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三色ルール  作者: sanstar
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7 三色ルール(その1)

黒岩太一、高1の冬。


「千尋と緑園の連絡先を教えろ?」


「そう。お世話になってるみたいだから、ご挨拶。保護者としての義務ね」


「保護者なんて大げさだよ・・・」


困惑気味の太一が、少し嫌そうな素振りを見せるが、麗華は気にせずに話を続ける。


「あら、太一くんは未成年で、私は成人している。あなたのお父さんは遥か彼方で単身赴任。そして、昨日から私と二人暮らしよ。お父さんからも頼まれているし、私が保護者と言っても差し支えないはずよ」


「う・・・」


「まぁ、いいじゃない。とりあえず、2人に聞いてみてよ。家主権限による命令」


「わかったよ」


諦めた表情で返事をした太一が、千尋と緑園にメールをする。


「麗華さんが連絡先を知りたいと言ってるけど、教えていいか?と・・・はい。送ったよ。たぶん、緑園は一瞬で返事くると思う」


30秒くらいして、太一の携帯が鳴る。


「緑園から返事きたよ。いいですけど、なんでですかだって」


「本当にら早いのね。ありがとう。その後は引き継ぐわ。一緒に住むことはまだ?」


「まだかな。特に、誰にも言ってない」


「了解。じゃあ、その辺も含めて伝えておくわ」


「言うの?」


「嫌なの?」


微妙そうな顔をする太一の言葉に麗華が首を傾げる。


「えっと・・・ちょっと待って。頭の整理が・・・そうだな。あえて言うつもりはなかったけど、知られて困る話じゃないから、別に構わない」


太一の返答を聞き、今度は麗華が微妙な顔をする。


「年上のお姉さんとの2人きりで住むなんて、思春期の男子からすると大事件のはずなのに、そんなにどうでも良さそうな態度を取られると傷つくわ・・・」


「青井お姉ちゃん・・・」


「なに? あと、麗華って呼んでって言ったでしょ」


「麗華さん。その反応はめんどくさい」


「あはは、ごめんごめん。じゃあ、連絡しておくわ」


そう言った後、麗華は携帯でメールの文章を打っていたが、少しすると麗華の指は止まり、自分の携帯の画面をジッと見つめる。


「麗華さん、どうしたの? メール出来た?」


「あ、ええ。あとは、送信するだけ」


「送らないの?」


「送るわ」


そう言いながら携帯の画面を見つめる麗華であったが、しばらく深呼吸を繰り返してから、よし。と呟いて送信ボタンを押す。


5秒後、太一の携帯が鳴る。


「緑園から電話? はい、黒岩です。え? なに? 説明を要求? ちょっと緑園、落ち着け。何言ってるかわからん」


電話の先から聞こえる緑園の声の音量に、太一は思わず携帯から耳を離す。


「ちょっと! 麗華さん、緑園に何言ったの!?」


「はじめましての挨拶と、太一くんと一緒に住むことになりました、太一くんがお世話になってますの3点」


「それで何でこんなことに」


「さぁ、それは私にはちょっと・・・あなたのこと好きなんじゃない?」


「ないから。あぁ、もう! もしもし、緑園? だから、落ち着けって。俺から伝えなかったのは悪かったよ。反省? 反省もしてるしてる。今度、1日付き合え? いや、俺も色々と忙しいんだから・・・あぁ、わかったわかった! とりあえず、1回切るぞ。じゃあな!」


無理矢理電話を終わらせた太一は、大きくため息をついたから、麗華に向き直る。


「麗華さん・・・」


「なに?」


「いや、なんだろう・・・何を言えばいいのかよく分からない。あ、千尋からも返事来た。いいけど、なんで?だって」


「じゃあ、千尋ちゃんもオッケーね。アドレス教えて?」


「同じメールを送るの?」


「ダメ?」


「緑園の反応を見ると、先に俺から伝えた方がいいのかな? まぁ、千尋はそんなこと気にしないか」


「どうする?」


麗華が、太一のことをジッと見る。


「いいや、麗華さんから連絡して」


「ふむ。信頼感の現れかしら? 微妙なところね。まぁ、今はいいわ。じゃあ、千尋ちゃんにもメール送るわね」


そう言った麗華は、先ほどと同じくしばらく携帯の画面を眺めていたが、よし。と呟いて、送信ボタンを押す。


そして、5秒後、太一の携帯が鳴る。


「これは・・・」


「千尋ちゃんから?」


「うん」


うんざりしたような顔で太一が携帯を眺める。


「出ないの?」


「激しく面倒な気配が・・・でも、出ないと逆に面倒なことになるな。はい。もしもし、黒岩です。千尋、どうし・・・え? 何? 私聞いてない? 千尋、何言ってるかわからん。落ち着け。てか、お前泣いてる? あーわかったから、ちょっと落ち着け!」


