ep.1 往路にて
この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物、団体および建造物等に一切関係ありませんし、それらの名誉を毀損するつもりは一切ございません。
また麻薬や拳銃などの違法なものや殺人、傷害など暴力的な描写がありますので、ご注意ください。
繰り返し強調させていただきますが
この作品はフィクションです。
作者の脳内で勝手に作り出した物です。
作品にある通りの場所に行ったり、登場人物と同じ行動をとったところで何の意味も無いかと思いますので悪しからず。
1章
夕陽が沈みかける頃。
部屋の静かな空気を打ち破るように
携帯のアラーム音が鳴り響く。
とっさに体が縮こまり、
ほぼ同時に瞼が持ち上がる。
そうだ、今日は久々に
『仕事』があるんだった―――
ああ、背中が痛い。
昨日の喧嘩の疲れが残ってるらしい。
厄介なもので、寝起きというものは
体がひどく重く感じる。
運動後であれば尚更だ。
ひと呼吸置いて、眉間にシワを寄せながら体を起こす。
冷房をかけ忘れたまま寝ていたので
体が汗ばんで気持ち悪い。
まだ予定までは少し時間があるから
汗を流してから家を出ることにした。
風呂場の鏡に写る自分の顔が水垢で霞んでいた。
夕暮れ時のカラスの鳴き声…
近所の子供の笑い声…
隣の若夫婦の寝室から聞こえる甘い声…
全て、俺の日常に溶け込むBGMだ。
ぬるいシャワーの水を頭から被り
さっさと水を止めてタオルで全身を拭く。
とても有能とは言えないドライヤーで頭を乾かしながら、7時のニュースで要人の来日が無いことを確かめる。
要人が来日すると、いたる所で職務質問や検問の嵐だからだ。
要人の移動なし。
目立った事件もなし。
今日も至って平穏だ。
要するに…
絶好の『闇市日和』。
闇市へは徒歩と地下鉄で向かう。
名城線で上前津へ向かい、鶴舞線に乗り換えて大須観音駅の改札を抜ける。
大須商店街を伏見通りに向かって歩いて行くと左手に伸びる路地裏に見えてくる、薄汚い雑居ビルの二階に上がり、人影が無いことを確かめる。
そして、一番奥の部屋の扉を開けて右へ曲がり、部屋の片隅にポツリと佇むクローゼットの角に手をかけると、見かけとは裏腹に、ギギッと音を立てて簡単に動いた。
そこには階段があった。
だがそれは一階ではなく、地下へと続く物だった。
先に動かしたクローゼットを元あったように戻し、階段を下ってゆく。
相変わらず狭い通路だ、と呟きながら30段ほど下ると、鉄製の扉に行き当たる。そこを開ければ俺の仕事場が待っていた。