兄弟姉妹
ある日の昼休み、食堂にて。
「うーん……どうしようかな?」
「あら、ラファエル様、どうかなさったのでございますか?」
いつもの六人で昼食を取っている時、ラファエルが何かに悩んでいる様子だった。サラは不思議そうに首を傾げている。
「家族へのお土産で少し悩んでいるんだ。もうすぐ長期休みだから、僕はガーメニー王国に帰国するんだけどさ、そろそろお土産もマンネリ化してきたんだ。折角だし、父上と母上、それから兄上や弟妹達全員個別に買いたいんだけど、まあ九人分買うのは大変だ」
ラファエルは苦笑しているがどこか楽しそうである。
「九人……かなりの人数でございますね」
「ラファエル殿のお父上とお母上で二個、残り七個となると、ラファエル殿は八人兄弟ということですね」
ミラベルとナゼールはラファエルの家族構成に目を見開いている。
「まあね。父上曰く、貴族として血筋は残しておくべきらしいけれど、父上は母上をこれでもかと言う程愛しているみたいだからね」
ラファエルは苦笑する。
「確かに、辺境伯閣下は辺境伯夫人を溺愛なさっておりましたからね。何と申し上げましょうか、独占欲の強さも感じられましたわね。……それに、夫人に対して仄暗い欲望を抱いているような……」
サラは思い出したように苦笑する。最後は誰にも聞こえない程の小さな声であった。
「そういえば、私は皆様の兄弟姉妹などの構成についてあまり存じ上げませんわ」
リリーは興味深そうにふふっと微笑んだ。
「確かに、リリー様やサラ様とは趣味の話をすることが主でしたので、ご家族のことはあまり知りませんわね」
ミラベルもふふっと微笑む。
「私には三つ上の兄と二つ下の弟がいるのですが、ミラベル様はご兄弟はいらっしゃるのですか?」
リリーはミラベルの方を見てそう聞いた。
「私には一つ上の兄がおりますわ。ナゼール様は、以前兄にお会いしていましたよね?」
「はい、ミラベル嬢の兄君エクトル殿はとてもお優しいお方でした」
ナゼールは表情を緩める。
「ナゼール様の妹君であられるアンナ様も、とてもお優しくてお話ししていて楽しいお方でしたわね」
ミラベルはナゼールの家族に会った時のことを思い出し、ふふっと控え目に微笑んだ。
「そう言えば、オレリアンには二つ上に双子の姉君と兄君がいたよね? 双子の場合、家や爵位を継ぐのはどっちだい?」
ラファエルは興味ありげに首を傾げている。
「姉のアンリエットだ。兄のジョルジュより数分早く産まれたからね。兄上はグラス侯爵家への婿入りが決まっている」
オレリアンはそう答え、食後の紅茶を一口飲む。
「やはり皆様ご兄弟がおられますのね。サラ様はいかがなのでございますか?」
「あ、リリー嬢、サラ嬢はその……」
興味ありげにサラに目を向けるリリー。しかしラファエルが言いにくそうにリリーを制する。オレリアンも少し気まずそうな表情である。
「ラファエル様、別に隠すようなことではございませんわ」
サラは気にしていないと言うかのように微笑み、話を続ける。
「私わたくしには現在は兄弟がおりませんわ」
「現在は、と仰るともしかして……」
ミラベルは瞬時に事情を察し、グレーの目は悲しげになる。
「ええ、二つ上の兄がおりましたが、私が五歳の時に亡くなりましたわ。兄はとても病弱でございましたから」
過去を懐かしみ、兄を思い出すサラ。
「あ……申し訳ございません。私何も存じ上げずサラ様にご兄弟のことをお聞きしてしまいましたわ」
サラに話を振ったリリーは、心底申し訳なさそうである。
「リリー様、お気になさらないでくださいませ。皆様も、そのように暗い表情をなさらないでください」
サラは柔らかに微笑んだ。
「私も幼少期は兄と同じように病弱でございましたの。ですが、今はこの通り健康でございますわ」
ふふっと自信満々に微笑むサラ。
「だけどサラ嬢、体力はあまりないよね。いつも重いものは僕が持っているじゃないか」
ラファエルは少し悪戯っぽく笑う。
「いいではありませんか。ラファエル様の方が力も体力もございますもの」
ふふっと笑うサラ。
周囲の空気も柔らかくなった。
また六人はいつものように談笑しながら昼休みを過ごすのであった。
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緩く考えた設定をこの話に盛り込んでみました。
ラファエルの父親、ヤンデレであることが息子の婚約者に気付かれていそうですね。




