第1話 ゆうしゃ の ものがたり
あるちいさなむらに、おんなのこがうまれました。
いつか、『ゆうしゃ』が うまれることをやくそくされた むらだったので、おんなのこは うまれたときから 『ゆうしゃ』になることが きまっていました。
おんなのこは、すなおに まじめに そだちます。
みんなから ゆうしゃになって せかいをすくってね、といわれるものだから いっしょうけんめいに まいにち けんをふりつづけます。
あそぼうといってくれる むらのこどもたちはたくさんいましたが、それでもまいにち けんをふります。
つらいとか さみしいなんて いったりしません。
おんなのこが よわねをはくのは、うまれたときにあたえられた『せいけん』とふたりきりになったときだけです。
『せいけん』は よくしゃべりました。
たのんでもいないのに いろいろ おせっかいなことも いってきます。
うるさいなぁ と おもうことも おんなのこは ありましたが、それでも『せいけん』をずっと にぎりつづけます。
とき が すぎて、おんなのこも おおきくなりました。
むらいちばんの うつくしいおとめに なりましたが、むらのひとたちが かのじょに きたいすることは かわりません。
“はやく『ゆうしゃ』にならないかな?”
むらのひとたちが のぞむのは ただそれだけ。
それほどまでに せかいは まぞくのせいで あれていて、このむらも いつあらそいに まきこまれるか わからなかったのです。
なので おんなのこは せいちょうしても、『せいけん』をふりつづけます。
いっしょうけんめい、いっしょうけんめい。
みんなのために、みんなのために。
そんな おんなのこの どりょくが みのったのか、むらのひとたちの ねがいがかなったのか。
おんなのこは『ゆうしゃ』になって、むらから たびだちました。
むらのみんなが しんでしまった、もえるむらから たびだちました。
ざんねんなことですが、おんなのこが『ゆうしゃ』になるために もりのみずうみに でかけたそのひ、むらは まぞくに おそわれてしまったのです。
『ゆうしゃ』になった おんなのこは とても かなしんで、『せいけん』に ちかいました。
まぞくは ぜんぶ、わたしが ほろぼします。
かたく、ゆるがない きもちで おんなのこは ちかいました。
『ゆうしゃ』は まぞくに おそわれている まち へ むかいます。
そこにいたまぞくを みなごろし にしました。
『ゆうしゃ』は まぞくに おそわれている くに へ むかいます。
そこにいた まぞくを みなごろし にしました。
『ゆうしゃ』は とても かんしゃを されました。
てき をやっつけてくれて ありがとう、と たくさん いわれました。
『ゆうしゃ』は なにも かんじないこころで、よかった とだけ ひとり つぶやきました。
『ゆうしゃ』は まぞくを たおしても、なにも かんじなくなっていました。
かのじょが『せいけん』で まぞくを きっても、ち は ながれません。
きれいさっぱり、さいしょから いなかったみたいに きえてしまうからです。
『ゆうしゃ』は どこか むなしくなりました。
どんなに きっても、どんなに ころしても なにも のこりません。
しんだ むらの ひとたちも かえってきません。
いつのまにか『まほうつかい』と『けんし』と『けんじゃ』が なかまに なっていましたが、すこしずつ なにも かんじなくなる『ゆうしゃ』をみて、いつのまにか かれらは いなくなってしまいました。
のこされたのは『ゆうしゃ』のおんなのこ ひとり。
そこへ、『はじまりのくに』の おうさま から てがみが とどきました。
“『ゆうしゃ』へ。『まおう』の すんでいる ばしょが わかったので、どうか あなたの てで たいじ してほしい”
『ゆうしゃ』は なにも かんじないこころで てがみ をよんで、すこしだけ こころが うごきました。
『まおう』、まぞくの おうさま。
それを ころしたら、じぶんも もう おわっていいのかな、と。
これが、『ゆうしゃ』と『まおう』のものがたりが はじまるまえの、『ゆうしゃのものがたり』
ながく、とおく つづいていく ものがたりの、はじまり の はじまり。