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お姫様に転生した

「雑魚のくせに喧嘩売ってんなよ、クソが」

闇の中でそう吐き捨てたのは1人のフードを深く被った少女。

彼女の足元には、気絶していたり血を流していたりするガタイのいい男たち。

傍には、肩を震わせ寄り添う2人の少女。

フードを深く被った少女はそんな2人に近づき、精一杯の笑顔で言った。

「怪我はしてないか」

「だ、大丈夫です……」

「いや、近づかないで……」

先ほどまでは男たちに恐れていた少女たちが今度はフードの少女に怯えていた。

彼女はふっと息を吐き、少女たちに告げた。

「もうここには来んなよ。危ないから」

そう言って踵を返した彼女は一体、何者だろうか……




「うっわ、あいつ、昨日も暴れてたらしいぜ」

「1年の美少女双子が襲われたらしい」

翌日の学校でそんな噂が流れていた。

その噂のまとは、フードの少女もとい神宮寺蘭。

学校一の問題児で最強と謳われる不良である。

(美少女双子……昨日……)

蘭は手に持っている紙パックのココアを飲みながら考える。

はて、美少女の双子なんて助けただろうか。

ココアを丁度飲み終えた時、蘭は思い出した。

昨日の路地裏で男たちに絡まれていたのだ。

(大方、僕への嫌がらせ……もしくは、昨日の恐怖)

どちらにせよ、どうでもよかった。

蘭は、髪を掻き上げ椅子を音を立てて立ち上がると屋上に向かった。


「昨日、助けてやったのにこれはひでぇな」

蘭が屋上の柵で街を見渡していると、後ろから2人の気配が。

蘭はわかっていたようにクツリとおもしろそうに笑いながら言った。

「誰も助けてなんて言ってないわよ」

「助けてもらわなくても私たちだったらあの男たちぐらい余裕だったわ」

2人の美少女は、キツく蘭を睨んだ。

蘭は、フワリと天使のような笑みを浮かべる。

「それくらい知ってる。嵌ってやったんだよ、お前らの作戦に」

先ほどまた買ったココアを手で遊びながら双子を見つめる。

「どうだ?作戦通りになっただろ」

蘭は、双子に歩み寄りニコリと笑い、スッと表情を引っ込めた。

「つまらない、な。もっと、大袈裟に盛った噂を流してくれればよかったのに」

ココアを投げ、キャッチする。

長い手足が躍るように舞った。

「本当につまらない。お前らにとって僕は邪魔者で、僕にとってお前らはどうでもいい存在」

つまらない、と再び呟く蘭に双子は憤りを感じていた。

(なんなのよ、この女は……!)

(すごく鬱陶しいわ)

「そんなにして欲しいならやってあげるわよ」

双子は息を合わせて悲鳴を上げた。

「「キャアアアアアアアアアア」」

(これは、暇すぎてよく読むアニメの二次創作で出てくるテンプレ……)

面白そうだ、と愉快そうに笑う蘭の姿は悪魔そのものであった。

双子の1人は己のシャツを破り座り込み、もう1人は涙を流しながら座り込んで肩を震わせた。

(おぉ、演技うまいな、こいつら)

それを蘭は柵に寄りかかってココアを飲みながら眺めていた。

間もないうちに大勢の先生、生徒たちが屋上にドッと押し寄せた。

「大丈夫か、花内っ」

「怪我はしてない?花内さん」

花内とはこの双子の苗字でこの学校の理事長の娘である。

しかし、蘭は誰がどうあろうと構わない。

楽しいことが好きなのだ。

普通の人との感覚は違うが。

「何したんだ、神宮寺っ」

「どうしてくれんのよ?!」

蘭は楽しそうに笑みを浮かべながら、全員に言った。

「何もしてない。あいつらが勝手に泣いただけだ」

その言葉に1人の男子生徒が掴みかかった。

「ふざけてんのか?!」

「ふざけてるけど」

当たり前じゃん、というようにヘラヘラする蘭をガタイのいい男子が殴りかかる。

それをヒョイっとかわし、腹に蹴りを入れた蘭はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「全員でかかって来ても良いよ?死ぬ覚悟しなきゃならんけど」

煽るように言った蘭の言葉に学校に存在している不良たちが一斉に飛びかかった。


30分しただろうか。

屋上にはただ1人、蘭だけが立っていた。

白いワイシャツには赤い血がついており、屋上の地面には大勢の生徒が倒れていた。

「腰抜けどもしかいねえなあ」

蘭は、またもや屋上の柵に寄りかかり、今度は、柵の上に飛び乗った。

「つまらないほど弱かった。拍子抜けだ」

ケラケラと笑う蘭を先生、双子一同、呆然と見つめた。

信じられなかったのだ。

いくら最強でもそれは盛っている名だと思っていたのだから。

しかし、その最強は今、存在を消した。

1人の影の薄い男子がドンッと蘭を突き飛ばしたのだ。

(しまった…っ)

蘭はゆっくりと落ちてゆく中でふと考えた。

うまく受身を取れば重傷で済むかもしれない。

でも、受身を取ったところで何がある。

(このまま死んでもいいかもなぁ)

屋上で自分を見下ろしている双子たちの顔が自分をあざ笑っている様に見えた。

(無様だなぁ、情けない)

そうして、蘭は屋上から下のアスファルトに叩きつけられ、死亡した。










……はずだった。

蘭は、グルグルと渦巻く世界にいた。

目は閉じられ、辺りは真っ暗。

不思議と回っているような感覚がするだけだ。

痛みも感じず、何も感じない。

「……下、陛下っ、おやめくださいっ」

(声……?死んでないのか)

薄らと目を開けた蘭は、近くにいた顔にびっくりしうっ、といううめき声を漏らした。

(声が高い……?!)

