10.
「なんだか、高い声でピーチクパーチク聞こえると思ったら、まさか小人が迷い込んでくるとはねえ」魔法使いはピノを見ながら笑いました。「珍しい小人だ。瓶に入れて見世物にしたら、さぞみんな面白がるだろうねえ。俺もがっぽり儲かりそうだ。ははは」
魔法使いの声はとっても低くて、ピノの耳がびりびりしました。だけど、怖いのは声ではありません。魔法使いのしゃべった内容のほうが怖いのです。ピノはそれがどういう意味なのかすぐには理解できないでぽかんとしてしまいました。
すると魔法使いはもっと面白そうに笑いました。
「まだわからないという顔をしているね。君はね、俺につかまってしまったんだよ。森のはずれに怖い魔法使いが住んでいるって聞いたことがないかい?魔法使いは君たち小人から見ればずっと大きいからね。君たちのことを捕まえるなんて造作もないことだ。それに、小人はあぶらがたっぷりのっていて、焼いて食うと美味いと言われている。大きな人間たちは、君のことを見たらよだれを垂らすだろう。さて、君は瓶に入れられて見世物になるのと、焼いて食われるのはどっちが良いかい?」
そう言いながら、魔法使いは大きなガラスの瓶を机に置いて、その中にピノのことをポイと投げ入れました。
「いた!」
瓶の底に落ちてピノはお尻をぶつけてしまいました。
だけど痛さなんて感じません。それよりも、この瓶に入れられたらピノは外に出ることができません。
瓶に入れられたことで、やっと自分が大きな人に捕まったということがわかったのです。痛さよりも、早まったことをしてしまったと感じました。このままではピノは見世物になるか焼いて食われるか、どちらにしろ、家に帰れません。なんとかここから出なければとピノはうろうろしました。
瓶はピノが飛び上がれる高さではありません。幅も広いので、手足を突っ張って登ることもできないでしょう。それにガラスですから爪をたてることもできません。これは、自分で瓶から抜け出すことは絶対にできないでしょう。魔法使いに出してもらわなければなりません。
「魔法使いさん、お願いです。ここから出してください」
ピノは、ここに来たことは本当はいけないことだったと感じましたが、それでも魔法使いに素直にお願いしてみました。
だってピノから見ると、魔法使いはそんなに悪い人には見えないのです。珍しい小人を捕まえたからと言って、見世物にするような人には感じなかったからこそ、ピノは恐れもしないで声をかけたのです。
「いいや。そこから出すわけにはいかない。だって君は、森のはずれに怖い魔法使いがいるって知っていただろう?なのに、なぜのこのこここに来たりしたんだ?捕まるかもしれないってわかっていたはずじゃないか」
「魔法使いさんこそ小人のことを知らないんですか?僕はね、あなたの顔を見た時に、あなたのことを信頼したんです。もし、一目見てあなたが悪い人だって思っていたら、すぐに隙間に隠れますよ。僕にはそれができるんです、小人ですから」
魔法使いの顔から、今まで面白そうにしていた笑顔が消えました。少し驚いたようにガラス瓶を覗いています。
「俺を信頼しただって?見ただけでそんなことがわかるはずないだろう。現に君は、瓶に入れられてしまったじゃないか。君のカンは当たらなかったみたいだねえ」
「いいえ、魔法使いさん。あなたは良い人です。だって、ちゃんと僕に理由を教えてくれるじゃないですか。小人は珍しいとか、あぶらがのってて美味しいとか。ね、もしあなたが悪い人なら、その魔法のペンダントなんて使わないで、問答無用で僕を捕まえたことでしょう。僕にはあなたが悪い人には思えません」
「ふうん。なかなか面白いことを言う小人だな。じゃあ、俺が悪い人間じゃないって証明できることをもう少し教えてもらおうか」
魔法使いは本格的にピノと話をしようと思ったのでしょう。椅子にどっかりと座り、机に肘をつきました。