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三色ルール  作者: sanstar
10/15

9 三色ルール(その3)

麗華に続き、紗奈の自己紹介が始まる。


「じゃあ、いきますよー。緑園紗奈です。15歳、趣味は楽器です。ホルンっていう金管の楽器で、こう左手で持って、右手を楽器の口に入れるやつ・・・わかります?」


「もちろん。紗奈ちゃんは吹奏楽部なのよね?」


紗奈の質問に麗華が答える。トランペットやトロンボーンと比べるとマイナーな自分の楽器が認知されているのが嬉しかったのか、紗南は笑顔を浮かべながら答える。


「良くご存知ですね。そうです!」


「太一くんからメールで聞いてたから」


「そうなんですよ。で、太一先輩も吹奏楽部だったので、私と太一先輩の出会いは私が吹奏楽部に入ったことがきっかけですね。太一先輩はトランペットなので、パートは違うんですけど、色々とお世話になりました」


「太一、面倒見がいいからね」


「最初は取っつきにくいなと思いましたけど、いい人ですよね」


「取っつきにくいかしら? あまり感じた事ないけど」


「麗華さんは年上だし、そう思うんじゃないですか? それで、紗奈。続きは?」


「あぁ、はい。えっと・・・その、なんて言うんですかね。えー、自分で言うのも何なんですけど、私、何をやっても大抵の人より上手にできるんです」


自慢話と受け取られても仕方ない内容を紗奈が全く嬉しくなさそうな顔で話す。


「続けて?」


微妙な空気を察した麗華だったが、それには触れずに続きを促す。


「吹奏楽部に入って、最初は良かったんです。飲み込みのいい新人が入ってきたって。でも、3か月くらいで雰囲気が変わってきて・・・要するに嫉妬だったんですけど。で、7月くらいからパート内で無視されて、誰も口を聞いてくれなくて・・・あ、パートというのは楽器が同じ人の集まりのことです」


「紗奈・・・辛かったわね」


「あ、いや・・・わりと普通でした。よくある事なので」


「あ、そう・・・」


「・・・」


紗南を慮る発言をした千尋に淡々と返事をする紗南。

平気そうな紗奈の反応に拍子抜けする千尋だったが、麗華は微妙な表情で紗奈を見る。


「麗華さん?」


「あぁ、ごめんね。気にしないで。それで?」


「はい。で、夏って吹奏楽のコンクールとかある時期なんですよ。だから、みんな余裕がなくて・・部長とかにも気づいてもらえず。自分で言えば良かったんですけど、まぁ、いいやと」


「強いのね?」


「どうなんでしょう。辛くはなかったんですけど、流石に楽しくはなかったので。コンクール終わったら辞めようかなと思ってたんです」


「でも、太一が気づいてくれた?」


「あー、千尋先輩。オチを先に言うのは禁止ですよ〜」


千尋の突っ込みで重かった雰囲気が霧散する。紗南からは抗議が入るが、あまり細かいことを気にしない千尋はそのまま話を続ける。


「いや、それ以外ないでしょ?」


「まぁ、そうなんですけど。最初はホルンパート内だけだったんですけど、徐々に酷くなってきて。気づいたら金管パート全体まで広がるっていう・・・」


「うわぁ・・・」


淡々と話す紗奈の説明に千尋が顔をしかめる。


「で、面白いんですけど、そういうのって女子だけで広がるんですよ」


「うん。そうね。そうだったわ。貴方達より少しだけ長く生きている私の経験でもそうだったけど、自分が無視された話を淡々と話す貴方がだんだん心配になってきたわ。紗奈ちゃん、やっぱりメンタル強すぎるのでは?」


麗華が知らないものを見るような目をしながら呟く。


「えへへー麗華さん、そんなに褒めても何も出ませんよ?」


「念のためだけど、褒めてはいない」


「ダメですよ。麗華さん、何言っても無駄です」


千尋が諦め顔で言う。紗奈は、えーそんなことないですよーと言いながら、人懐っこさそうな笑みを浮かべている。


「まぁ、そんなこんなでついに金管パート・・・えっと、部活全体の半分弱?から無視されることとなった私なんですが、コンクール前で休めないし、部活には行っていたわけです。あ、ちなみに、吹奏楽部は大半が女の子です。金管パートにいた男子は太一先輩と、他2名くらいですね」


「そんなに女性比率が高いのね」


麗華が驚きの声を漏らす。


「はい。で、その規模での無視となると、流石に雰囲気おかしくなっちゃって。太一先輩が声を上げてくれたんです」


「やっと出てきた」


千尋が姿勢を正す。


「みんな紗奈のこと無視してないか?って。で、結果としては、ホルンパートにいたリーダー格の先輩と喧嘩になりまして。結構すごい口論になったんですけど、最後に太一先輩が言ってくれたんです」


