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15.ホリホック山のイベント

校外学習を行う日がやってきた。ゲームでは、フリージアが白狼と出会うイベントが起こる日だが、白狼はアマリリスがすでに見つけている。それに、わたしもまだ治癒魔法を習っていない。だから、何も起こらない日のはずだった。


学園とワープゲートで繋がっているホリホック山に到着し、数人のグループになって薬草採取をするようにと指示された。もちろんわたし達は、いつもの4人で作業をする。


全学年通して課外授業の課題は、自分達で採った薬草を使用して、魔法薬作りを成功させるというもの。


今回作るのは、痒みを止める軟膏薬。面白味はないが、基本中の基本の製薬手順を踏む薬になる。それに、姿変えの薬とかは2年生にならないと習えない。1年生は、基本の薬を繰り返す授業ばかりになる。


「毎日、課外授業がいいわー。教室での授業、退屈やねん」


「のんびりできるっていいよねぇ」


「気持ちは分かるけど、探してからゆっくりしようよ」


「俺も、アセビ様の意見に賛成だ」


「まぁ、後から慌てるん嫌やもんな。それに、天気もおかしいしな」


「森に入ってから曇りだしたもんね。雨降ったら嫌だなぁ」


重い腰を上げ、先に軟膏薬には欠かせないエニーアルの実を探すことにした。木に巻きつく蔓に実る、りんごのような赤い果物がエニーアルの実だ。


エニーアルの実を摺り下ろし、絞った汁と精製水を混ぜ、薬草を入れて煮込む。この時に魔力を込める必要がある。薬草を取り出し冷やせば、痒み止めの軟膏薬が完成する。


エニーアルの実はすぐに見つけることができ、次にサレデシ草を探す。紅葉のような葉で、腰くらいまでの低木に所狭しと生えている。陽の当たる場所を好む植物のため、明るい場所を探せば難なく見つけられる。


最後に探すのは、モモルー草。花に混じりひっそりと生えている三つ葉で、薬になる三つ葉は葉の中に濃い緑色の点が7つあるもののみ。今回の授業での最大の難関だろう。


7つの点のモモルー草を探している時に、珍しい模様のモモルー葉を見つけた。持ち帰って栞にでもしようと、丁寧に教科書の間に挟んだ。


人数分の材料を全て見つけることができたので、鞄の中に忍ばせておいたお菓子と飲み物を片手に、川の畔で休憩をとることにした。


「余裕で終わったねぇ」


「薬作るんは、学園戻ってからやもんな。終了時間の狼煙上がるまで、ホンマに自由やわ」


「フリージアが、次から次へと見つけてくれたから助かったよ」


「だてに毎日勉強していないな」


「その代わりわたしは戦えないから、魔物に襲われた時は、毎日頑張っているツワブキに守ってもらうからね」


「もちろんだ。みんなを守ってみせる」


「私も魔法で加勢するよ」


「心強いな」


「うちは大声で応援するわ」


「それは必要ない」


すかさず「なんでやねん」とガーベラがツッコミ、みんなで笑い合った。ツワブキは「静かにしていないと危ないからだ」と伝え、「それなら我慢するわ」とガーベラも納得していた。


「ん? 何か聞こえへん?」


耳を澄ませようとした時、顔に水滴が当たった。とうとう降ってきたようで、慌てて荷物を片付け、持ってきていたカッパを身に纏う。カッパにあたる雨音が、雨脚の強さに比例して大きくなっていく。


「早く戻ろう。激しくなったら、道が分からなくなる」


アセビの言葉に全員で頷き合い、来た道を辿って帰ろうとした。突如、緊急を知らせる狼煙が斜め前方で上がり、緊張が張り巡らされる。


各グループに1つずつ持たされた赤い狼煙は、教師に助けを求めるものだ。


ホリホック山に住む魔物は少なく、冒険者や学園の教師陣が定期的に見回りをして排除しているため、1年生でも気軽に歩ける山になる。


その危険ではないはずの山で上がる救援信号に、自ずと唾を飲み込んでいた。


「私は助けに向かうよ。みんなは周囲に気をつけて、早く戻ってほしい」


「俺も行こう」


「うちも行くよ。もし怪我しただけやったら、人手欲しいやろ」


「状況の確認をして、先行して先生に知らせに向かう人員も必要だと思うしね」


「分かったよ。でも、私が先頭を歩くからね」


また頷き合い、アセビを先頭に一列に並んで歩き出す。


狼煙が上がった場所に近付くにつれて、激しさを増す雨音の合間に、木々が倒れる音や草が踏み潰されているだろう音が聞こえてくる。魔物と戦っている線が濃くなり、アセビの速くなる足に合わせて距離を詰めていく。


急に立ち止まったアセビは、右手を上げ、その手で腰を屈めるように指示をしてきた。


慎重にしゃがみ、草むらの隙間から戦っている場所を覗き見て、息を飲み込んだ。


魔物に襲われていたのは、イキシア殿下達のグループだった。熊よりも大きい猿と対峙しているのはローダンセとクフェアで、アマリリスとカルミアは後方で支え合うように座り込んでいる。イキシア殿下はというと、体に巨大猿の尻尾が巻きつき囚われている。


みんなと顔を見合わせ、視線と身振り手振りで合図を送り合う。アセビは魔法で、ツワブキは携帯していた剣で加勢を、わたしとガーベラは急いで状況を伝えに行くことになった。


それぞれが動き出そうとした時、ローダンセとクフェアの剣を踊るように避けていた巨大猿の視線が、隠れているわたしを捉えた。


恐怖や悪寒を感じる暇はなかった。ニタッと笑った巨大猿が、口を大きく開け、雄叫びを上げたのだ。


巨大猿の咆哮した声が、耳が痛いほどに甲高くて、咄嗟に頭を下げ、手で耳を覆った。


「「フリージア!」」


切羽詰まったみんなの声に目を開けると、視界は濡れている高級な毛皮だった。


首を傾げていると、真横を氷柱のような氷の塊が通り過ぎていく。頭上から「キキッ」と聞こえ、自分が巨大猿の腕に抱かれていると理解した。


なんて、本当は目を開けた時から分かっていたが、認めたくなかっただけだ。でも、遠くなるみんなの声に腹を括るしかない。


自分は、巨大猿に攫われているのだと。


攻撃魔法をまだ習っていないわたしに、逃げる術はない。習っていたといても、すばしっこい巨大猿相手に初心者のわたしでは勝ち目はないだろう。つまり、大人しくしていることしかできないということだ。






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