先ほど同様、電話先の声が大きすぎるのか、太一は一旦、携帯から耳を離す。


「麗華さん!」


「さっきと同じことしか言ってないからね。というか、千尋ちゃん、泣いてるの?」


「そうなんだよ。あぁ、もう。訳がわからん。あー、もしもし、千尋? 聞いてる。聞いてるから。なんで私の家に来ないのって、いや、なんで千尋の家に行くんだよ。落ち着いて。だから、泣くなって。とりあえず、今度時間取るから。付き合う、付き合うよ。一日付き合うから! それじゃあ、切るぞ!」


太一は再度、大きなため息をついて呟く。


「なんだこれ」


「まさかデートの約束を取りつけるなんて・・・失敗したかしら」


麗華は微妙な顔をしながら呟く。また、先ほどから麗華の手は携帯でメールを打ち続けていた。


「麗華さん?」


「あぁ、こっちの話。ところで、太一くん?」


「どうしたの?」


「ちょっと明日出ていってくれる?」


「はい?」


想定外の通告を受けた太一は間抜けな声を出す。


「麗華さん?」


「だから、出ていって?」


「は? いや、だって・・・え?」


「ふふ・・・あはははは! 冗談よ。そんな顔しないの。千尋ちゃん、紗奈ちゃんとお泊まり会することになったから、2人がいる内は外に行ってて?」


太一の様子を見た麗華は、大笑いしながら真相を伝える。それを聞いた太一は、さらに驚いた。


「千尋と緑園が来る? ここに? なんで?」


「秘密。ということで、よろしくね」


「ちょっと麗華さん!?」


麗華は指を口に当てて、微笑むだけで何も答えない。結局、その後、麗華どころか千尋や紗奈からも何の情報も得られなかった太一は、次の日の朝に麗華宅を出て、友達の家に向かった。






そして、当日の昼、家には麗華だけが残る。


「さて、我ながら思いきったことをしてしまった・・・」


独り言を呟いた麗華は、落ち着かないのか、そわそわと部屋の中を歩き回る。


「太一くんは高校一年生。千尋ちゃんも太一くんと同じ学年だから、今は高一よね。で、紗奈ちゃんは一つ下だから中三。そして、私が社会人一年生・・・ダメだ、正気とは思えないわ。でも、こうでもしないと・・・あーもう!」


ブツブツと呟きながら、麗華は机のまわりをグルグルとまわり続ける。


「落ち着け、落ち着きなさい。ほら昔から言うじゃない。恋愛に年齢なんて関係ないって。いや、あーでもでも・・・」


朝から何度目になるかわからない自らへの激励と後悔の言葉を繰り返す麗華であったが、時計の針が午後の1時を指したところで来客を知らせるインターホンが鳴る。


「来た!」


覚悟を決めた顔で、麗華は来客確認のボタンを押す。


「はい。青井です。どちらさまでしょうか」


「赤坂です。あと、緑園さんも一緒です」


来客者を確認できる画面の先には、緊張した様子の千尋と紗奈が立っている。


「2人ともいらっしゃい。鍵を開けるから入ってきて」


麗華が開錠ボタンを押すと、千尋と紗奈は会釈をして、ドアの先へと進んだ。それを見ていた麗華は深呼吸をした。


「さて・・・頑張れ、私!」


気合を入れた麗華は、二人がやってくるのを待つ。少しして、今度は玄関のインターホンが鳴ったので、麗華はドアを開ける。


「いらっしゃい。はじめまして。千尋ちゃん、紗奈ちゃん。今日はよく来てくれたわね。昨日、引越をしてきたところだから、まだ全然片付いていないのだけれど・・・歓迎するわ」