ここまで話したところで、紗奈が一息入れる。当時の太一の台詞を思い出しているのか、嬉しそうな顔をしながら続ける。


「緑園は頑張ってるって。確かに才能はすごいし、嫉妬したくなる気持ちもわかるけど、頑張ってる奴を認めないのはダメだって」


「流石」


「良く言った」


千尋と麗華がそれぞれ相槌を打つ。自分の好きな男子の発言が嬉しいのか、2人とも誇らしげにしている。


「私、それまで私のために怒ってくれる人とか、私がやってる事を見てくれる人に会ったことなかったんです。自分からアピールする話じゃないですし。でも、いざそういう人が現れると、すごく嬉しくて。しかも、吹奏楽部って、すごい女社会で男の人は肩身狭いんです。そんな中で声を上げてくれて・・・」


「それでうまく収まったの?」


「はい! 太一先輩は、その・・・すごく上手ってわけではないんですせど、努力の人なので。みんなそこは認めているので、太一先輩が言うならってことで、その場は終わりました。あとは、部長に報告して、何故か私関連の相談を全て受け止める、通称緑園係に太一先輩が任命されて、緑園紗奈金管パート全無視事件は終結しました」


「そんな事件名がついてるの?」


「今考えました!」


「紗奈ちゃん? あなた考えたことを考えずに言う癖はもう少しなんとかしなさい。いい? 思いついたことは、自分の外に出す前に一度立ち止まるの。わかった?」


適当過ぎる紗奈を麗華がたしなめる。


「えへへーそう言われましても」


「なんでちょっと嬉しそうなのよ。それで、緑園係?ってのは、一体何なの?」


「私に関するあらゆる相談事を処理する係みたいです。太一先輩が何か頑張ってましたけど、詳しくは良く知らないです」


「聞いたことなかったけど、そんなことしてたのね、あいつ」


「まぁ、それを話すためには、紗奈ちゃんが無視された話をしないといけなくなるからね」


「なるほど。そうかもしれませんね」


麗華の予想に千尋が微笑みながら頷く。


「あとは、太一くんを好きな理由くらいかしら? 何かある?」


「んー、そうですねぇ。今、一緒に話しちゃいましたしね。ちょっと待ってください・・・そうですね。えっと。ちゃんと私自身を見てくれるところです。みんな表面的なことだったり、私の能力しか見てくれないから」


「なるほど。ねぇ、紗奈ちゃん、あなた平気とか言ってたけど、やっぱり寂しかったんじゃないの?」


「え? いやいや、そんなことないですよー何とも思ってませんとも」


「だって、そうじゃなかった太一くんのことは好きになっちゃったんでしょ?」


「紗奈ボッチ・・・」


「ちょっと千尋先輩、それはただの悪口です!」


「ボッチ紗奈?」


「順番入れ替えてもダメですー! まぁ、自分でも良くわかりません。でも、太一先輩は好きです!」


麗華の問いにハッキリとした回答はできない紗奈であったが、太一への気持ちについては力強く言い切る。


「はいはい。ご馳走さま。全く手強いわね・・・じゃあ、トリは千尋ちゃんね。お願いできる?」


麗華の進行に千尋が頷いた。千尋は、これから戦いに出るような表情で麗華と紗奈に向き合う。


「はい。麗華さん。赤坂千尋、16歳、高1です。趣味・・・というか、部活はバレーボール部です。太一とは幼馴染で赤ちゃんの頃から一緒でした。好きになった理由と好きなところは正直わかりません。気づいたら大好きでした」


