我ら御茶漬け同好会!
----今日も元気だ!お茶漬けがうまい!----
「先輩。思うんですが、これなんなんですか?」
僕は壁に貼ってある謎の標語に指を差す。
「何を言っているんだね?……あぁ。君は昨日入部したばかりだったね」
放課後に部活にも入らず、寄り道しないで帰ろうとした矢先に、いきなり後ろから麻袋を被せられて拉致られ、気がついたら拇印付き入部届けを書き終えており、更には生徒会から入部の承認まで勝手に得られていたのを入部したと言って良いのだろうか。
因みに1日経った今でも何部かよく分かっていない。
「ようするに、ここは料理研究部か何かなんでしょうか?」
僕は【お茶漬け】という言葉から料理研究部か家庭科部だと推測し、先輩と思わしき人物に問いかける。
「近しい物ではあるね。ただ、そんな淫猥な部活と一緒にしないでくれないかね」
料理研究部や家庭科部というのの何処が淫猥なのだろうか。
というよりも、170はあるだろう身長と、大きなメロン(比喩)を二つも持っている上、先程見た学内新聞で【学園初!美女生徒会長!今までのむさ苦しい男の生徒会長とは何だったのか!?】等と書かれているのがチラッと写真つきで書かれていた人が、淫猥なんて言葉を使うのだろうか。
そういえば、名前なんて書いてあったかな。肩書きと顔しか見なかったしな。
「ふにゃー。気にしたらノンノンだよー。サトミちゃんはねー。いつもこうなんだよー」
「そうなんですか……って!?貴女誰ですか!?」
柔らかな空気をただ寄せながらも、何処から現れたかわからない身長目測140ほどで、胸もペタリンな幼女が僕と先輩との会話に参加して来た……。
僕、少し動揺してしまったようだ。落ち着こう。
「ふにゃー?サトミー?ワタシたちまだ自己紹介してなかったよー。大事なのに忘れてるよー」
「ああ。では自己紹介をしておくね。私は白湯のサトミ。里芋の里に、美味いの美で里美よろしく頼むね。あー。生徒会長とも言うね」
それを言い放つと、握手を求められたので、それを握り返す。
だか、その手を話す瞬間、僕は手の中の違和感に気付いた。
なんだ?何か入ってる?……なんだ?後輩へのイビリか何かか?と思いつつ、手のひらを開けてみたのだが……。
「先輩……何故にこのような物を僕に?」
「いや!?もしかして、君は嫌いなのかね!?しかもこのような物と言ったね!?部員としてあるまじき発言だよね!」
何をそこまで怒られてるのか僕にはわからないけど、とりあえずだ。
なんで僕は手の中にお茶漬けの元を握らされているんだろうか。
と、悩んでいる僕には目もくれず、もう1人の幼女(きっと先輩の妹さんだろう)が自己紹介を、続けざまにして来た。
「ふにゃー。ワタシー冷徹のパリアカカと言うんだよー。あ、なんかーブチョウ?って人らしいよーワタシー」
「えっと……パリアカカさん……で良いでしょか?」
いや、なんでこんな幼女に敬語を……ってあれ?部長ってことは……先輩ですか!?
「えーっとー。普通にシノブって呼んで欲しいなー」
「し、シノブ?なんでそんな呼び名なんですか?さっきの名前と何の共通点があるんでしょうか」
そんな疑問は鼻から予想済みだったかのように、シノブと呼ばれたい人は続ける。
「だってー。冷徹のパリアカカって、鬼頭君がワタシに付けただけだよー?所謂ニックネームってやつだよー」
ってことは僕、ニックネームを紹介されてたってこと?本名でなく?ってことはさっきの白湯のサトミって人もニックネームなのだろうか?
「うむ。正解だね」
「心とか読めたりします?」
「顔にキチンと、名前教えて欲しいな。スリーサイズもついでに教えて欲しいな。と書かれていただけだけど。違ったかね?」
「合ってますけど!後半のは1ミリも思ってないですから!」
それよりもだ、どうして淫猥なのだろうかという疑問を解決せねばならないだろうと口を開き掛けた時、一つの怒号が不明瞭な部活の部室内に響き渡った。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!今日もなんと来てくれたのか!嬉しいよ!うん!俺はとってもハイANDハイテンションだよ!うーん!君の二つ名は平凡な大地!これで決定だ!」
いきなり現れた青年。叫び声を上げる辺りが彼の熱血さを象徴している……ってあれ?こいつの顔何処かでみたことあるとおもったら、
「秒殺のテオじゃないのか!?」
僕は咄嗟に身構えていた。間違いない。
僕が中学生の頃に学校内で危険人物と恐れられていた、あの秒殺のテオだ。
「んー!そうだ!よく中学生の頃の二つ名を知っていたな!どのような経緯で俺を知ったんだ!答えろ!さもなくば、カキコムぞ!」
書き込む!?まさか……ネットの掲示板やら、裏サイトやらに……。
ここは正直に答えるべきか、偽装して答えるべきか……っておい!?