「はじめまして。青井さん。今日はお招きいただき、ありがとうございます。その・・・今日はいろい・・・」


「あの! 青井さんは、太一先輩とお付き合いされているんですか!?」


麗華の歓迎の挨拶に千尋が礼儀正しく挨拶しようとしていたところ、紗奈がカットインする。


「ちょっと。緑園さん!?」


「なんですか。赤坂先輩。先輩も気になりますよね!?」


「それはそうだけど・・・」


「付き合ってないわ」


「「え?」」


麗華の返答が、二人の予想と違ったのか、二人とも揃って間抜けな声で聞き返す。


「だから、付き合ってないわ。私と太一くんの関係は・・・なにかしら? 同棲相手?」


「ど、同棲・・・付き合っては・・・いないんですね?」


同棲相手という表現に思うところがあったのか、千尋は少し低めの声で麗華に問い直す。


「そうね。えっと・・・色々と聞きたい事もあるでしょうし、とりあえず、入って? 緑園さんもいいわね?」


麗華に促された二人はコクンと頷き、麗華の後に続いて、麗華の家に入った。


「さっきも言ったけれど、まだ全然片付いていなくて、ごめんなさい。とりあえず、机に座って。飲み物はコーヒーでいいかしら? インスタントだけれど」


「あ、はい。ありがとうございます」


「ありがとうございます。コーヒー好きです」


千尋、紗奈の順番で答える。麗華はニッコリと微笑んで、コーヒーを入れる。


「はい。どうぞ。ミルクとお砂糖もご自由に」


コーヒーを出された千尋と紗奈は、改めて、麗華に礼を言う。2人は一瞬、ミルクと砂糖を入れるか迷うように視線を揺らしたが、結局、何もいれず、ブラックのままでコーヒーに口をつけた。そして、コーヒーカップをテーブルに置くと、その場を沈黙が支配する。



重たい沈黙を破り、話を始めたのは麗華。


「さて・・・それじゃあ、何から話そうかしら。まずは、自己紹介からと言いたいところだけど、先に太一くんと私が一緒に住むことになった理由を説明した方がいいかしら?」


「お願いします」


「わかりました。気になることがあったら止めてね? まず、私と太一くんが昨日から一緒に住むことになったのは、太一くんのお父さまの転勤が理由よ。転勤先が今の高校から通える距離じゃなくて。太一くんが残りたいと言ったわけじゃないみたいなんだけど、流石に太一くん一人で住むのも大変だし、私に声がかかったの」


「青井さん、質問いいですか?」


千尋が手を挙げる。


「はい。千尋ちゃん。あと、手は挙げなくても大丈夫よ。それから、麗華でいいわ」


麗華が笑いながら指名する。


「えっと・・・じゃあ、麗華さん。なんで麗華さんと一緒に住むことになったんですか? その・・・失礼ですが、最低でも恋愛関係に無い男女が2人で住むって、あまり適切では無い気がするのですが」


「それは、太一くんのお父さんが私の父親と仲が良かったからね。一緒に住ませてやってくれとお願いがあったみたい。なので、双方の親が合意済みというわけ。まぁ、私はもう成人してるけどね」


麗華の説明を聞いて、千尋は顔をしかめ、あの適当親父・・・と呟く。話を聞いていた紗奈が、質問を被せる。


「麗華さん、もう一つ質問いいですか?」


「どうぞ」


「赤坂先輩、じゃなくて、千尋先輩でいいですかね?千尋先輩の質問への答えはわかったんですけど、なんで麗華先輩は太一先輩との同居をすることに決めたんですか? 普通断りませんか?」


「紗奈ちゃんなら断るの?」


「え? いや、えっと、私は・・・太一先輩となら・・・」


「あ、ごめん。やっぱ今のなし! 先に私から話すわ」


質問に答えようとした紗奈を麗華が制する。覚悟を決めたような表情をした麗華は、一回深呼吸をして、順番に千尋と紗奈の顔を見た後に、改めて、話し始める。


「私は太一くんのことが好きなの。太一くんとできるだけ一緒にいたい。だから、一緒に住むことにオッケーを出したの」


「「好き・・・」」


麗華の告白を聞いた千尋と紗奈の顔に驚きはない。


「2人はどうなのかしら?」


一番言いたいことを言ってスッキリした麗華が、2人に改めて、問いかける。


「私は・・・太一先輩のことが好きです。全部好き」


先に答えたのは、紗奈の方だった。それを見た千尋も話し出す。


「私も太一のことが好きです。太一のことがずっと好きです」


2人の宣言を聞いた麗華は悟ったような、諦めたような、覚悟を決めたような、色々な感情をぐちゃぐちゃに混ぜたような表情をして頷く。


「ありがとう。2人とも。直接聞けて良かったわ。さて、それじゃあ・・・」


「それじゃあ・・・?」


麗華の口から何が飛び出してくるのかを警戒して、千尋と紗奈は身構える。


「自己紹介しましょうか?」


自己紹介しようと言われた千尋と紗奈は同時に頭を机にぶつける。


「自己紹介!? このタイミングでですか?」


「麗華さぁん・・・」

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