6.
「次の日、ポンは”虹のしずく”を仕事場へ持っていきました。」
というひと文を入れるかどうか迷って、結局入れませんでした。
まだ迷っているので、前書きに書いておきます。
ピノが2階で作業をしていると、階下から兄弟子のポンと親方の話し声が聞こえました。一瞬、親方が「ほう!」と感心したような声を出したので、ピノはなんとなく気になって、聞き耳を立てて作業していました。
「そうだ、大切な人に渡すんだから、こうやってよく研磨して」
「はい」
親方に何やら教わって、ポンは何かを磨いているようでした。
大切な人に渡す何か。
ピノはそれが何だかとても気になりました。
兄弟子のポンの大切な人とは、もしかして自分のことなんじゃないかしら。そう思ったのです。だって、ポンはいつもピノのことをよく面倒見てくれて、ふたりは仲良しだからです。
兄弟子として、ピノに何かくれるのでしょうか。
ピノはとても気になりましたが、親方とポンのそんなやりとりをしているところに、のこのこ出て行くようなことはしないで、2階で作業を続けました。
◇◇◇
その数日後のことです。
「ピノ、出かけてくるから工場を頼むよ」
と、ポンが出かけるところでした。ちょうど親方も先ほど「サボるんじゃねえぞ」と言って、出かけたところです。
「うん、どこ行くの?」
ピノが聞くと、ポンは少しウキウキするような顔をしていました。
「どんぐりのお祭りの準備だよ」
それを聞くと、ピノも嬉しそうな顔をしました。
もうすぐ西の森の感謝祭「どんぐりのお祭り」があるのです。ポンはそのお祭りのために準備に行くところでした。
「そうなんだ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ポンを送り出して、ピノは飛び跳ねたくなりました。
美味しいものがたくさんあって、女の子たちが可愛く着飾ってやってくるどんぐりのお祭りは、とても楽しいのです。
ピノは嬉しくなって、ふんふんと鼻歌を歌いながら、工場の作業机のそばでクルクル回っていました。
「る~る~、あっ」
だけど、そこは工場で、ピノは机にぶつかって腰を打ってしまいました。
「あいたたた・・・」
腰を擦りながら、少し恨めしそうに机を見ると、そこに見慣れない物が置いてありました。
「なんだ、コレ?」
いつもポンが細かい物を作っている作業机です。妖精の羽を作るための小さなパーツだけではなくて、小さな箱の中にフワフワの綿が入っていて、そこにガラス玉のようなものがチョコンと乗っかっていました。
こんなもの、羽根作りには必要なさそうですが。
ピノはそのガラス玉に見える何かを摘まんでみました。ただのガラス玉にしては中に澱が見えます。よくよく見ると、少し虹のように見えます。
「ふうん」
なんとなしに暖炉の火を透かして見ると、いきなり部屋中に七色の光りが散りました。
「うわあ!」
ガラス玉から発せられた光りに驚いて、ピノはそのガラス玉を落としてしまいました。
「あ、まてまてまてっ、まっ」
コロコロ転がるガラス玉を慌てて追いかけて、ピノは作業机の下に潜り込みました。だけど、ガラス玉は小さくて、すぐにどこかの隙間に落ちてしまったようです。どこを見ても床中探しても、見つかりません。
「うわあ・・・どうしよう」
フワフワの綿の上に大事そうに置かれていたのですから、きっとポンの大切なものなのでしょう。そんなものを勝手に触って落として失くしてしまうなんて。
ピノはもう一度探しました。
机の脚元や、床の割れ目、壁との境目も見ました。置いてある棚の裏側も見ましたし、カゴをどけてその下も見ましたが、やっぱりガラス玉は見つかりません。
「どうしよう、ポンの大切なものなのに」
ピノは泣きそうでした。だけど泣いたって失くしたものは見つかりません。なんとか、ポンが帰ってくるまでに探さないと・・・ピノはとにかくもう一度床を隅々まで見ました。