18:理不尽な裏技
「おおおおおお‼」
「やあああああ‼」
野太い雄叫びと威勢のいい掛け声を上げ、ムエイとアスカが各々の得物をもって青年に向かって肉薄する。左右から一気に距離を詰め、さらには上下から挟み込むように振るわれる太刀と薙刀は鋭く、以下に鍛えた強者であろうとも逃れられない速さで迫った。
しかし青年はあろうことか走り寄る二人に向かって突っ込んで行くと、二人の振るう刃の間に飛び込むようにして紙一重で回避する。
渾身の一太刀が空振った二人は驚愕で目を見開き、すぐさま停止して反転しようとするが、それよりも先に青年が刃を振るった。
「しゃらくせぇっての‼」
「うおっ⁉」
鍛えているとはいえ、明らかにムエイよりも細身の体から振るわれた横薙ぎにより、二人まとめて大きく吹き飛ばされてしまう。
咄嗟に得物を盾にすることで直撃は避けたものの、刃がぶつかった場所から伝わる衝撃で腕にビリビリと震動が走り、思わず武器を取り落としそうになってしまう。辛うじて耐えはしたものの、攻撃直後の隙を狙う事が出来ないほどに、腕にしびれを残されていた。
「シッ…‼」
すかさずセツナが刀を振るい、背を向けている青年を狙うが、青年はまるで背中に目がついているかのようにそれを難なく受け止め、反撃だとばかりにセツナの首筋に刃を振るう。
セツナもまた異様ともいえる反射速度によって上体を逸らすことで刃を躱すが、ういた自分の髪に刃が触れた瞬間、かすかな抵抗もなく切断されたことでその目が大きく見開かれた。僅かに遅れれば首から上がすっぱりと両断されていたであろう鋭さに、彼女のこめかみから冷や汗が伝った。
「あたらねぇあたらねぇ…‼ どいつもこいつも刀が止まって見えるぜぇ⁉ ひゃははははは‼」
三人の戦士を前に一歩たりとも退くことなく、むしろ圧倒しているという事実に高揚しているのか、青年は挑発か自慢かわからない嘲笑を上げて一同を睥睨する。
汚く唾を吐きながら見下した態度を見せる青年に、無言で佇んでいたアザミは辟易とした様子でため息をつき、しかしそれでも油断なく青年を見据える。常に光を杖に纏わせ、いつでも魔術が発動できるように待機させながら、自分が撃てる時機を見計らう。
しかしムエイとアスカはそんな都合もつゆ知らず、接近戦によってのみ止めることを考えているために、なかなかアザミが魔術を放てるタイミングが訪れずにいた。
「こ、この人数を相手にたった一人で…⁉」
「……だから言ったじゃないのよ。あれにはそんじょそこらの剣士じゃかなわないって」
「くっ……これでは一向に止めることもままらならぬか…‼」
暗に邪魔だから下がれとアザミは言っているのだが、基本的にお人好しなセツナは単なる気遣いとしか認識していないようで、なおもアザミの手助けになろうと突破口を探して刀を構える。
渋い表情で黙り込み、天を仰いでいるアザミに気づくことなく、セツナはムエイとアスカを相手に暴れまわる青年を見据えてから、次いで少し離れた場所で沈黙しているもう一人の男に振り向いた。
「ミグモマル殿…! 見ているだけではなく手を貸しては下さらぬのか⁉」
「さっき言ったはずだ。益にならぬことに労力を費やす気はない……わざわざ俺が前に出る必要もあるまい」
一歩も動く様子のない最強の男に、セツナが憤慨した様子で問いかけるも、ミグモマルはさして気にした様子もなくその場で腕を組んで立ったままだった。
その視線が意味深にアザミの方に向けられていることにも気づかず、セツナは不満げに舌打ちして視線を逸らす。アザミの意図を理解している彼が、あえて魔女の前に出て邪魔になることを避けていることにも気づかないでいることに、やや呆れているようにため息をついていた。