「ん!あむあむあむ!ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ?どうひた!?オヘの顔になんかついへるか!?……ん。お前さんが正直に答えないから、有言実行したまでだが?」
……いつ、そんな話をふられたのでしょうか。
まさか……!?
「テオさん?もしかして……さっきのカキコムって……」
「そうだよ!ご飯を掻き込むってことだよ!もちろん君は答えてくれなかったから食べさせてあげないよ!」
いや、学校でいきなり放課後の一教室でご飯を掻き込むと言う行為はどう考えても不自然極まりないので遠慮したい!……でも、ここが淫猥(白湯のサトミ的発言)な料理研究部に似たような部活なら問題ないのだろうけども。あれ。何が問題ないんだろうか。頭がこんがらがってきたよ。
「平凡な大地君に掻き込みを披露したところで、俺の紹介もしておかないとな」
秒殺のテオは少し真面目な目つきに変わってはいたが、如何せん口の横に付いている2.3個のご飯粒のせいで締りが無い。
……もうその呼び名で僕は過ごさないといけないのだろうか。
「君の知っての通り、昔は秒殺のテオと呼ばれていた!だがしかーーーし!その呼び名の付け親は、何を隠そう俺だ!」
……いや、まて。怖がられる二つ名をわざわざ自分でつけていただって?……通りで、昔誰に聞いても名の理由を知らないわけだよ。
「しかも!それを友人全員に伝え、危険人物とするように仕向けたのだ!勿論自作自演だったことを笑ってくれても構わないぞ!」
いや、そんなちょい強面の顔で言われても。
……自作自演?ってことは危険人物でもなんでもないわけか?
「秒殺のテオの意味はな……ま、見ての通りだ!あ、因みにテオってのは、ハンガリー語でお茶という意味だ。火山にいたり、爆発したりはしないからな」
そういって空になったお茶碗をこちらに向け、同時にホンノリいい香りのする魔法瓶を僕に向けてきた。
後半の発言の意味はよくわからなかったが。
「あのー?これでどういう……。まさか」
いや、流石にそれはないよな?そんなまさか。そんなことあるか?そんな1つ上の先輩の戯言のせいで、僕と他の学生の青春が侵されていたと言うのか?
「そうだ!飯が終わるのが秒殺であり、また、その飯が魔法瓶で持参する氷入りのヒンヤリ茶ということであるからだったのだ!」
……予想が的中して、ポカーンと口を開けて固まってしまうことって有るのだろうか。応。ある。現在そうなっているのだから。
「なんとも淫猥な口の開け方をしているのかね。白湯のサトミにそんな淫靡な姿をみせて、ハァハァ……。どうなっても、ハァハァ……」
「抑えてーー抑えてーー。大地君もー、口閉じないとスポンとぶち込まれちゃうよー?棒を」
棒!?生徒会長に棒をぶち込まれる!?あんな言葉を使う人だ。有り得なくも……。いやいや、そもそも生徒会長殿は女性ではないのか?
……フグッ!?
黒い物体が口の前に突き出されていた。
辛うじて黒い物体をぶち込まれる前に口を閉じた僕の口元には、名の通りの棒があった。
「棒って……うみゃい棒じゃないですか。しかもたこ焼き味」
うみゃい棒なら、いくらぶち込まれてもサクサクいけそうだ。男の口にぶち込むのならやはりうみゃい棒かアイスとかその辺りだよな。うん。
こんなことなら口を開けておくべきだったかな。
「っとっと。危ないところだった。もう少しで今日のご飯が無くなる所だったじゃないか」
言い終わるや否や、生徒会長はうみゃい棒たこ焼き味を元の袋に戻していた。
まさか、僕がキスしたうみゃい棒をそのまま食べるのか!?
通常の間接キスのレベルじゃない!?
それに生徒会長のご飯がうみゃい棒のたこ焼き味と言うのは、生徒会長的にどうなんだろうか!?
色んな疑問が解けないままの空間に無機質なピピッという音が鳴ったと思うや否や、
「ご飯が炊けました。……ところで今日の食材は持ってきたんかいな?持ってきてるはずやろうな。でなけりゃワシを起動せんわな。せっかく炊いた飯や!存分に食せ!いや、食え!」
……世の中にはオカシな炊飯器があるようだ。ご飯が炊けた瞬間に食材云々の話をする炊飯器を見たのは初めてだ。
というか、テオさんはご飯が炊けていない状態でどこからご飯をだしたんんだろうか。
「また口が開いてるよーー?しょうがないよねーーー。あれはワタシの発明品のー”炊飯器君ルイ38世”って言うんだよーー」
はい?発明品?炊飯器君ルイ38世?……フランスの国王の名前から取ったのだろうか?だとしたら、どうして関西弁?……うむ。
「ネーミングセンスはともかく、彼女、シノブ君は発明家らしくてね。科学のあれだ、なんとかって賞を貰っているそうだから安心して使えてるんだがね」
「生徒会長もシノブさんに何か作ってもらったりしてるんですか?」
何かモヤモヤしたものが頭に有ったが、直接聞いてみることにした。流石にここで下ネタには……。
「生徒会長ではなく、サトミと呼んでくれないかね?あー質問のこたえだがね?本当に効きたいかね?いや、現物もここに有るのだが見るかね?」
「ストーーーップ!サトミさん!やっぱりいいです!大体分かりましたから!」
危ないところだった。何やらポケットから丸い卵のようなピンク色の何かが見えていたのだ。流石に学園内で生徒会長にそんなもの見せられると言うのはだめだろ!
