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誓い

(う〜ん、これはこれは……)

エッケドターンは、物音によって転生して2日目の朝を迎えていた。

物音のする方へ目を向けるとそこには3人のメイドが棚や箪笥を漁っていた。

(金品狙いか…??まぁ、欲しくなる気持ちはわかるけど)

メイドたちの手には金色に光るアクセサリーや高そうな置物、とにかく持ち出そうとしていた。

(随分、舐められたものだな……)

仕方ないか、とため息をつきふと考える。

魔法はいつから使えるようになるのだろうかと。

(魔法を発動させるためには、詠唱する必要がある。覚えてるのが…)

小説の中に出ていた詠唱を思い出そうとするが、どれも長く、難しいものばかりだった。

(あぁ、一つだけあったなぁ。これは僕が興味が惹かれて覚えたんだけど)

メイドたちの方に目をやり、ニヤリと口角を上げる。

それは、赤ん坊にしては邪悪で意地の悪い笑みだった。

(僕のものを盗もうとしているんだから、これくらいは別にいいよね)

小説に書いてあった内容を頼りにこっそりと構える。

そして、エッケドターンは呟いた。

「リクイッドジュナスティック、デストラクション」

液体操術、破壊。

これは、エッケドターンがアリスに攻撃するために編み出した吸血鬼族の血と人族の水を融合した魔法。

しかし、これは魔法というより呪術に近いものだった。

この呪術をくらったものは、人間であれ、動物であれ死に至る。

液体操術の「液体」というものには血も含まれているのだ。

現に、この魔法とも言えぬ呪術をくらったメイドたちはあらゆる血管が破壊され血みどろで倒れていた。

それをエッケドターンは泣きもせず、ただじっと見つめる。

(思ったよりの威力だな。小説ではアリスは重傷で済んだんだが。あれは死んでいるな)

エッケドターンは起き上がってメイドたちを見たいと奮闘するが叶わず。

(少女のエッケドターンより今の僕の方が威力が遥かに強かった。ということは、今の僕は小説のエッケドターンより魔力が多いのか?)

どういうことだろうか。

話の通りに転生したのだとしたら、この赤ん坊には魔法などというものは使えない。

(話の設定が変わっている……?)

そうだとしたら、この物語の結末も変えることができるかもしれない。

エッケドターンは心の中で拳を握り意気込み、これから起こるであろうめんどくさい出来事を回避するために狸寝入りをするのだった。




「これは……?!」

エッケドターンを起こしに来たメイドたちは部屋の中の悲惨を見て、息を呑むのだった。

エッケドターンは目を閉じたまま話に耳をすます。

「どうしましょう……」

「これは陛下にご報告すべきではないでしょうか」

「でも、今の陛下はご機嫌がよろしくないのよ?間違えたら私たちの首が飛ぶわ」

「メイド長、今すべきことは姫様の安否でございます」

「その通りです、スカイ。早く姫様の安否を」

(流石スカイ。僕の世話係なだけあるな)

内心少し誇り高い気持ちで微笑む。

エッケドターンは、メイドの中でスカイを一番信用していた。

やるべきこととやるべきではないこと、優先すべきことと後回しにすべきこと。

それをはっきりと理解して行動し、誰よりもエッケドターンを愛情を持って世話をしていた。

スカイ・ビートン。

この先、どんな風にエッケドターンを守り抜くのだろうか。

「姫様、姫様っ」

スカイはエッケドターンに駆け寄り安否を確認する。

(脈拍は問題なし。息もしている……よかった……どこも怪我はしてないみたい)

「メイド長、姫様は無傷です」

「そうですか、よかったです」

メイド長、レベッカ・モーフューは安堵のため息を漏らした後、すぐに切り替えた。

「姫様の護衛騎士を呼びなさい。近衛騎士団団長も。執事長のドムと陛下の秘書、プレストンさんも呼んでおきなさい。陛下には気づかれないように」

「はいっ」

「了解しましたっ」

メイドたちはいそいそと部屋を出ていった。

レベッカはエッケドターンをそっと抱き上げる。

「スカイ、王宮医師を呼んできなさい。万が一があってはなりません。姫様は私が隣室に移しておきます」

「わかりました」

スカイは、エッケドターンの頭を優しく撫でて部屋を後にした。

レベッカはエッケドターンに目を向け優しい笑みを浮かべる。

「おはようございます、姫様」

目を開けていたエッケドターンは挨拶を返そうとしたがやめた。

(発音ができん)

エッケドターンは現在生まれて8ヶ月。

喋ることはできない。

(そもそも魔法が発動してことが不思議で仕方ない)

エッケドターンが転生したことにより何かが狂わされたのだろうか。

エッケドターンは隣の部屋に移されながら首を傾げた。

うーんと唸りながら考え込むのをレベッカは微笑ましく見た。



(ああ“、眠い……)

エッケドターンは、赤ん坊の眠気を戦っていた。

瞼は重く全身の力が抜けていくのを感じる。

眠いながらも頭の隅で考えた。

どうしてこの世界に来たのだろうか。

なんのために転生したのか。

少なくとも自分の前世はお世辞にもいいと言えない行いしかしていなかった。

外に出れば喧嘩。

学校に行けばサボり。

親にも見放され、信頼できる人はいなかった。

喧嘩三昧の日々で唯一得られたのは、強い精神力と力。

誰にも負けないと自負している。

(この世界でやり直せと?)

やり直すとは、前世とは違い良い行いをしろと言うことか?

(違うな。僕が喧嘩したのはほとんど人助けだったし)

そう、前世での喧嘩は全てカツアゲや絡まれている人たちを助けるためにやっていただけだった。

その中には相手から喧嘩を売ってきて買っていたりしたものもあるが。

(この物語のエッケドターンを救えと言うことか)

エッケドターンの結末は実にあっけなくそして悲しいものだった。

それを変え、幸せに生きる道を進めと?

(イヤだね。僕は自由に生きる)

誰かに命令されるのは好きじゃない。

誰かに従うのも誰かの下につくのも嫌いだ。

取るなら頂点を。

エッケドターンは瞼を閉じながら自分に誓った。


自分の思うままに、強く生きると。









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