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ミーティアル帝国三公——建国前より帝国を支える三大名家。蒼獅子、白雷、緋灰の異名で知られる三つの公爵家。
帝国の公爵家は、それぞれが国境地帯を治めている。蒼獅子が東、白雷が西、緋灰が北。
三家それぞれに、侯爵以下の地方貴族たちが寄騎として傘下になっているため、相応の軍事力を有しており、他国からは大公のような見られ方をするが、あくまでも君主は皇帝、忠義は帝国にある。
公爵家は、戦闘貴族。有事の際、死兵となった時の軍事力は、破滅級すら凌駕する。
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「——蒼獅子は変わりませんねぇ」
「ですねぇ……ホント暑苦しい……」
「あら、そこが可愛らしいのに……」
「うげぇ……ルニスさま、趣味悪くない?」
「そうかしら?そんなことは無いと思うのだけれど……ニーナは、どう思うかしら?」
「ふぇ?わ、私ですか?」
「ふふっ、もうニーナったら——」
ルニスと呼ばれた美しい女性——薄緑色の長い髪から長い耳をぴょこぴょこと振るわせるように動かしながら、ニーナと呼ばれた同じく薄緑色の髪と長い耳が特徴的な少女の口周りを、綺麗な白布で拭いていく。どうやらニーナはうたた寝をしていたようだ。
「あわわわっ!?」
「ほら、綺麗になったわよ、ニーナ……」
「ル、ルニスさま……」
「なるほど、これが百合ってやつね……なるほど……」
「百合、ですか?お花の?」
「なんでもあっちの世界じゃ、今のルニスさまとニーナみたいに、女同士であんなことやこんなことを楽しむらしい。で、それを百合って呼ぶらしい」
「あ、あんなこと!こ、こ、こんなこと!?」
「あらあら、男性が苦手な女性もいらっしゃいますし、素敵な考え方ですわね。シルファもわたくしと、百合、いたしますか?」
「あー……ルニスさま、意味、絶対わかってないでしょ?」
はぁぁ……と深くため息をつくシルファもまた、薄緑色の髪と長い耳をした少女。そんなシルファにキョトンとした表情を向けるルニスと、顔を真っ赤に染めたニーナ。
ルニス、シルファ、ニーナの三名全員が、とある国の、とある組織に身を置く者たち。
「——今、戻った」
その三人の元に、音も無く現れた長耳緑髪の男性。ルニスたちに慌てた様子も見られないことから、その男性が、ルニスたちの仲間であるのは容易に想像がつくだろう。
「あら、エルードさん、おかえりなさい。みなさんの様子はいかがですか?」
「衰弱しきってるな、当然だが」
「そうですか……可哀想に……」
「今は解除中だ。じきに回復するだろう……シルファ、シエルからの追加報告は?」
「あと六つほど、こっちに向かってるっぽいですね」
「そうか……で、ニーナはどうした?」
「あー……乙女心は複雑って感じですね」
「……そうか——」
現れた時と同じように、音も無くその場からエルードがいなくなる。
「逃げたな、エルードさん」
「エルードさんは働き者ですねぇ……わたくしたちも負けてはいられませんね」
「いや、ルニスさまは、ここで待機してるのがお仕事だから」
「ああ、そうでしたわ。みなさんをお迎えしなくてはいけませんね」
「ですです、その通りです——」
「——ル、ルニスしゃまと、あ、あんなこととか……こ、こんなこと……あ、痛っ!?」
「お帰り、ニーナ」
「うぅ……痛いよ、シルファちゃん……」
仲睦まじく姦しい彼女らの周囲には、同じように和やかな雰囲気の男女が、約五〇〇名——平原の向こう側に陣取る者たちに対抗する形で、その場に現れた約五〇〇名である。
現在、フェルニス大平原を二分し、その両端に陣取る二つの勢力がある。
西——ミーティアル帝国貴族東方の大貴族、ラズィファーク公爵領軍約五千騎。
将は、カイン=ラズィファーク。
そして、東——
ダスクード大陸東部、大森林地帯に興った、大陸で最も旧き国。大森林地帯に存在する七つの氏族の中から選出した代表を国主とする国。精霊神を崇める精霊の民が興した、ダスクード大陸最強の軍事力を有する国。
——アルマーダ森王国。
かの国では、週に一度、武人としての強さを評する序列戦が行われ、序列二千位までが、とある部隊の一員として認められる。
その部隊の名は、近衛衆。現在、大平原東端に陣取る者たちのことである。
将の名は——ルニス=シ=フェルネード。
彼女こそ、ダスクード大陸最強の軍事力を有する国であるアルマーダ森王国、最強部隊である近衛衆、序列第一位の武人。
またの名を、竜槍ルニス。世界より、誉れ高き『槍王』の称号を授かり、今のダスクード大陸で、神の座に最も近い武人である。
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斯くして、事件は幕を閉じる。これは、ひとつの城塞都市に起こったスタンピードを発端とした、名もなき事件の顛末である。
ファルデア王国とミーティアル帝国、この二つの国の長き因縁に終止符が打たれる戦いが始まる日は近い。
舞台は整った。
これより始まるは、悪しき魔王をうち滅ぼすべく、女神から力を賜った勇者を名乗る者らが、数々の障害を、女神の力を使って乗り越える物語——本来は。
だからこそ、設定が加えられた。
そして、条件が達成されたのだ。
世界の邪悪の根源たる大魔王へと成り代わった三千世界を超越する精霊の神が、悪しき魔王を演じさせられていた心優しき魔族の王に代わって、勇者気取りの愚か者らに誅を下す。
悲劇を終わらせる物語、その一幕が始まりを迎えた。
精霊神ソーマ、武力介入を開始する。




