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負けてもいいよ高校生だし  作者: 奥羽大曲
3/4

過去の俺に喝を与えたい

モヤモヤは晴らしておかなければ常に心の一部を蝕む。面倒だけど、あの転校生、天風結衣に聞いてみよう。

不幸か幸いか、彼女は俺が教室に来ると話しかけてくる。こっちから行動する必要がない点は良い。


「ねぇ、俊光くん。」

「…あのさ、聞きたいんだが。」

「!?」


驚いたような表情、そりゃこっちから聞きたいんだがなんて言えば驚くに決まっている。今までキャッチボールでこっちからボールを返したことはなかったが、今初めてこっちからボールを返して正真正銘のキャッチボールを始めたのだから。


「なんで俺に執着するんだ?転校生だからみんなと仲良くなりたいっていうならわかるんだが、なんで俺にそんな来るんだ?」

そう言うと彼女は少し表情を曇らせ

「忘れちゃったんだ…」

と呟いた。そう言われると過去に会っているのだろう。記憶は全くないが。

「すまんな、俺そんな記憶力良い方じゃないし。」

将棋をやる奴が記憶力悪いかと言われるとそうではない。ただ興味がないから記憶にないだけだ。

「昔、小学校三年生の頃、石川に来てたでしょ?」

「石川…」

そういえば、確かに石川県に行った。確か将棋のタイトル戦で羽川善晴が挑戦するから羽川家とその時預けられていた俺で観に行った。俺の家は何故か羽川一家には甘かったので、家族では味わえなかった旅行を何度か楽しめたのだが…

「その時、私不良に絡まれてたの、それを俊光くん、貴方が助けてくれたの。」

不良から女の子を助けた…確かに小三ならまだ嫌気指す前のこと、行動していてもおかしくないが。

「確かに俺、なんだな?」

「うん、あの時名前教えてもらったから!」

何してるんだ当時の俺、面倒なやつに名前教えたからストーカーよろしく来ちゃったじゃねぇか!!

「それで…ずっと恩返ししたかったの。」

「恩返し、か。」

そのような会話を隣のクラスの子が見ていたようだ。


「ねぇねぇ咲、咲って家入君の幼馴染だよね?」

ルナが話しかける。

「そうだけど?」

「なんか、あの転校生の子、家入君に昔石川県で助けられた過去があるらしいよ!」

「ふーん?」


「そんなにグイグイ来られたら俺は困るんだ。適切な距離ってのがある。」

「…俊光くん、あの時と変わったの?」

「あぁ、変わった。悪い方向にな!」

敢えて悪役になる。突き放す。向こうは好意を持っている理由はわかった。だからこそ脈なしを告げるために冷たくする。

(咲の言う通り、この女は俺に恋心を抱いている。だからこそ。)

「…せめて、友達でいて欲しい。だって恩人だから。」

…俺の心、まだあったのか。こんな涙目でこちらを見られたら断れなかった。

「…あぁもう!わかった。友達なら許す。仕方ない…」

投げやりでOKしてしまった。あぁ。


「あの転校生と友達になったんだ。」

早い情報だ近本、陽キャは違うな。

「まぁ仕方なく、だな。」

「まぁいいじゃないか。そこから恋に発展するケースもある。モテるんだから興味ないとか言わずそれを活かせよ。」

「いや、モテたくないんだから活かすわけねぇだろうが!」

「ははは!まぁそうだな!」

「…そういう近本は好きなやついるんか?」

「…そうだなぁ。まぁいるよ。」

「そうか。」

まぁ野球部の美人マネージャー、中野のことだろうな。


それから毎日、俺は天風に声をかけられては友達として接するようになった。

「ねぇ俊光くんって趣味あるの?」

「いや、俺は特に趣味はないな。」

「そうなの…じゃあ趣味作ろうよ!」

無論お断りだ。だって趣味はあるからな。

「いいよ、あんまそう言うのに時間割けないし。それに飽き性だし。」

「…そう、折角良い趣味考えてきたのに。」

そう言うと鞄から何か取り出す。

「…なんだ?それ。」

それが見えた時、俺はなんの道具かすぐわかった。そう、将棋盤である。コンパクトだが。

「将棋盤だよ!将棋って今、神童が活躍してたりして結構人気じゃん?だから遊んでみない?」

「…まぁ基本ルールぐらいはわかるが、天風は知ってるんか?」

「だって、昔の俊光くんは将棋好きだったもん!」

あぁおわった。おれはむかししっかりあのこにつたえてしまったようだ。

「…そうだったんか、飽き性だから忘れてたよ。」

「だから、今将棋また好きになろうよ!」

…あぁ終わった。俺は何故この女に趣味を語っていたのか。まぁあの頃は、泥沼も知らんかったし、無理ないか。

「…なぁ、なんで将棋好きなんて俺言ったんだ?」

「えっと、確か…」

なんでそこは覚えてないんだよ。

「友達に将棋の人がいるとかなんとか」

いや覚えてたわ。と言うことはまずい。隣のクラスにいる羽川なんて名前、このストーカーが知ったら間違いなく羽川善晴の娘と気がつく。そうなれば、俺が昔その天才から将棋を教わっていたのではという考えに至る…!

「まぁやってみるか。」

咲の時とは違い適当にやる。間違ってもあの人の秘伝技など使わない。

「昔より弱くなったね。」

なんで気がつくんだよ、てかどこまで知ってるんだこの女は!!

「そうか?」

「ブランク…なのかわざとそうしてるのかわからないけど、わざとなら悲しい。」

ここで黒髪ショートの美少女を泣かせたら終わる。社会的に終わる。

「あぁ、ブランクだよ、だって将棋好きなことすら忘れてたんだから!」

飽き性設定、助かったぜ。


休み時間を将棋に費やしてしまった。ただ、心の中で少し変わったことがあった。

(…ここまでのストーカー、面倒…だが、俺に対しての気持ちは本物なんだよな。)

あぁ本当に辛いぜ。深い関係はその人の本性が見える。だからこそ基本的に避けてきた。軽く友達を作り、軽く応対、これが一番。そのポリシーが今、捻じ曲げられようとしている。


「まぁ、楽しかったよ。ありがとな。」

これぐらいで良いはずなんだけどなぁ。


「なんで恋心って目に見えないんだろうね。」

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