「・・・」


「・・・」


千尋の簡潔な自己紹介に麗華と紗奈は黙り込む。


「以上です。悪いですけど、お二人には絶対負けません。太一の隣に立つのは私です。これまでもそうでしたし、これからも変わりません」


「千尋先輩・・・重い重い重い」


「千尋ヘビー」


「ちょっと!? 紗奈!? 麗華さん!」


千尋の抗議に麗華が苦笑しながら答える。


「あはは・・・ごめんなさい。ついからかってしまったわ。だって、千尋ちゃんの自己紹介短かすぎるんだもの」


「うっ・・・」


「そうですよ。千尋先輩。ちょっと気負いすぎじゃないですか? 力抜いてください」


「くっ・・・」


麗華と紗奈の指摘に真っ赤になる千尋。口をパクパクと動かすが、反論の言葉は出てこない。


「えっと・・・終わりでいいのかしら?」


麗華が助け舟を出す。


「あ、はい・・・えっと、私からは終わりでいいです」


千尋は一瞬迷うが、今さら撤回もできないのか、先ほどの発言を繰り返す。


「質問するのはいい?」


「もちろん」


「それじゃあ、私から。太一くんって、これまで好きになった人はいないの?」


麗華の質問を聞いた千尋は、肩すかしを食らったような表情になる。


「私への質問じゃないんですね・・・」


「あら、いいでしょ? 太一くんに聞いてもいないっていいそうだけど、千尋ちゃんが一番詳しいと思うし、適任じゃない?」


「あはは、そんなことは・・・あるかもしれませんね」


麗華の褒め言葉に千尋が照れたような表情を見せる。


「千尋先輩、ちょろい・・・」


「紗奈・・・?」


「あぁ! すいませんすいません! えへへ・・・それで、どうなんですか? 私も気になります」


「全く・・・んー、いないんじゃないですかね。聞いたことないです。本人はもちろん他の人からも」


「なるほど・・・安心と言えば安心だけど。ちなみに、告白されたことは?」


麗華が質問を重ねる。


「それも無いんじゃないですか? まぁ、太一の性格的に振ったとして、それを私に言うことはないでしょうけど」


「というか、麗華さん、あれですよ? 千尋先輩のガードが強すぎて、太一先輩にモーションかけようなんて人いませんから」


「えっと・・・あなたは?」


「私を除いて、でした」


「ちょっと待ってよ。私、そんなガードしてないって」


紗奈の発言に千尋が心外だという風に返す。


「え? 千尋先輩、それ本気で言ってます?」


「そうよ。え? なに? 私って、そんなにあれなの?」


「何があれかはわかりませんが、学校で太一先輩にアプローチできる人はいないんじゃないですか? 私を除いて」


「さすが千尋ちゃん。千尋ヘビー」


「そんな・・・てか、さっきは流しましたけど、千尋ヘビーはやめてください!」


自分のイメージが想定と乖離していることに気づき、千尋はショックを受ける。


「ショタ華よりはマシじゃない?」


「だって、それは事実・・・」


「千尋ちゃん?」


目を細めて睨む麗華から、千尋は目をそらす。


「そうですよ。紗奈ボッチよりはマシですよ!」


「でも、それも事実・・・」


「千尋先輩!?」


「で、友達できたの?」


「多少は・・・」


なんで友達できないんでしょうねーと、手の平を合わせながらしゅんとする紗奈であったが、それを見た麗華がフォローする。


「まぁ、紗奈ちゃん相手だと気後れしちゃうんじゃないかしら。学校だけが世界じゃないから。私は紗奈ちゃんのこと、嫌いじゃないわ」


「ありがとうございます! 私もショタ華先輩が大好きです!」


「今、ちょっと嫌いになった」


「ショタ華先輩!?」


「それが原因だからね!?」


「まぁまぁ、落ち着いてくださいショタ華さん。じゃなくて、麗華さん。とりあえず、自己紹介終わりましたけど、この後どうするんですか?」


場が紗奈のペースになりかけたところを千尋が整えると、麗華がハッとして仕切り直す。


「あ、あぁ、そうね。ありがとう。千尋ちゃん。えっと、お互いの自己紹介が終わったことで私達はそれぞれ自分の恋のライバルの人となりと太一くんへの想いを理解するに至りました」


麗華の説明が始まる。おそらくあらかじめ準備していただろう口上を述べつつ、これからやろうとすることをゆっくりと一言ずつ噛みしめるようにして発言しているのがわかる。


「私達はライバルであり、同志になると思うけれど、最終的に自分が望む結果を得られる人は1人だけです。ちなみに、千尋ちゃん、この勝負で一番有利なのは誰だと思う?」


麗華からの問いかけに千尋は考え込む。


「んー・・・誰ですかね。一番付き合いの長いのは私だけど、太一楽器好きだし、趣味が合うのは紗奈ですよね。でも、一番2人きりになりやすいのは麗華さんな気がします」


「やっぱり麗華さんじゃないですか? 実質保護者だし、極端な話、太一先輩の予定拘束し放題ですよね?」


「そうね。私には太一君の活動をある程度コントロールできるから勝てなくても負けないかもしれない」


「それで麗華さんは何が言いたいんですか? まさか自分が有利だということを私達に伝えたいわけじゃないですよね?」


回りくどい話の流れに、じれったそうにしながら紗奈が聞く。


「ルールを決めたいの」


「「え?」」


「この勝負、私が有利過ぎるわ。えっと・・・太一くんに私の想いが受け入れてもらえる自信があるわけじゃなくて。私はその気になれば、いくらでも2人の邪魔ができてしまうもの」


「それは・・・」


「でも、麗華さんはそんなことしないんじゃ? 大人だし・・・」


千尋の最後の言葉に紗奈がウンウンと頷く。


「あーえっと、私ももう若くない・・・とか言うと、会社のバb・・・じゃなくて、お姉さま方から社会的に抹殺されるから注意してね? 2人から見ると大人に見えるかもしれないけど、案外年はとっても人間そこまで変わらないものよ。私は弱いから・・・」


「「・・・」」


「あはは、ごめんごめん。暗くしちゃって。ということで、ルールを作りましょう!」


乙女たちの話し合いはまだまだまだ続く。

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