11.
ピノは魔法使いのことを慎重に観察しながら、なんとかしてここから出してもらうための言葉を探しました。
「そうですね……あなたは、筋を通す人なんだと思います。本当に悪い人だったら、僕をもっと怖がらせるでしょう?だけど、こうして瓶に入れても、暗いところに閉じ込めたりしません。それどころか、僕が転がり落ちないように、あなたと話しやすいように、瓶に入れたんじゃないですか?瓶の中からのほうが、あなたに声が届くんだと思います」
ピノはだんだん何を言っているのかわからなくなってきました。
初めて会った人の良いところなんて、そんなに簡単にわかるはずありません。ただ瓶から出たいだけなのです。
でも魔法使いは、ほう、と感心したように息を漏らしました。
「確かに、瓶の中にいてもらったほうが声が聞こえやすい。君の声はか細いからね」
「もしかするとあなたは、小人のことを知りたいんじゃないですか?僕を見世物にするにしても、焼いて食べるにしても、今すぐってわけじゃないのなら、小人のことを教えてあげますよ?」
どうやら魔法使いと会話がなりたっています。ピノは、この魔法使いとたくさん話しをして、仲良くなろう大作戦に出ました。
「ああ、それはもちろん興味がある。俺はね、森で時々小人を見かけるが、そんなにたくさんいるものなのかね?」
「時々見かけるんですか?ああ、だから、森のはずれに魔法使いが住んでいるってみんな知っているんですね。そうそう、小人はこの森にたくさんいますよ。僕たちはこの森全体に住んでいるんです。北の寒いところにもいるんですよ」
「ほう。そうなのか。でも、住み家は見たことがない。どういうところに住んでいるんだい?」
「それは、小人によって違います。小鳥の巣に住んでいるのもいますし、木の中に住んでいる小人もいます。穴を掘って住んでいる人もいます。みんな自分の住みたいところに住むんです。ああでも、北の方だけは寒いので、人間のような家を建てる小人たちもいます」
「自由な感じなんだなあ。仕事は?食べ物とか着るものはどうやって得ているんだい?」
「そりゃ、森は豊かですから、食べ物はどこにでもあります。僕たちは小さいですから、木の実だってほんのちょっとあれば十分です。動物たちと仲良しだから、わけてもらうことだってありますよ。
仕事も色々です。僕たちは物を作るのが得意なんです。だから、みんな何かを作る仕事をしていますよ」
「お前さんは?何の仕事をしているんだい?」
ピノと話をしていると、魔法使いの顔はどんどん優しくなってきました。ピノは、この魔法使いは、怖い人ではないと確信し始めました。でも、まだ瓶から出してくれそうにありません。
「僕は妖精の羽を作っています」
「妖精の羽だって?なに、妖精って、あの妖精かい?」
魔法使いは驚いて立ち上がり、窓から外を指さしました。
外には森の葉っぱを秋の色に染めている妖精が見えます。
「はい、あの妖精です」
ピノは嬉しくなりました。
普通、人間は妖精のことが見えません。だけど、魔法使いは妖精の姿が見えているのです。
「妖精は、季節ごとに羽が変わるんです。あの妖精は秋の羽をつけているので、羽が金色でしょ?工場では、今、冬の羽を作っているんです。冬の羽は白く見えるけど、雪の結晶みたいにキラキラ光ってとってもきれいなんですよ。僕はその工場でまだ見習いなんです。やっと小さな部品作りをしているところで、すごく難しいんです。
工場には親方と、あとポンしか職人がいないから、僕も早く一人前になりたいんです」
「そうか。妖精の羽を作っているのは小人だったのか」
「そうです。妖精たちはね、ただああやって季節を変えるだけじゃないんですよ。みんなに幸せを届けているんです。妖精が葉っぱに触ると、妖精の愛も一緒に届けられるんです。だから森の中はみんな幸せなんです」
ピノがそういうと、魔法使いはじっと窓の外の妖精を眺めていました。
「それで……その妖精の羽を作っている小人が、なんでまたこんなところへやってきたんだ?」
「あ、そうだ!あの、僕、ポンのガラス玉をなくしちゃったんです。だからポンのガラス玉の代わりに、何かすごい石とか玉とか、魔法使いさんのところにないかと思って来たんです」
「ポンのガラス玉?」
「僕の兄弟子のポンです。白くてきれいなガラス玉で、暖炉の火に透かしたらピカって光って、驚いて落としたたらなくなっちゃったんです、あの、すごく大事な石で、それがないとどんぐりのお祭りでポンが困るっていうか、」
魔法使いはピノの話を聞きながら、また机の方に戻ってくると、あご髭をなでながら、ふむと思案するような顔をしました。