5.
そこでポンは考えました。
さっき妖精と一緒にいた時は、あんなに幸せでした。どうして幸せだったのでしょう。
それは、ポンが彼女のことを考えていたからです。だからポンは幸せでした。そうしたら妖精がやってきて、ポンが幸せだと嬉しい、と喜んでくれました。だからポンはもっと幸せになりました。
幸せは増えるのです。
では、ピートと一緒にいるとどうでしょう。
ピートはポンのことが嫌いですし、ポンもピートのことはあんまり好きではありません。だから話していると自然とお互いに嫌な気持ちが膨らんでしまうのです。
嫌な気持ちも増えるのです。
ポンはこれ以上嫌いな気持ちが増えないようにしなければならないと思いました。それで、さっきの幸せな気持ちをピートにも分けてあげようと思いました。
「ピート、ねえ、妖精はね、本当に素敵なんだよ。僕はさっき、妖精にたくさん幸せをもらったんだ。君にもわけてあげたい」
「は?何言ってるんだ。妖精なんて気持ち悪い」
ピートは妖精のことも嫌いなようでした。
普通誰だって、妖精を見れば幸せな気持ちになるのに、ピートはそんなことないのでしょうか。それとも、普段妖精にあの素敵な羽糸を横取りされていると思い込んでいるせいで、本当の妖精の姿がわからないのでしょうか。
ポンは思い切って“虹のしずく”をピートに見せることにしました。
本当はとても貴重なものですし、負の感情にさわると壊れてしまうかもしれないので、ピートにだけは見せたくありませんでした。
だけどポンは、いつも文句ばかり言っていて幸せを感じていないピートが、なんだか可哀そうになってしまったのです。それで、その大切な虹のしずくをピートに見せることにしました。
「ねえ、これを見てよ。さっき妖精にもらったんだ」
ポンはふところから大事そうに“虹のしずく”を取り出しました。そしてそれを手のひらに乗せてピートによく見えるように差し出しました。
虹のしずくは、さっき虹からしずくが垂れてきた時よりもずっと固くなっていて、宝石のようになっていました。白っぽくて中に澱のようにキラキラ光るものが見えます。よく見るとただの白い色というよりは、いろんな色が混ざっているように見えます。まさに、虹からできた宝石でした。
ピートはしばらく、目を真ん丸にしてその石に見入っていました。この石を見るだけで、ポンは幸せな気持ちが流れ込んできます。きっとピートにも幸せがわかるのではないでしょうか。そんな期待を込めてピートを見ると、彼は急に目が覚めたように頭を振りました。
「な、なんだ、妖精にもらった石なんて、気持ち悪い。いいか?奴らは仕事をしないなまけものだ!」
ピートはそういうと、ポンに肩をぶつけて大股で向こうへ去っていきました。
ピートは幸せな気持ちがわからなかったのでしょうか。いいえ、きっとほんの少し幸せを感じたのだと思います。だからそれ以上文句を言わずに自分から去っていったのでしょう。
ポンはきっとそうだと思いました。
あんなふうに言われても、ポンはもうピートを嫌だとは思いませんでした。彼ももっと幸せを感じられたらいいのになと思いました。
ポンは家に帰り、ホッとして虹のしずくを見ました。
途中ピートに会った時は、虹のしずくを壊してしまうかもしれないと思いましたが、ちゃんと石の形をしたまま家に持って帰ることができました。
それは、今はコロンと丸くなり、相変わらず幸せがギュっと詰まっているようでした。
幸せは増えるもの。
誰かの幸せを喜ぶと、どんどん増えるのです。誰かの幸せを感じると、もっと幸せになれます。その人の笑顔を見ればまたほかの人も幸せになるでしょう。
ポンはそれを知って≪明日、工場に持って行ってみんなにも幸せのおすそ分けをしよう≫と思うのでした。