表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

14.


 ピノがいつもと違う様子でわんわん泣いていたその時です。

 ピノの懐がふくらんで、衣服の中が光り出しました。

「あ、ピノ!」

「なんだそりゃ、ピノ!」

 親方とポンも驚いていますが、ピノも驚いて自分の胸の光を見て固まってしまいました。

 そこで親方はすぐにポンの襟首から手を突っ込んで、懐にしまってあった石をむんずと掴みだしました。

 親方の手に握られた石は、黒くて冷たいのに、まるで花火のように火花が散っていました。

「なんだこりゃあ」

 親方は驚きながらも、石から手を離さずに観察しています。

 それを見て、ピノはさらに泣き出しました。

「うわあん、ごめんなさいっ。僕が怒ったり泣いたりしたら、その石に怖いことが起こるって、魔法使いが言ったんです。それは、魔法使いにもらったんです」

 ピノはまた、わんわん泣き続けました。なんだか泣くことが止められないのです。これも“我慢強さ”を取られたせいなのでしょう。

 ピノが泣き続けるので、黒い石の火花は止まりません。ぱちぱちと爆ぜながら部屋中に飛び散りました。

「こりゃ、こまったな」

「ええ、でもきれいですよ」

 ポンは落ち着いて火花を見ていました。

 すると、床に落ちた火花が今度は何かに反射したように、ピカピカと光りました。

「あっ、すごい!」

 部屋の隅の戸棚の前に落ちた火花だけが、どういうわけか弾けた後に七色の光を発するのです。それはとてもきれいでした。

 ポンはその場所をよく見てみました。戸棚のそばです。ゆかの板と板の隙間が火花を反射してキラリと光るのです。少しずつ顔を寄せて行くと、どうして光るのかがわかりました。

「あったー!」

 なんと、そこにはピノが落としてなくしてしまった、あの“虹のしずく”が挟まっていたのです。それが、黒い石の火花で反射してキラキラと七色にひかっていたのでした。

 ポンが虹のしずくを取り出して、親方の持つ黒い石のそばに持っていくと、黒い石の火花はもっと虹のしずくに反射して、部屋中が光る虹の中のようになりました。

 さすがのピノも涙を引っ込めました。

「うわあ」

「これはすごい」

 3人はただただ、びっくりしてその光を眺めていました。

 それでもやがて、ピノが泣き止んだので黒い石の火花もおさまりました。すると虹のしずくの光りもなくなりました。


 光りがおさまって、3人が落ち着くと、ピノは、どうして魔法使いのところに行ったのか。そしてどうやってこれをもらったのかを、親方とポンに説明しました。

「さすが、魔法使いは賢者とも言われるだけあって、ピノの使い方を心得てらっしゃる」

 親方は感心していました。

「あの、だから、これ、ポンにあげようと思ったんだけど……」

 ピノは黒い石を持って困っていました。だって、ポンの“虹のしずく”はちゃんと見つかったのですから。

「ポンのためにもらってきたなら、ポンにやるんだな」

「え、いいの?」

 ピノは、親方に聞きました。

「当たり前だ。良いか、虹のしずくは確かに清らかな石だし、この黒い石は清らかじゃないかもしれん。だけど、怒ることや泣くことは悪いことじゃない。誰だって生きていりゃ、怒ることや泣くこともあるだろう。それは誰かに何かを気づかせたり、やさしい気持ちを育むために必要な感情だ。少なくとも小人はそうやって成長するもんだ。だから、この二つの石は、むしろ二つそろっているべきだろう」

「うん、じゃあ、ポン、これ……結婚おめでとう」

「ピノ、ありがとう」

 ピノが怒って泣いたから、虹のしずくが見つけられたように、怒ることや泣くことは悪いことばかりでないことは、この石のおかげでよくわかりました。

 どちらかひとつより、二つの石が一緒にあることはとてもいいことです。

 まるで、これから結婚する二人が、お互いを思いやって補い合って成長することを示しているかのようだとポンは思いました。

 そんなことはまだまだ子どものピノにはわかりませんでしたが、ピノも好きな子ができたときに、気が付くのかもしれません。


 こうして、どんぐりのお祭りの日に、ポンはふたつの石を彼女に捧げてプロポーズしました。

 そばでピノが、手を叩いて二人をお祝いしていました。



おしまい


これにて完結となります。

最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 虹のしずくと魔法の石 最終話まで拝読させていただきました。 今回は、ピノ、ポンそれぞれが試練を乗り越えていく感じですね。 試練の内容は、双方ともに怒ったり泣いたりしないこと、になっていま…
[良い点]  ピノ、がんばったかいがありましたね。  最後。  魔法使いのイキなはからいだったったのでしょう。  ポンはふたつの石を彼女に捧げてプロポーズ。  とてもステキな物語の閉じ方でした。  そ…
[良い点]  吉野弘の祝婚歌を思い出しました!  親方なんて素敵な言葉なんでしょう。ピノもポンもきっとその言葉を心に刻んだでしょう。ポンもお相手に石の由来とともに伝えて、きっと仲のよいなれると予想でき…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