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11.最高にいいじゃん

「あ、はい。わたしの興味があることを、みんなが面白いって言ってくださいましたので」


「ふーん。それは、昨日の話にも関係しているの?」


「えっと、そ――


「昨日とは、何かあったのですか?」


慌てた様子のアマリリスに遮られて、喉の奥を詰まらせてしまったように言葉が途切れる。


「わたしが話しているだろ」とか「被せてくるなや」とか全く思わない。注目を浴びている今、ここで泣いてしまうかもしれない危機を脱出させてくれたアマリリスに感謝している。


ありがとう、アマリリス。わたし、声が好きなだけだから、あなたの邪魔はしないよ。安心してね。


問われたイキシア殿下は、心許なさげに表情を歪ませるアマリリスの手を取り、柔らかく叩いた。


「どうしたの?」


「お話を遮ってしまって、すみませんでした。イキシア様のことが好きすぎるあまり、昨日何があったのかと興味が湧いてしまいました」


「昨日、図書館で偶然会ってね。魔法の話を少しだけしたんだよ。アセビが好きそうな話題だったから、お昼休みに話したんだ。そういえば、丁度アマリリス達はデザートを取りに行っていた時だったかな。何個も持ってきたから驚いている間に、アセビが消えていたから」


「あ、あれは、どれも美味しそうだったんです。揶揄わないでください」


「ごめんごめん」


クラスメートの皆さん。色めき立っている声、もう少し抑えてくれないかな。今、大事なところなのよ。BGM設定があるなら、絶対に下げてるわ。


ゲームでは恋人期間をすっ飛ばして結婚だから、最後甘々の声で誓いの言葉とリップ音があるだけで、普段の恋人に向けての声色は入ってなかったんだよね。


だから、新発見。イキシア殿下は、恋人に対して柔らかくて優しい口調で話す。アセビと話す時より、僅かだけどゆったりしている。ゲームの好感度が高い時と比べて、甘さが足りないような気がしなくもないけど、みんなの前と2人っきりの時とで違うってことでしょ。あー、なにそれ。最高にいいじゃん。


まぁ、わたしは聞けないんだけどね。前世は失恋女王だったからか、イキシア殿下とアマリリスの仲に割って入れないことくらい分かるのよ。


ん? 失恋女王っていうのは、いいなと思う人には常に相手がいて、フリーだって思って頑張っても「友達にしか思っていなかった」って言われる(ことごと)く恋愛運がないわたしのことを、友達がそう命名したんだよ。「おおい!」って全力でツッコんだよ。いい思い出だ。


ってか、あれか? アマリリスに転生した人、麗しい乙女だったのかな? だから、イキシア殿下の気持ちが分からなくて、好感度に対して不安があるのかも?


そんな声色で話しかけられているんだから、大丈夫だよ。わたしが動いたら噛ませ犬にしかならないって、声から分かるから。


なんたって、わたし、声は妄想で補えるっていう特殊能力を、前世で取得しているからね。声が聞きたいからって、友達になろうとさえしないよ。声よりも命の方が大切だもの。本当に安心してくれていいよ。


※わたしも彼氏がいたことがないということは、あえて触れません。悪しからず……


「2人が立ったままだと申し訳ない気持ちになるから、席に戻ってほしいかな」


今気付いたが、アセビはイキシア殿下に敬語を使っていない。相当仲がいいようだ。


「そうだね。僕はいいとして、アマリリスに悪いことをしたよ。またお昼休みにでも情報交換しよう」


「ごめんね。これから私は、お昼フリージア達と魔法研究の話をするから、庭園のお弁当組に混ざるよ」


「敵情視察はできないのか。手強いね」


イキシア殿下は小さく笑いながら、アマリリスと自席に戻っていった。アセビは手を振っていて、座ったままこっちを眺めていたローダンセとクフェアが軽く振り返している。


手を振り終わったアセビが、イキシア殿下達側に背中を向けるように肩肘をついた。表情を消した面持ちを、わたし達に向けている。


「めんどくさ」


聞いてはいけない言葉が耳に届いて、豪快な音を喉で鳴らしてしまった。喉が若干痛い。ガーベラからも息を詰まらせるような音が漏れていたので、お互い背中を撫で合った。


は? え? 仲が良いと思っていたけど、違うの? 本当は一緒にいたくなかったとか? いや、でも、そんな雰囲気じゃなかったよ。


あれかな? 貴族のしがらみみたいなものを、鬱陶しいと思っているとか? 本人は仲良くしたいだけでも、「あの人はダメ。この人はいい」みたいなこと、上位貴族になればなるほどありそうだもんね。


「大変なんだな」


「ツワブキ、そうちゃう。今のは聞こえへんフリせーなあかんねん」


「そうなのか? ばっちり聞こえたぞ」


「聞こえたよ。そりゃもう、わざと聞かせてるんかと思うほどやったよ。でもな、関わったら、うちらまで面倒臭いことに巻き込まれるんよ。嫌やろ?」


「嫌だな」


ガーベラは小声で話しているが、ツワブキはいつでもどこでも変わらない音量だ。


ツワブキらしいと言えばらしいが、わたしはガーベラに1票だよ。聞き耳を立てているだろう煌びやかな人達に聞こえたら、確実に「平民が生意気な」になるからね。


ただ、アセビにまで聞こえないとかは感じ悪いからね。友達にすることじゃないよね。アセビには聞こえる声量は大切。


というか、ガーベラは、アセビに対して「わざと聞かせている」っていう意趣返しをしたのかも。話題を提供した本人は、愉快そうにクスクス笑っているんだから、「めんどくさ」は本当にわざと聞かせてきたんだろうな。


「フリージアもそう思うの?」


アセビに尋ねられて、正直に答えることにした。濁したり誤魔化したりするのは、平民だからと見下さずに友達になってくれたアセビに失礼になる。それにアセビとは、ガーベラやツワブキと同じように親友になれる気がするから。ノリが似ているもんね。


「うん、嫌だよ。貴族のゴタゴタに巻き込まれたら、路頭に迷っちゃうもの。でも、アセビ様はもう友達だから、愚痴くらいは聞くよ。意見はできないからね。それでもいいなら、4人の時だけ何でも言っていいよ」


ガーベラが「ホンマに4人の時だけやで。うちら味方したくても、味方できんのやから」と、口の左右に手を立てて小声で訴えている。


わたしが嫌だと言った時は少しだけ目を伏せたアセビだったけど、今は破顔している。目尻を下げ、口元を緩ませている姿が、籠から解き放された鳥のように活き活きとしていた。






毎日1話ずつ投稿は本日で終わりになり、次話から毎週月曜日1〜2話投稿に変わります。

(明日が月曜日ですので、明日12時と12時10分に予約投稿します)


皆様、本当にここまで読んでくださり、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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