12.
それから魔法使いは棚の前に立ち、何かごそごそしていました。そして、ピノの方を向いたとき、手にはピンセットを持っていました。
「君が妖精の羽を作っているのに免じて、そこから出してやろう。それに、魔法使いの石をやらないこともない」
「本当ですか!ありがとうございます」
急に魔法使いの態度が変わったので、ピノは喜びました。
「だけど、条件がある。魔法使いの石をやるからには、ただというわけにはいかない」
「あ、そうか」
ピノはお金のことなど何も考えていませんでした。どうやって支払いをしたらいいでしょうか。
「魔法使いの石だからね、怖いことが起こるかもしれない。それでも持っていくかい?」
「はい」
「じゃあ、この石の説明をしよう」
ピノのあっけらかんとしたようすに苦笑しながらも、魔法使いはピンセットの先に挟まれた石を、ピノに見えるように掲げました。それは小さくて真っ黒の石でした。でも、ツルツルに磨いてあります。ただの石ころとは違うことはピノにもわかりました。
「この石はね、怒ったり泣いたりすることが大好きでね。君が負の感情を持った時に何かが起こる。そういう石だ。怖いことが起こらないでほしいなら、この石を持っている時に、怒ったり泣いたりしないほうが良いだろう」
「はい」
さすが、魔法使いの石です。それに、この魔法使いは自分のことを悪い魔法使いだと言い張っているので、そういう石をくれるのでしょう。
「それから代金は……そうだな、君の良いところをもらおうか」
「僕の良いところ?」
どうやらお金や物ではないようです。ピノはハテと首をかしげました。
「君は何か得意なことがあるかい?たとえば、誰にでも褒められる特技のようなものとか」
「えーっと……なんでも食べるし……」
誰にでも褒められるような特技は思いつきません。
「それだけかい?」
「気が長い、あ、我慢強いって言われたことがあります」
「ふむ。では、その我慢強さをもらおうか。今日と明日、君の我慢強さをもらっておく」
「二日だけ?それだけで良いの?」
「たとえたった二日でも、自分の性格が今までと変わっていたら、しかもそれが、長所ならなおさら、大変だと思うがな」
魔法使いは笑いながらピノを瓶から出してくれました。
そして机の上にピノを立たせると、ピノに向かって何か呪文をかけました。
「これで君は、今日と明日、些細なことでも我慢ができなくなる。気を付けたまえ、君が我慢をしないとその石はどうなるかわからないぞ?」
魔法使いは、低い声で囁くように言いました。さすがにピノは少し怖くなりました。やっぱりこの魔法使いは悪い魔法使いだったのでしょうか。ピノの良いところを取って、怖い石を渡しただなんて、ほかの人が聞いたら、その石を捨ててしまったかもしれません。
でもピノは、どうしてもポンに珍しい石をあげたかったのです。(ただ珍しいだけでなく、この石は確かにとてもきれいでした。)だから、ポンのために頑張ろうと思いました。