好きな声なら幸せなのかもと思った。


でも、その思いとは裏腹に、今世も両親より先に死んでしまうことに後悔しきれないから、どうにか生き延びてやるという気持ちも溢れている。


まずは、広場を探るしかない。だから、謎の石を調べる。決して興味本位だけで動いているわけではない。


「綺麗な石ですね。辞書に載っていたかな?」


「僕も初めて見る石だよ」


イキシア殿下が話しながら、人差し指で石を叩いた。すると、ハープのような綺麗な音色が響いた。


「素敵ですね。楽器にするには勿体ない石ですけど、神殿で神様に捧げると喜ばれそうな音ですね。淡い光が、本当に綺麗です」


「うん、綺麗だね」


光る石を覗き込むようにしていた体を起こし、壁や天井に視線を巡らせるが、どこにも隠れられそうな場所はない。広場から出られそうな通路は、来た道と巨大猿が去っていった道のみ。


正直、詰んでいる。


「どうしましょうか?」


「猿を待ってみよう」


「そうですね。逃げようありませんしね」


「それもあるけど、あの猿は僕達に危害を加えないような気がするんだ。何となくだけどね」


「じゃあ、もし食べられそうになったら、わたしが殿下を守りますよ」


「どうやって?」


「わたしの方が美味しいって説明をします。それで、丸呑みしてもらって、中から殴るんです。そうすれば、わたしのパンチでも効きそうじゃないですか」


また肩を揺らして笑い出したイキシア殿下の髪の毛から、雫が落ちた。光る石の幻想的な光で見えているイキシア殿下は、ずぶ濡れだった。


大雨の中、誘拐されたんだから当たり前だ。なのに、光る石に近付いて、はっきりと姿が見えるまで気付けなかった。


このままでは風邪をひいてしまう。——でも、苦しそうな声も素敵なんだろうな——と妄想してしまったイキシア殿下の苦しむ声の幻聴を頭から追い出し、わたしは急いでカッパを脱いで、鞄からタオルを取り出した。


タオルをイキシア殿下に差し出すと、朗らかな笑顔で「ありがとう」と受け取ってくれた。


「あ、殿下。飴ちゃんありますよ。食べますか?」


「飴ちゃん?」


「はい、飴ちゃんです。甘いのは嫌いですか?」


「ううん、食べるよ。飴に『ちゃん』が付けられたから、聞き間違いかと思っただけ」


「ガーベラや、あのツワブキだって、飴には『ちゃん』を付けますよ」


「文化の違いってやつなのかな」


言われてみればそうだ。貴族の人達が、「この飴ちゃん美味しいですわよ」なんてお喋りしているイメージはない。きっと平民文化なのだろう。


光る石の横に座り、レモン味の飴を舐めていると、ドシンドシンという音が奥から響いてきた。巨大猿が戻ってきたようだ。


迎え撃つわけではないが立ち上がり、巨大猿がやって来るのを待っていると、巨大猿が大きな白い狼を案内するように姿を現した。


「白狼……どうして……」


無意識に零れたしまっただろう、イキシア殿下の言葉に同意だ。なにせわたしは、固まりすぎていて言葉にできなかっただけなのだから。


白狼というか、白い獣は、その種族の王に君臨する生き物だ。だから、一種族につき必ず一生命のみになる。


自然界の法則に則り、クレロデンドロン王家も代々白い髪を持つ者がいれば、必ずその者が王位を引き継ぐことになる。白い髪の者が国を治めた時代は、約束されたように繁栄している。


ただ人間で白い髪を持つ者の誕生は珍しく、100年以上現れていないらしい。だから、混じり色はあるがイキシア殿下が白い髪で生まれてきた時、1週間続けて国中でお祭り騒ぎだったそうだ。


人間の話は置いといて、今注目すべきは白狼になる。わたしはまだ見ていないが、アマリリスが白狼と使役契約をしているはずだ。


あの子が、アマリリスが契約をした白狼なのかな? でも、イキシア殿下の震える声を聞いた限りでは、違うような気がする。


こちらに向かって来ている白狼は、フラつくように歩いていて明らかに弱っている。使役契約をした魔物は代わりに戦ってくれるのだが、あの白狼だと攻撃も防御も難しそうに見える。


そういえば、どうしてアマリリスは白狼を喚び出さなかったんだろう? 白狼なら巨大猿1匹、あっという間に倒してくれそうなのに。


やっぱりあの白狼が、アマリリスと使役契約をした白狼なのかな? 弱っているから喚び出せなかったとかかな?






来週も2話投稿します。


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