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序 3

 

 わずかな火で明るくなった宝物庫。今まで見たことのない、煌びやかな財宝が押し込まれていた。黄金でできた甲冑に、宝石がたくさんついた剣。他にもたくさんあったけれど、朱亜はまずは扉が開かないように大きな箱で塞ぐ。そして、手当たり次第、宝物庫の中を漁り始めた。目的は大きな翡翠が付いた首飾り、それ以外はどれだけ高価でも朱亜から見たらガラクタ同然。箱を開けては「これも違う」「あれも違う」と手にとっては放り投げていく。


 床は足の踏み場もないくらい荒れていき、朱亜はどんどん部屋の奥まで進んでいった。おでこから汗が伝い、手を止めて顔をあげてそれをぬぐう。その時、宝物庫のずっと奥に黒い布を被った大きな何かがあるのが見えた。朱亜は近づく。自分の身長よりも高いそれは、朱亜の目にはいかにも怪しく映った。


「この中かも!」


 朱亜は一気にその布を取り払う。目に飛び込んできたその正体に、朱亜は驚きのあまり声を上げることができなかった。驚きから一拍遅れて、驚き以上に胸を占めた感情は困惑だった。戸惑う朱亜の声が漏れる。


「……え? な、何これ、ウチ……?」


 布の中身は大きな水晶だった。粗く削られた表面に明かりが反射している。朱亜は食い入るようにそれを見つめる。驚愕したのはその水晶の【中身】。人間が一人、その中で眠っている。問題はその人物が何者だったか、だ。

 朱亜には見間違えるはずがない、だってそれは自分自身だったのだから。色んな角度から見たけれど、やっぱりその中に入っているのは朱亜本人としか見えない。けれど、今の自分と違う部分も多い。


 顔は朱亜瓜二つ。でも髪の毛は腰のあたりまでたっぷりと伸びていて、服だって今着ているボロで無地の麻の服とは違う。鮮やかな紅の下裳。帯には細やかな花の刺繍が見て取れる。上衣も上等な絹が使われているみたいで、艶やかに光っていた。動揺している朱亜の視線がその人物の胸元に向く。


「……翡翠!」


 水晶に閉じ込められている朱亜と思しき人物が身に着ける首飾り。それには大きな翡翠が付いていた。朱亜は小鈴の言葉を思い出す。天龍が残した翡翠は……首飾りになっているはずだ!


 背後から「ドンッ!」と強い音が聞こえてきた。朱亜がここにいることがバレたのかもしれない。大きな音が聞こえるたびに、扉がわずかに動く。破られるのも時間の問題。朱亜は剣の柄で水晶を割った。それは一気に割れ破片は散らばり、朱亜と思しき人物が倒れこんできたので、朱亜はそれを受け止める。まるで死んでいるみたいに冷たい。これの正体は気になるけれど、今、自分にはやらなければいけないことがある。床に横たえ、首飾りを引きちぎった。


 首飾りを両手で包み込むとそれは淡く光り始めた。朱亜は強く祈り始める。この思いが天龍に届くなら、自分を【邪王は復活する前の天龍国】に送ってほしい。


 扉はついに破られる。流れ込んでくる妖獣や死体の兵士たち。朱亜は構うことなく祈ろうとしたが、視界の端っこに――髪の長い男が映りこんだ。


(もしかして、あれが邪王!?)


 身構えようとしたのと同時に、朱亜の体は太陽よりも強い光に包み込まれていった。目が眩み、朱亜はとっさに瞼を閉じた。


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