「ハァ……ちなみになんですが、テオさんは何か作ってもらったりとかは」
御座なりではあるが、途中から蚊帳の外にいた秒殺のテオ(自作自演)ことテオさんにも一応聞いてみたのだが、
「ある!これだ!」
といって、黒いものが投げられたのでそれを受け取ってみると、
「はい!?これって、手榴弾じゃないですか!?」
僕の手の中には重量のある黒と緑のカラーリングの手榴弾が有った……って!?そんな状況説明してる場合じゃない!?
「んん?震えているがどうかしたか!格好よすぎて武者震いか!」
元自衛隊の父を持つ僕は、本物の手榴弾を触ったことがある。勿論無断で触ったので父には後で死ぬほど説教を受けたけど。
その時の一度しか触れていないが、手の中の手榴弾はそれと同じ重量と手触りなのだ。
それを一学生が作った?いやいや、そんな技術力が……いや、実際に触れているし、シノブさんも賞を取っているよな人だ。無いとは言い切れない。
「って!?爆弾だったら危ないじゃないですか!?」
というか、安全弁引っこ抜かれてる!?
「死ぬ!死んじゃいますってぇ!テオさん!?安全弁はどこに!?」
ダメだ!このままだと死ぬ!?
「……?安全弁?そんなものはないぞ!」
はぃ!?安全弁が無い!?もしかして名称が違ったのか!?
「これならあるが」
そう言ってテオさんが僕に見せたのは先程お茶漬けを掻き込むのに使ったお箸だった。
対照的な輪郭だけの半円のある上部から細く芯が伸び、先端迄に幾つかの段差のよな物が見受けられる独特の模様だ。
「お箸の観察してる暇ないんです!このままじゃ爆発……ちょっと待てよ、渡されてから5分は経っているだろうに一向に爆発しないのはどうしてだ?」
そんな疑問にぶち当たってしまった。
手榴弾はあくまでも爆弾であり、安全弁を引っこ抜いたが最後、数秒で爆発するはずだ。
なのに何故爆発しない?僕の記憶の中の手榴弾とは別物だと言うのだろうか。
「ノンノンー。爆発しないんだよーー。ワタシの発明品のーーー?あれーーーなんだっけーー?ああーそうだー。”秒殺瞬殺君 OHASI"だね」
「爆発しないんですか。なら安心なんですけど、オー……なんですか?」
「OHASI!通称お箸と俺はそう呼んでいる!」
「いや、そう呼んでいるというよりも、お箸そのものではないかね」
テオさんの叫びに、サトミさんは冷静に突っ込みを入れているが、如何せん僕には理解が出来ていない。
だってどう見ても手榴弾にしか見えないです!
「失敗作とかそんな感じのものですか」
汗を滲ませながら質問をする。もし手榴弾の失敗作とかなら、火薬とか大量だろうし……。
「んーんーー違うよーー?あ、ちょーーっと貸してーみてーー?ありがとー今から、せつめーーするよーー、鬼頭君もーーお箸ちょーーだい」
「俺のお箸の時代が遂に来たか!よし、渡してやろう!」
テオさんは、そう言って手に持っていた使用済みのお箸をシノブさんに渡す。流石にウェットティッシュで拭いてはいたが。
まず、シノブさんはテオさんから手渡されたお箸の片方を持ったかと思ったやすぐに、両手で箸の両端を押し始めた。
みるみるウチに小さく短くなっていく。まるで、指示棒とかラジオのアンテナのようだ。
もう片方のお箸も同じように縮んでいく。どうやら、あのおかしなお箸の形状は、この為のものだったのようだ。
因みに伸ばすときは横についているボタンで長くなるらしい。
「そーしてーー?こーだよー」
そう言ってシノブさんは二本の縮んだ橋を合わせて手榴弾上部の穴に刺す。
なんというかシュールだった。
なんせ手榴弾の安全弁が戻されているんだから、結構歪な話だと思った。
「……要するに、只の箸入れ?ってことですかね……。だとしたら、その重さは一体?本物そっくりだったんですけど」
「いや!全くもってそのとおーりだ!本物だぞ!」
「えええー?!本物の手榴弾なんですか!?」
「いや、だから!さっきから言ってるけどね?本物の箸入れだからぁ!平凡な大地君は何を言っている!」
はぁ、どうしてこのテオさんはそうもテンションが高いのだろうか。
「んで、僕はどうすれば良いんですか?この部活のご飯性はわかりましたけど、目標はなんなんですか」
「「「お茶漬けを食べるだけ」」」
人気が出れば(出ない)続きも書くかもしれないこともない