26
❖
HappyLuckyRabbits——通称ハピラビ。
メイド喫茶ラビットウォーク所属のメイド五人組——兎人のネネ、ルル、猫人のミーミー、狐人のルノ、竜人のイスカ、計五名で編成。
通常のお給金に加え、特別手当も支給される彼女らは、ミスリル級の傭兵や冒険者並みに稼げる、ファルデア王国にて人気のお仕事である。ただし、他のメイド喫茶や執事喫茶の数だけ、ハピラビのような者たちが活動しているので、水面下では中々に苛烈な争いが行われている。
ちなみに、メイド喫茶も執事喫茶も、商工ギルドからの補助金が、他の職種よりも何故か少しだけ高い。
❖
「…………」
「…………」
「…………」
「……ふむ、中々だな」
その言葉に、そこに張り詰めていた空気が弛緩する。そこは、アーフェンボルク公爵別邸にて、執務を司る空間、執務室。
「そ、それでは、御用がございましたら、お呼びください!」
硬い表情と動きの狐耳メイドがお辞儀をして、執務室を出ていく、その後ろには、トコトコと歩く三ツ首の小さな黒龍。
そんな一人と一頭を眺めるのは、スキンヘッドの男と、藍色の髪の壮年男性。
足音が遠ざかり聞こえなくなると、藍色の髪の壮年男性が口を開く。
「——給仕作業を覚えて約一月だったか?」
「そうらしいですなぁ、宰相殿から見て?」
「まだ粗い、が、光るものがある。総じて及第点だな。我が家ならば、見習いとしてすぐに声をかけよう」
「流石に、宰相殿でもそれは——」
「わかっている。精霊神さまの同胞に手を出すなど、世界の全てを敵に回すようなもの。そのような愚は犯さぬ」
全くですなぁ、と相槌を打つスキンヘッドの男——ガノス=アルランディの方は一切見ずに早々と、しかし、問われればきっちりと答えながら書類仕事をこなす藍色髪の壮年の男性こそ、先代アーフェンボルク公爵、ノルド=アーフェンボルク、その人である。
なぜ、この二人が同じ空間にいるのか。その理由を端的にまとめるならば、精霊神ソーマの行動の結果である。
「傭兵ギルドグランドマスターからの早馬、何事かと思えば想定の外側の報。最高神の一というのは、伊達ではないということだな」
「ちなみに、宰相殿の想定の外側って、なんだったんで?」
「ふむ、そうだな……やはり大精霊の儀だな」
「つまり、それ以外は——」
「——想定内だ。強いて言えば、セルゲイ=ガーデスの生存が読みにくいところではあったのだが……」
「すると、宰相殿はバルシアの件を——」
「うむ、ほぼ完全に把握していた」
「ほぼ……やはり異能持ちの存在が?」
「その通りだ。奴ら、異能だけは厄介だからな……実に忌々しい」
ノルドの言葉に、確かに確かに、と大きく頷くガノス。実際のところ、この二人に限らず、異世界人の異能、彼ら彼女らが言うところのチートには、この世界の住人からすると、あまりに厄介な性質を、全ての異能が共通して有していることにある。
「——王城やら貴族の屋敷やらで使用可能な魔道だと思うと、実に厄介ですからなぁ」
異世界人の異能は、この世界のいかなる場所でも使用可能である、基本的には。
「——要人の集まる場所で魔道を使用可能な環境のままにしておくなど浅慮の極み、正気ではない。危機管理意識の自発的な欠如を良しとするとは、愚かとしか言いようがあるまい」
「魔法魔術はおろか、呪術のようなものまで使えるとか、ヤバすぎますからねえ」
「セルゲイ=ガーデスの一件が分かりやすい。あの戦闘貴族が、ああも簡単に操られる。と、なれば——」
「なるほど、帝国の上の方は、すでに?」
「そういうことだ。おそらくだが、支配系の呪術に似た異能使いは他にもいる、それも、より強力な奴、もしくは、奴らか。例の捕えた異世界人だけがその手の異能を使用可能ならば、もう四、五人は精霊神さまが捕縛してくださったであろう」
「あー、なるほど、確かに。本当に大事なものなら、無防備にするわけが無いですなぁ」
二人が語る言葉は、この世界の常識。
この世界には魔素が満ちている。それ故に、魔素を用いることで事象を再現、現出することが可能であると気づいた瞬間から、その道が、この世界に拓かれた。
魔素と共に生きる道——魔道という概念が、この世界に定着したのである。
つまり、この世界の者は、魔素と共に生きているという考え方が、ルールに等しい感覚として、この世界の生物の本能として、魂に刻まれている。だからこそ、魔素を要しない異能という力の存在を、考え方としても、感覚としても、本能としても、忌避する。
異能とは、基本的にはどこでも使用可能なのだが、それは例えば、王侯貴族などが集まると場所でも可能だ。
逆に、魔道技術に関しては、ある一つの魔道技術を除いて、使用不可能となる。要人の暗殺や誘拐、洗脳などの対策として、国の要人が集まるような公的施設や王侯貴族が暮らす屋敷などに、魔素の流入を停止する特殊な技術が商工ギルドによって施されることで、魔道は完全に禁止となる。それは、たとえ最高神であろうとも例外にならない。
これらは全て、無用不要なトラブルやアクシデントを減らすためである。
異能使いである異世界人は、トラブルやアクシデントそのものであると、この世界の住人から認識されてしまったのである。




