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声と。
エリカは自分が何処に向かっているのかも分からないまま、ただ声と光に導かれて歩いた。歩みを進めるにつれ、頭にぼんやりともやがかかるような感覚に襲われた。思考は停止し、意思などなく、勝手に足が動いていた。彼女にはそれが心地よく思えて、恐れるものは何も無かった。
時刻は恐らくもう深夜であろう。突如大きな池が前に現れた。光は池の中へと続いていた。すると、今まで同じ言葉を繰り返していた声は、
「池を覗いてごらん。」
と言った。夢心地な様子の彼女はふらふらと池へ歩み寄り、覗き込んだ。
次の瞬間、エリカはハッと我に返り、脳が再起動し始めた。しかし、脳の整理は追い付かず、池に映った自分の顔が、全くの別人であることを受け入れるのに、たっぷり3分かかった。自分の顔が本来映るはずのところに、あどけない少年の笑顔があった。しかも、エリカはこの少年を知らない。動揺し、尚池を覗き込んで固まっているエリカを、水の中の少年は笑みをたたえて真っ直ぐに見つめ返していた。