9.
ピノはポンの大切な贈り物のガラス玉をなくしてしまいました。
とっても大切なものだったはずです。ポンは「気にしないで」と言ってくれましたが、ピノは気になって仕方がありません。もとはと言えば自分のせいです。なんとかならないか・・・そう考えていた時、あることを思い出しました。
≪森のはずれに、魔法使いが住んでいる≫ということです。
それは少し前からうわさになっていました。怖い魔法使いがいるから、森の向こうまで行ってはいけないよ、と誰もが言っていたのです。前から魔法使いのことは聞いたことがあったのですが、こうも具体的に聞くということは本当にいるのでしょう。
≪魔法使いなら、何かすごいものを持っているかもしれない≫
ピノは単純に、そう思いました。
それでお休みの日に、ひとりで森のはずれまで行くことにしました。本当は小鳥に乗っていこうと思ったのですが、小鳥は魔法使いの噂を聞いて森のはずれまで行くのを嫌がったので、歩いていくことにしたのです。
途中までは小鳥に乗せてもらい、そこから歩いて半日もかかりました。ピノはとっても遠くまで来たと思いました。
森のはずれまで来ると、いつもいる森とは違って、中に小人が住めるような木ではなくてもっと細くて固そうな木が増えてきました。そして森の向こうに信じられないほど広い原っぱがチラリと見えたころ、森のはずれに木でできた大きな家を見つけました。
「あれだ」
煙突から煙がのぼっています。きっと魔法使いがいるのでしょう。
小人のピノにはどう頑張っても扉を開けることはできません。ピノはうろうろと扉の前を探しました。そしてすぐに扉のすきまを見つけて、そこから中に入りました。
家の中は暗くて、しかも何もかもがものすごく大きくて、ちょっと入り込んだだけで迷子になるほどでした。ピノは明るい方へ行こうと思いましたが、帰り道がわからなくても困ると思い、壁にそっていくことにしました。
壁ぞいに走っていくと、また扉があります。光が漏れているのがわかります。きっとあっちは人がいるでしょう。ピノはその扉にも隙間がないかを探しましたが、その扉にはピノが通れるような隙間はありませんでした。
「うーん、どうしよう。そうだ、呼んでみればいいんだ」
ピノは向こうの部屋に誰がいるのかもわからないのに、大きな声を張り上げました。
「すみませーん、魔法使いさーん!」
大きな声で何度も呼びかけましたが、扉が開くような気配はありません。体が小さいから声も小さくて聞こえないのでしょうか。ピノはとにかく声を張り上げました。
「おおーい、魔法使いさん、いませんかー!」
長い間魔法使いを呼び続けていると、やっと扉が開きました。小人のピノがその扉を見上げると、中から大きな人が出てきてきょろきょろと廊下を見回しました。小さなピノに気付いていないようです。
「あのっ、ここです、ここです!」
ピノは両手をぶんぶんと振って飛び跳ねましたが、なかなか魔法使いはピノに気付きません。すると部屋にいた猫がにゃあと鳴きました。
「おや、おや?」
魔法使いはやっと足元の小さなピノに気付き、そして顔を近づけてきました。
ピノは大喜びでまくしたてました。
「魔法使いさん、僕、小人のピノです。お願いがあってきました。あの、僕の兄弟子が今度結婚するんですけど、僕、ポンのガラス玉をなくしちゃったんです。だから、ポンが困ってるんです。だからその代わりに、何かすごい石とか玉とか宝石とか、そういうのがないか、聞きに来たんです。もしあったら、それを欲しいんです。お願いします!」
その時、魔法使いは大きな手をピノに向けたと思うと、ピノのことをむんずと掴みました。
「うわっ、わあ!」
魔法使いはピノを握ったまま、自分の顔の高さまで持ち上げて、またピノのことをしげしげと眺めました。
「魔法使いさん、お願いです。何か、あの、ポンのガラス玉の……」
「まあまて、何を言ってるのかさっぱりわからん」
ピノがまたしゃべろうとすると、魔法使いが言葉を遮りました。その言葉は、ピノにはまったくわかりませんでした。
言葉が通じないのです。
「えーと、お、あったあった」魔法使いは片手にピノを掴んだまま、もう片方の手で不思議な形のペンダントを持つと、それを首に掛けました。「どれどれ、なんかしゃべってみろ」
「あ、あの。僕ピノです」
「ふんふん、ピノね」
ペンダントを首にかけたので、ピノの言葉は魔法使いに通じるようになりました。さすが魔法使いの持つ道具です。ピノはやっぱりここに来てよかったと思いました。