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プロローグ

 四月の朝。彼女は自分の部屋の鏡の前に立っていた。真っ白なブラウスに、灰色のチェック柄のスカート。鏡に映る自分を、どこか戸惑った様な、気恥ずかしげな視線で見つめている。

 少しして、彼女はクローゼットから一着の真新しいブレザーを出した。紺色で、少し重たいそれは、今日この日から毎日を彼女と共に過ごすことになる。

 ブレザーに袖を通して、前のボタンを留めると、もうそこには制服姿の高校生がいた。腰の辺りまで伸びた長く、白い髪と、薄い青色の瞳。成長した大人っぽさと、未だに残る幼さが同居する、どこにでもある姿だった。

 そして、最後に彼女は机の上から紐ネクタイを一つ取った。黒い紐を、茶色の木製ボタンで留めた、よく見かけるデザインの物。彼女はボタンに愛おしげに触れた後、ネクタイを襟に通して、ゆっくりと締めた。

 自分の準備が全て整うと、彼女は自分の机の引き出しを開けた。その中から、小さな箱を取り出して、ふたを開ける。中には、小さな紙が数枚。数センチ四方の小さなメモ用紙の束、それは彼女に全てをくれた、あの一年の物語の始まりでもあった。

 メモ用紙に書かれた小さなメッセージ、それを見る度に彼女の心には、懐かしさと、少しの悲しさと、嬉しさの混ざった感情が込み上げて来る。

「時間だぞ」

「はい」

 正装した父親が、出発を告げる。同時に彼女も、箱をしまって、引き出しを戻した。

「じゃ、行こうか」

「うん」

 つばの広い帽子を被って、彼女は扉を開ける。思い出を胸に、新しい日々へと向かって。

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