第3話 ゆうしゃ と まおう
ゆうしゃ は『はじまりのくに』の おうさまの ところへ おとずれました。
おうさま は いいます。
くろいもりの おくのおく、かくれた しろに まおうが すんでいる。
ゆうしゃ は なにもかんじない こころで おうさまの はなしをきいて、じゃあ そこにいる まおうをころせばいいのかな、なんてぼんやりと かんがえました。
おうさまは そんなことをかんがえる ゆうしゃをみています。
あおい、ふしぎな まりょくの あるひとみで みています。
まほう なんてつかえないのに、まほう いじょうのなにかが できそうな ひとみです。
“ゆうしゃよ、なにかをはじめたいのなら くろいもりへ むかうといい。ゆうしゃよ、なにかをおわらせたいのなら しろい みずうみに いってもいい。そして ゆうしゃよ、すべてをおわらせたいのなら、もういちど わたしのところへ くるといい”
ふしぎな ひとみで、ふしぎな ことばをゆうしゃは いわれました。
まるで なぞなぞみたいです。
まおうをころしてほしい というから ゆうしゃは ここにきたのに、ほかの せんたくしを きゅうに よういされても こまります。
ゆうしゃは すこしだけ かんがえ、けっきょく くろいもりに むかうことにしました。
なにかをはじめたいわけでは ありませんでしたが、とりあえず まおうは ころしておこうと おもったのです。
どうせ なにもかんじないなら、まぞくをきれいさっぱりしたあとで いろいろ おわらせたって おなじでしょう。
そんなふうに、ゆうしゃは かんがえました。
ゆうしゃは くろいもりの なかをすすんでいきます。
とちゅうで おせっかいな せいけんが いろいろと はなしてきますが、とくに きにしません。
だって せいけんも さいごの けつろんは ゆうしゃと いっしょだからです。
まぞくをころす、そのために せいけんは あるのですから。
もりのおくをすすんでいき、ひらけたばしょに でたとき ゆうしゃの まえには おおきな しろがありました。
くろくて ふきつな おしろ、かくれた しろは ぜんぜんかくれていませんでした。
ゆうしゃと せいけんをまえに、くろいしろは かくれる ちからをなくしてしまったのかもしれません。
なにもかんじない ゆうしゃは、そのまま くろいしろの おおきな とびらをひらきます。
とびらは かんたんに ひらき、おおひろまの ながい つうろのおく、ながい かいだんのさきに くろくて ものものしい いすがあります。
ぎょくざ、というものでしょうか。
ゆうしゃは ためらうことなく つうろをすすみ、きがつくと ぎょくざには だれかがすわっていました。
わかい おとこのひとのように みえます。
けだるげそうな かおをしていました。
くろいかみに くろいひとみ、ゆううつそうな ひょうじょう、ほおづえをついて つまらなさそうに ゆうしゃをみています。
ゆうしゃは ききました。
あなたが、まおうですか?
そうだ、とおとこのひとは こたえます。
ころしますが、いいですか? ゆうしゃは ききます。
なぜだ? と まおうは ききかえします。
あなたが まおうだからです。ゆうしゃは こたえました。
そうか、と まおうは うすくわらって たちあがりました。
まおうは すこしだけ かんがえます。
としはも いかない おんなのこが じぶんをころすと やってきたのですから。
あしらうのは かんたんですが、なにやらまじめに いっているようなので ころされてやってもいいか なんてかんがえが まおうに うかびます。
でもどうじに、おとうさんの ことばと まぞくのおうこくのたみの ことをおもいだしてしまいました。
ざんねんだが、ころされてやるわけには いかない 。
まおうは まけんを てにして いいます。
ゆうしゃは せいけんを にぎっています。
ふたりは どうじにとびかかり、せいけんと まけんが ぶつかりあいました。
しろ と くろのひかりが めいめつします。
ふたりは おたがいにおどろきました。せいけんとまけん、どちらも おなじくらいの ちからが あったからです。
なんども、なんども うちあいますが、けっちゃくが つきません。
はんにちが すぎました。まだけっちゃくが つきません。
まおうは おなじことをくりかえしながら、あたまのなかで ぼやきます。
はやく、かえってくれないかな。
まおうは ゆうしゃよりもずっと としうえだったので、せいけんと まけんのちからがおなじでも まおうには よゆうが ありました。
ゆうしゃも おなじことをくりかえしながら、あたまのなかで もんくをいいます。
はやく、ころされてくださいっ。
ゆうしゃは こんなに ながいたたかいになったのが はじめてだったので、あせっています。
なにもかんじなかった ゆうしゃが、なにかをかんじるように なっていました。
おなじことをくりかえす ゆうしゃと まおうをながめながら、せいけんは こころのなかで つぶやきます。
このままでは ゆうしゃが まけてしまう。
それは せいけんにとって あってはならないことです。まだせいけんのやりたいことは ぜんぜんおわっていないのですから。
せいけんは こころのなかで ためいきをついて、さいごのしゅだんをじっこうしました。
はげしいひかりが、ゆうしゃと まおうをつつみこみます。
せいけんから はなたれた ひかりです。
ひかりは どこまでもひろがっていき、くろいおしろも つつんで、くろいもりまで あかるくてらします。
もういちど ひかりが せいけんにあつまって あかるさが もとにもどったとき、ふしぎなことが おきていました。
ゆうしゃは さっきまで くろいおしろのなかに いたはずなのに、おしろは なくなって くろいもりに ほうりだされていました。
それに さっきまでたたかっていた まおうのすがたが ありません。
ゴソリ、と おとがしたので ゆうしゃがあわててふりむくと、そこには ゆうしゃと おなじくらいの しょうねんがいました。
ゆうしゃは たずねます。
あなたは、だれですか?
しょうねんは こたえます。
おれは、まおうだ。
ゆうしゃは とてもおどろき、すぐにおせっかいな せいけんへと しせんをむけました。
これは どうかんがえても せいけんの しわざなのですから。
きっちりと せつめいせきにんを、はたしてもらうのです。