表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水面下  作者:
1/4

孤独と。

 エリカは、今日も街のはずれの倉庫の中で目覚めた。その倉庫は今は使われておらず、だれも近寄りはしなかった。むしろ、忌み嫌われている場所だった。理由はいくつかある。一番大きな理由は、「酔っぱらったおっさんが稀に立小便をしに来るから」だそうだ。もちろんエリカは、倉庫に滅多に人が来ないこととその理由も知っている。だから、倉庫に住み着いている。髪を切るお金もなく、2年ほど伸ばしっぱなしにしている。腰まで伸びた髪はとても傷んでおり、哀れみの感情さえ抱いてしまうほどだ。もちろん髪を整える鏡もくしも、ましてや髪飾りなんて一つも持っていなかった。エリカはむくりと起き上がり、髪を適当に手櫛でといた。髪はギシギシと指に引っ掛かり、何本か抜けた。彼女はしかめっ面をし、掛布団にしていたぼろぼろの薄い布を畳んだ。着替える服もなく、彼女が持っているのは1着だけだった。2年前、街でエリカと偶然出会った旅人が、あまりにも彼女を不憫に思ったのだろう、高級なワンピースを買ってやったのだ。無地のクリーム色で、質素で飾りは無い。しかし、布の質はとてもよく、着心地も最高であるため、彼女はありがたかった。

 エリカは親の顔を知らない。街の酒場の手伝いをして何とか毎日を送っている。今日も、みすぼらしい姿で市場へと歩いた。昼間から飲んだくれている若者もおり、そこはエリカの年で働くにはいささか危険である。が、エリカを受け入れてくれる場所は酒場以外になかったため、仕方がなかった。幸い、店主はとても大柄で、人柄の良い人物だった。酒場自体は繁盛しているとはいえないが、店主はよく、余った食材でエリカに賄いをふるまったり、ボーナスということにして給料を増やしてくれたりした。エリカは店主が大好きだったし、店主も健気に頑張るエリカを応援していた。

 今日も、日が暮れ始めた頃、店主がエリカに帰るよう促した。エリカはいつものように拒んだ。

「嫌です。これから人が多くなる時間帯なのに...」

「夜になると、めんどくさい客が次々に来るんだよ。エリカちゃんには危ない。任せられない。昼間だけでも大助かりだ。これ、今日の賄だ。夜ご飯にしなさい。大したことはできないけどね。明日もよろしくね。」

「...賄、ありがとうございます。明日もよろしくお願いします。」

「気をつけて帰れよ。」

 帰り道、倉庫に続く一本道を一人歩きながら、エリカは将来の自分を想像し、一筋、涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