孤独と。
エリカは、今日も街のはずれの倉庫の中で目覚めた。その倉庫は今は使われておらず、だれも近寄りはしなかった。むしろ、忌み嫌われている場所だった。理由はいくつかある。一番大きな理由は、「酔っぱらったおっさんが稀に立小便をしに来るから」だそうだ。もちろんエリカは、倉庫に滅多に人が来ないこととその理由も知っている。だから、倉庫に住み着いている。髪を切るお金もなく、2年ほど伸ばしっぱなしにしている。腰まで伸びた髪はとても傷んでおり、哀れみの感情さえ抱いてしまうほどだ。もちろん髪を整える鏡もくしも、ましてや髪飾りなんて一つも持っていなかった。エリカはむくりと起き上がり、髪を適当に手櫛でといた。髪はギシギシと指に引っ掛かり、何本か抜けた。彼女はしかめっ面をし、掛布団にしていたぼろぼろの薄い布を畳んだ。着替える服もなく、彼女が持っているのは1着だけだった。2年前、街でエリカと偶然出会った旅人が、あまりにも彼女を不憫に思ったのだろう、高級なワンピースを買ってやったのだ。無地のクリーム色で、質素で飾りは無い。しかし、布の質はとてもよく、着心地も最高であるため、彼女はありがたかった。
エリカは親の顔を知らない。街の酒場の手伝いをして何とか毎日を送っている。今日も、みすぼらしい姿で市場へと歩いた。昼間から飲んだくれている若者もおり、そこはエリカの年で働くにはいささか危険である。が、エリカを受け入れてくれる場所は酒場以外になかったため、仕方がなかった。幸い、店主はとても大柄で、人柄の良い人物だった。酒場自体は繁盛しているとはいえないが、店主はよく、余った食材でエリカに賄いをふるまったり、ボーナスということにして給料を増やしてくれたりした。エリカは店主が大好きだったし、店主も健気に頑張るエリカを応援していた。
今日も、日が暮れ始めた頃、店主がエリカに帰るよう促した。エリカはいつものように拒んだ。
「嫌です。これから人が多くなる時間帯なのに...」
「夜になると、めんどくさい客が次々に来るんだよ。エリカちゃんには危ない。任せられない。昼間だけでも大助かりだ。これ、今日の賄だ。夜ご飯にしなさい。大したことはできないけどね。明日もよろしくね。」
「...賄、ありがとうございます。明日もよろしくお願いします。」
「気をつけて帰れよ。」
帰り道、倉庫に続く一本道を一人歩きながら、エリカは将来の自分を想像し、一筋、涙を流した。