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13.



 帰り道は、魔法使いがカラスに乗せてくれたので、ピノはすぐに家に帰ることができました。

 帰ってからピノは魔法使いのことを考えました。

 脅かすようなことをたくさん言いましたが、結局あの人はピノに悪いことを何もしませんでした。ただ、考えなしに森のはずれまでのこのこと出ていくことは危険だと教えてくれただけでした。確かに人間は、小人を珍しがって捕まえるのかもしれません。だけど、あの魔法使いがあそこで小人を見かけるたびに、そのことを教えているのでしょう。だから、小人たちは魔法使いは怖いと噂しているのかもしれません。

 どちらにしろ、ピノはあの魔法使いのことをとても良い人だと思いました。



 次の日、ピノは例の黒い石を懐にいれて工場に行きました。どうやってポンに渡したらいいでしょうか。

 もう明日はどんぐりのお祭りの日です。

 ピノが持ってきたこの黒い石を渡したところで、ポンはこれをプロポーズには使わないかもしれません。だって、石は真っ黒ですし、魔法使いが“怖いことが起こる”と言っていたではありませんか。そんな石、ポンは嫌がるかもしれません。

 魔法使いからもらうときは、考えていませんでしたが、プロポーズには不向きな石だということにピノは愕然としました。

≪どうしよう。ポンに見せない方が良いかな≫

 自分でもどうしていいかわかりません。

 ピノの気持ちは、せっかく遠くまで行って、少し怖い思いもしてまで手に入れた魔法使いの石ですから、ぜひポンにあげたいと思うのです。だけど負の感情が大好きで、怖いことが起こるかもしれない石なんて、やっぱり見せない方がよさそうです。

 頭ではそうわかっていました。

 それで、ピノはせっかく懐に持っていた魔法使いの黒い石をポンに見せるのを諦めることにしました。



 工場では今日も、ポンがピノに部品作りを教えてくれています。

「ピノ、聞いてた?」

「あ……ごめん」

 石のことばかり考えていたので、せっかくポンが丁寧に教えてくれていたことを聞いていませんでした。

 だって、ポンのことを見ていると、どうしても石のことを言いたくてうずうずしてしまうのです。

「こうやって、こうだよ?」

 ポンがもう一度同じことを教えてくれても、ピノはもう石のことしか考えられません。ポンに内緒にしておくことが我慢できなくなったのです。

「あの、ポン!」

 我慢ができなくなって、ピノは大きな声が出てしまいました。

「うん?どうしたの」

「僕、魔法使いのところに行ったんだ。それで」

 と言いかけて、ピノは気づきました。

 ピノは本当はもっと我慢強いはずです。それなのに我慢ができなかったのは、魔法使いがピノの“いいところ”を取ったからです。

「ピノ、魔法使いのことは今は関係ないから、ここの説明が終わってからにしてくれない?」

 ポンがそういうと、ピノはもっと大きな声が出てしまいました。

「やだ!僕のこと、聞いてくれなくちゃいやだ!」

 一度自分のわがままを通すと、ピノはもっと我慢ができなくなりました。

「ピノ……」

 ポンは困ったようにピノを見ています。

「違うんだ。僕は魔法使いのところに行って、我慢強さが代金になったから、今日は我慢ができないんだ!お願い、僕の言うこと聞いて!」

「うん?待って、どういうことかよくわからないよ」

「だからっ、僕は魔法使いのところに行ったんだよ。それで、魔法使いの石を、」

「くぉら、ピノ!なあに仕事中に大声だしとるか!」

 ピノが魔法使いの石のことを説明しようとしたとき、上階から親方がおりてきました。大きな声でピノをしかりつけています。

「あ、親方!」

 さすがにピノは一瞬口を閉じました。

「目上のもんに教えてもらってる時に口を挟むんじゃねえ!遊びでやってんじゃねえんだぞ」

「わかってます、でも!」

 普段だったら、親方に怒鳴られても絶対に口ごたえをしませんが、ピノは今日は我慢ができませんでした。自分には自分の言い分があるのです。

「でもじゃねえ!今は仕事をする時間だ。それっくらいのケジメもねえんだったら、もういっぺん学校に戻ってやりなおしてこい!」

 親方はそういうと、ピノの襟首をつかんで工場から追い出そうとしました。ピノは慌てて

「ごめんなさい、ごめんなさい!」と叫びました。

 ピノは、ポンにちゃんと伝えられなかったことと、親方に怒られたことと、自分のいつもの我慢する力がなくなってしまったことで、すっかり混乱してしまいました。それで、わけがわからなくなったところで、

「うわあーん!」

 と子どもみたいに泣きだしたのです。

 親方とポンはピノの様子があんまりにも変なので、あっけにとられてしまいました。



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