14.
ピノがいつもと違う様子でわんわん泣いていたその時です。
ピノの懐がふくらんで、衣服の中が光り出しました。
「あ、ピノ!」
「なんだそりゃ、ピノ!」
親方とポンも驚いていますが、ピノも驚いて自分の胸の光を見て固まってしまいました。
そこで親方はすぐにポンの襟首から手を突っ込んで、懐にしまってあった石をむんずと掴みだしました。
親方の手に握られた石は、黒くて冷たいのに、まるで花火のように火花が散っていました。
「なんだこりゃあ」
親方は驚きながらも、石から手を離さずに観察しています。
それを見て、ピノはさらに泣き出しました。
「うわあん、ごめんなさいっ。僕が怒ったり泣いたりしたら、その石に怖いことが起こるって、魔法使いが言ったんです。それは、魔法使いにもらったんです」
ピノはまた、わんわん泣き続けました。なんだか泣くことが止められないのです。これも“我慢強さ”を取られたせいなのでしょう。
ピノが泣き続けるので、黒い石の火花は止まりません。ぱちぱちと爆ぜながら部屋中に飛び散りました。
「こりゃ、こまったな」
「ええ、でもきれいですよ」
ポンは落ち着いて火花を見ていました。
すると、床に落ちた火花が今度は何かに反射したように、ピカピカと光りました。
「あっ、すごい!」
部屋の隅の戸棚の前に落ちた火花だけが、どういうわけか弾けた後に七色の光を発するのです。それはとてもきれいでした。
ポンはその場所をよく見てみました。戸棚のそばです。ゆかの板と板の隙間が火花を反射してキラリと光るのです。少しずつ顔を寄せて行くと、どうして光るのかがわかりました。
「あったー!」
なんと、そこにはピノが落としてなくしてしまった、あの“虹のしずく”が挟まっていたのです。それが、黒い石の火花で反射してキラキラと七色にひかっていたのでした。
ポンが虹のしずくを取り出して、親方の持つ黒い石のそばに持っていくと、黒い石の火花はもっと虹のしずくに反射して、部屋中が光る虹の中のようになりました。
さすがのピノも涙を引っ込めました。
「うわあ」
「これはすごい」
3人はただただ、びっくりしてその光を眺めていました。
それでもやがて、ピノが泣き止んだので黒い石の火花もおさまりました。すると虹のしずくの光りもなくなりました。
光りがおさまって、3人が落ち着くと、ピノは、どうして魔法使いのところに行ったのか。そしてどうやってこれをもらったのかを、親方とポンに説明しました。
「さすが、魔法使いは賢者とも言われるだけあって、ピノの使い方を心得てらっしゃる」
親方は感心していました。
「あの、だから、これ、ポンにあげようと思ったんだけど……」
ピノは黒い石を持って困っていました。だって、ポンの“虹のしずく”はちゃんと見つかったのですから。
「ポンのためにもらってきたなら、ポンにやるんだな」
「え、いいの?」
ピノは、親方に聞きました。
「当たり前だ。良いか、虹のしずくは確かに清らかな石だし、この黒い石は清らかじゃないかもしれん。だけど、怒ることや泣くことは悪いことじゃない。誰だって生きていりゃ、怒ることや泣くこともあるだろう。それは誰かに何かを気づかせたり、やさしい気持ちを育むために必要な感情だ。少なくとも小人はそうやって成長するもんだ。だから、この二つの石は、むしろ二つそろっているべきだろう」
「うん、じゃあ、ポン、これ……結婚おめでとう」
「ピノ、ありがとう」
ピノが怒って泣いたから、虹のしずくが見つけられたように、怒ることや泣くことは悪いことばかりでないことは、この石のおかげでよくわかりました。
どちらかひとつより、二つの石が一緒にあることはとてもいいことです。
まるで、これから結婚する二人が、お互いを思いやって補い合って成長することを示しているかのようだとポンは思いました。
そんなことはまだまだ子どものピノにはわかりませんでしたが、ピノも好きな子ができたときに、気が付くのかもしれません。
こうして、どんぐりのお祭りの日に、ポンはふたつの石を彼女に捧げてプロポーズしました。
そばでピノが、手を叩いて二人をお祝いしていました。
おしまい
これにて完結となります。
最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。