思った以上に高い声に驚く上に、ものすごく整った顔立ちの男を見つめた。

美しい銀色の髪にサファイアのように輝く美しい瞳。

現実とは思えないほどの容姿だった。

そして、何よりも驚いたのはその男の格好。

どこぞの漫画に出てくるような格好をしていたのだ。

(ん……?待てよ、この男、どこかで見たことがある…あぁ、大人気小説の『天使に溺愛されています』の天使の溺愛対象、ヒロインのアリスの父親だ)

ここは、『天使に溺愛されています』の世界なのだろうか。

はぁ、とため息をつく。

これから過ごすことになる世界を考えると胃が痛かった。

「ほぅ、この俺に向かってため息をつくか」

スッと男が蘭の首を手で掴んだ。

「ここで殺してしまおうか」

グッと力を込められ、蘭は目を明後日の方向に向けた。

(転生してすぐに死ぬとか信じられん)

蘭は、男の顔をチラリと見、全身の力を抜いた。

(抵抗するよりこうした方が楽に殺されるだろ)

そう思ったのだ。

男は、赤ん坊を見つめ、乱暴に手を離した。

「気が変わった。殺すのは後にしよう」

フッと男は笑い、蘭を見つめる。

「おい、この赤子の名前はなんだ」

「き、決まっておりません……」

ふむ、と男は考え込み、思いついたように言った。

「エッケドターン。エッケドターンにしよう」

(いや、その名前……この物語の悪役姫じゃん……どのみち死ぬ運命……)

「精々、俺に殺されないようにしろよ」

(いや、殺される運命なんだが)

蘭、否、エッケドターンは、部屋を出ていく男、自分の実の父親、エリー・ド・ヴィンピールを死んだ魚のような目で見送るのだった。








「姫様、エッケドターン姫様、お食事の時間ですよ」

「あーん」

差し出されたボトルを自分の口に含む。

ゴクゴクとまだ歯が生えない口でミルクを飲み込む。。

その姿に使用人一同、ほっこりとしていた。

(姫様は今日も可愛らしいわね)

(まるで天使のようだわ)

使用人の目に映るエッケドターンは、丸い可愛らしい顔立ちに大きなパッチリとしたサファイアのように美しく輝く瞳。

頭にはあの美しい銀髪が少し生え、まん丸い頬をピンクに染めミルクを頬張っていた。

だが、エッケドターンの心は死んだように静かだった。

(ああ“、これからどうするか…金に困るようなことはないと思うが…)

部屋一面、金銀宝石で埋め尽くされ、最近に至っては少しずつものが減っているように感じなくもなくもない。

(死なないように生きる…王宮を出る…出るにはもっと成長してから…)

やることはたくさんあるのに、することができない。

なんとも言えない状況だった。

(このミルク、美味いな)

遂に考えることを放棄して、ご飯を楽しむが、できるはずもなく。

(マジでどうすっかなぁ。まだまだこの体では動けんし、そもそも前の世界とは色々違う)

そう、ここは前の世界とは全く違った。

ここは、小説の世界。

所謂、異世界である。

異世界恋愛もの小説『天使に溺愛されています』。

この物語は、主人公の天使がヒロインのアリスを溺愛しまくるというなんとも言えない甘々の小説だ。

そして、この小説には悪役がいる。

アリスと腹違いの姉に当たるエッケドターンとこの世界で最強最悪の魔王。

この2人はそれぞれ、アリスと天使が愛を育む過程で殺されるのだ。

(魔王と手を組むか。それでこの世界一式変えてやろうか)

さすが、エッケドターン。

普通の人との思考回路が違う。

(確か、エッケドターンは人間とヴァンパイアのハーフ。ヴァンパイアの血が結構濃くて、魔力はエリーを上回るくらい多かったって書いてあったな)

ここの世界には5つほどに分かれる。

魔族、神族、獣族、人族、吸血鬼族。

それぞれ、特化した魔術を持っていた。

その中で、エッケドターンは人族と吸血鬼族のハーフであり、人族が得意とする土、火、水、風、雷の魔術に加え、吸血鬼族が得意とする、闇、血、光、氷の魔術。

そして、吸血鬼族の間でも千年に一度と言われる治癒魔法も使うことができた。

悪役でさえなければ、紛れもなくこの世界でトップに立てただろう。

しかし、人々はそれを恐れた。

吸血鬼の力が表に出るようになると、人々は恐れそしてエッケドターンを幽閉しようとした。

エッケドターンは魔力や魔術には興味は全くなかったが、父親のエリーに愛されたいばかりに力を無駄に使っていたのだ。

そこにアリスが現れる。

アリスは、エッケドターンには遥かに劣るが、人間で唯一治癒魔法が使えていた。

人々はアリスを聖女と崇め、神族の中の天使に気に入られ溺愛されてゆくのだ。

(僕は別にあの男に愛されたいとか思わないし、力があるには効率的に使わないと)

エッケドターンは、心でほくそ笑んだ。

(あぁ、心配することは何もないな。この状況を楽しめばいい)

最後までミルクを飲むと背中をトントンと優しく叩かれ、ゲップをする。

(ヤベ…体は赤ちゃんだからすぐ眠くなる…)

ウトウトと眠くなり、エッケドターンは赤ちゃんらしく眠るのであった。

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