ファンクラブ
●色の濃い「喪失」「憂鬱」から淡い「希望」へと繋ぐ、コンセプトアルバムの傑作。
【収録曲】
1.暗号のワルツ
2.ワールドアパート
3.ブラックアウト
4.桜草
5.路地裏のうさぎ
6.ブルートレイン
7.真冬のダンス
8.バタフライ
9.センスレス
10.月光
11.タイトロープ
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのメジャー3rdアルバム。今作の収録曲を紐解いていくと、メロディに関しては短調のものが多い印象があり、歌詞に関しても「今 灯火が此処で静かに消えるから」(ブラックアウト)や「傷つくことはなかったけど 心が腐ったよ」(桜草)、「荒んだ僕は蝶になれるかな」(バタフライ)のように暗い雰囲気のものがメイン。タイトルこそ親しげな雰囲気ですが、ほぼモノクロ模様のジャケットも相まって、「くすんだ空気感を全面的に押し出したコンセプトアルバム」と言える出来になっているのではないでしょうか。「バンドとして大きなセールスを記録したアルバムの次回作として、コンセプト性の強いものをリリースする」という点に関しては、Mr.Childrenの『深海』を彷彿とさせるものがあります。
ただ、幅広いジャンルで聴かせる『深海』とは異なり、従来の彼らと同様にシンプルな楽器構成のギターロックがほとんどといった感じで、そんな音楽性で特定のコンセプトを打ち出そうとすると似たような曲ばかりになってしまいそうなものですが、相変わらずメロディのセンスは折り紙付きで曲ごとにしっかりとメリハリを付けており、「単調」とは程遠い出来になっているように思えます。3拍子と4拍子を巧みに組み合わせた『暗号のワルツ』や後半で曲調が一気に変わる『センスレス』のように、良い意味で凝ったアレンジを施した曲があるのもこれまた興味深いところ。
最も印象に残ったのは終盤の2曲の流れでしょうか。『月光』はそのタイトル通り、神秘性すら感じられる大きな広がりを持ったサウンドと胸を掻きむしるようなメロディでリスナーの感情を大きく揺さぶってきますし、続く『タイトロープ』はどことなく朝焼けを想起させる雰囲気で、長い夜を越えて色付き始めた景色を表現しているかのよう。「見失った此処が始まりだよね そうだね」はまさに今作を締めるのにふさわしいフレーズとなっているのではないでしょうか。
「喪失」や「憂鬱」等といった後ろ暗い要素をギターロックという形で色濃く表現しつつ、最後にある種の「希望」を淡く描いて終わるコンセプトアルバムの傑作。直接的にネガティブな歌詞が多いため好みは分かれるかもしれませが、そういう要素に抵抗が無い方ならば是非お薦めしたい作品になっていると思います。
評価:★★★★★