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精霊神——並行世界を含めた全ての三次元世界の安定を主目的とする十二の最高神が一たる存在。
三次元世界内に存在する全ての星内での治安維持活動が、精霊神の役割。星単位での治安維持を担うため、分体と呼ばれる活動体が、星それぞれに宛てがわれる。
精霊神の特性として、全ての分体の経験が共有されるため、相応の戦闘経験、相応の魔素が、常時その身に蓄えられる。
原初の三次元世界を最高神の方々が創造されてから現在に至るまでに経過した年数は、43093061063721835073838819776444549241306597687849648122308286173904286年となり、当該惑星における数の最高単位である不可説不可説転を超える年数が経過している。
定命の存在にとって無限に等しい年数分の戦闘経験と魔素を分体の数だけ蓄積、共有している精霊神に勝てる存在は皆無に等しく、まさに最強と呼ぶにふさわしい存在。
精霊神は最強である。
精霊神ソーマ——【※警告※ 現在の貴方の権限では、レベル5以上の情報閲覧は許可されておりません】。
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「——ママ、だーいすき♡」
「そ、そうか……」
藍色の髪を肩口に切り整えた長身の美女の腰に、銀髪金眼の絶世の美少年が寄り添い、仲良さげに道を歩いていく、その美しい光景。この二人は親子か、はたまた姉弟か、そんなことを考えながら周囲の人々は、感嘆の意を込めながら息を吐く。
ただ、当然といえば当然なのだが——
「——っっっ!?」
「不憫すぎるだろ、カレン姐……」
「重畳重畳、精霊神さまが楽しそうで何よりである……素晴らしい……」
この二名の素性をよく知る者からすれば、ただただ異常な光景でしかなく。
人によっては——傭兵団『赤き餓狼』団長にしてファルデア王国屈指の傭兵ダグラス——大笑い。人によっては——アダマンタイト級傭兵、双翼のエレノア——同情。人によっては——オリハルコン級冒険者、深智のエルス=ファ=アルート——感激と、あまりに混沌極まる、その状況。
どスケベエロガキ精霊神ソーマ考案『美人母と美人息子のイチャイチャ♡ラブラブデート』の被害者となったのは、彼女——ファルデア王国北方の城塞都市アルカイズ都市長にして、ファルデアの鮮血女帝の名で知られる、王国最強の軍事力を有す大貴族、現当主——カレン=アーフェンボルク公爵、その人である。
そんなわけで精霊神さま御一行は、現在、ファルデア王国中央に位置する、ファルデア王国最大の都市——王都ファーディスへとやってきた。
そのきっかけは、一週間前、ファルデア王国北方の城塞都市アルカイズでの一幕にある——
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「やだやだやだやだやだー!!」
「そ、そこをなんとか——」
「ボク、頑張ったもん!マジメに働いたもん!いい加減、イチャイチャしたーい!ラブラブさせろー!あ、飲み物ちょーだい♪」
「はい、どうぞ……美味しいですか?」
「うん、冷えててイイ感じ♪」
「……これは、イチャイチャなんでは?」
「レナはボクのメイドさんだもん!ノーカウント!それはそれ、これはこれだよ、ガノスくん!とにかく、ボク、最近働きすぎ!」
城塞都市アルカイズ傭兵ギルドのギルドマスター専用執務室、通称ギルマス部屋のソファにて、精霊神ソーマが駄々をこねていた、専属狐耳メイドのレナに膝枕してもらいながら。
スキンヘッドがトレードマークの彼——ファルデア王国傭兵ギルドを統括するグランドマスターであり、王国に五名しか在籍していないアダマンタイト級傭兵のひとり——ガノス=アルランディは、中々どうして困っていた。
そもそも、何故、彼が精霊神との交渉を担っているかもガノス自身、よくわかっておらず、精霊神ソーマ曰く——ボク、ガノスくんのこと、気に入ってるんだもーん♪——という、素直に喜んでいいのかわからない答えが返ってきたことで、わりと頭痛の種になっている。
ちなみに、ここ一ヶ月のガノスは、何かから解放されたように上機嫌だったが、一昨日から、ズーンと沈んだ表情を見せている。
「そうはおっしゃいましても……あー、エレノアとのデートは——」
「え、温存だよー♪ここぞという時にデートするんだ〜♪」
「な、なるほど……アーフェンボルク公の例のアレは——」
「断られたー……今、忙しいって」
「なるほどなるほど——」
それもそうだな、とガノスは思う。ガノスがそんなことを思った理由は、精霊神ソーマが言うところのマジメに働いた結果にある。その内訳は以下の通り。
ミーティアル帝国未開領域ベルヌス湿地帯の主討伐からの未開領域解放。
ミーティアル帝国内に存在する奴隷たちを、ダスクード大陸東部、大森林地帯へと導く。
異世界人アカネ=フジタの捕獲。
剣聖レヴァス、魔龍ベルヌス、大精霊の儀。
ミーティアル帝国第六皇子エレン=ミーティアル、セルゲイ=ガーデス侯爵両名の、ファルデア王国への亡命。
ガーデス侯爵領都バルシアに商工ギルドが代官を派遣、政務調査開始(実質、占領状態)。
二日前、アルカイズに帰還した精霊神さま御一行。エルスから手渡された報告書を読み終えたガノスは、ため息をひとつ、たった一ヶ月で、なんてことをしでかしてんですか、精霊神さま!?と、ガノスが思わずツッコミたくなるほどの凄まじい成果なのは間違いない。
ガノスは、一ヶ月ぶりの頭痛に襲われながらも、何故か、口元が緩んでいた。