アザミはそんなミグモマルに少しだけ感嘆したように視線を向けてから、しかしそれでも察しないセツナに呆れたため息をついた。
「……しょうがないわね。適当に気が済むまであんたたちにやらせたら、あとは全部一人でやるつもりだったんだけど……プランを変えるわ」
アザミは気だるげにそう呟くと、白い冷気を纏う杖を頭上に掲げた。
杖に備えられた宝玉が一瞬強く輝きを放つと、アザミの周囲1mに限定した気温が一気に低下していき、魔女の周囲で渦を巻き始める。ピキピキと周囲の空気が凝縮を開始し、数秒の間にいくつもの氷柱のような氷の塊が創造され、アザミの周囲を守るように浮遊する。
吐く息が真っ白に染まるほど下がった空気の中、ぎょっと振り向いたセツナを無視したアザミは、青年と鍔迫り合いを繰り広げるムエイとアスカに抑揚のない声をかけた。
「……ちょっと邪魔よ、あんた達」
呼び止められた二人が表情で振り向き、差し向けられている無数の氷の棘を目にしてハッと表情を変える。
慌てて青年をおいて飛びのく二人を確認すると、アザミは氷の棘の尖った先端を一斉に青年の方に向け、矢のようにつがえると一気に射出し始めた。
「効かねぇってのぉ‼」
数10発の氷の矢が飛来してきても、青年は焦燥の様子は見せなかった。異常な硬度を誇る妖刀を振り回し、冷気とともに飛来する氷の棘を片っ端から砕き、小さな欠片に変えて踏み潰していく。ヒュンヒュンと極限まで抑えられた音がその剣速の鋭さと正確さを表していて、常人では捉えることすら難しそうな速度で見る見るうちに氷の棘が撃ち落とされていく。
それだけではなく、青年は際限なく放たれる氷の棘を叩き落としながら前進し、あっという間にアザミとセツナの目前にまで接近すると、とっさにアザミを守ろうと前に出たセツナに斬りかかった。
「くっ…! 重い…‼」
即座にセツナが刀を持ち上げて受け止めるが、加えられる異様な重力に敗けて膝をつきそうになる。なんとしても退かないという意地でどうにか耐えるものの、セツナの顔は必死の形相で歪み、食いしばった歯が軋みを上げて歯茎に痛みが走る。
標的の前にセツナが割って入ってしまったために、アザミはすぐに氷の棘の射出をやめ、杖に備えた刃で青年の顔面にめがけて斬撃を放つ。
「クヒッ……!」
しかし青年は気味の悪い笑みを浮かべると、素早くしゃがんで髪の一本も犠牲にすることなく躱し、セツナを蹴り飛ばしてアザミに標的を変える。犬耳少女を踏み台にし、勢いよく踏み込むと魔女の眉間に向けて鋭い突きを放った。
アザミは小さく舌打ちすると、妖刀の峰に手を置いて刺突の方向をずらさせ、向かってくる青年の顔面に膝を叩き込みにかかる。片腕で防がれるものの、アザミはそれを蹴った反動を利用して宙返りし、咄嗟にセツナの襟首を掴みながら後退し大きく距離を稼ぐ。
青年は膝蹴りの反撃とばかりに刃を振ったものの空振ったため、苛立たし気に表情を歪めていた。
「でぇやぁああああああ‼」
妖刀を振りぬいた体勢のままの青年に、背後から雄叫びとともにムエイが斬りかかる。そのあとにはアスカが続き、攻撃の流れが絶えることがないよう次への動作の準備を終えて薙刀を力強く握りしめている。
しかしムエイの一撃が入る寸前、苛立ちの表情のままの青年が振り返り、ムエイの刀を真下から斬り上げる。うまい具合に柄頭に強烈な一撃が入ったために、ムエイは両腕ごと刀を弾かれ、大きく体勢を崩されてしまった。
「邪魔なんだってぇの‼」
「ごはっ‼」
「あぅっ⁉」
無防備に全身を晒してしまったムエイの腹に、青年の容赦のない蹴りが入る。
防具の間、骨のない弱い部分に爪先が食い込み、ムエイはうめき声を上げながら真後ろに吹き飛ばされる。当然背後に控えていたアスカにムエイがぶつかることとなり、二人はもつれあうようにして倒れこみ、それぞれで武器を取り落としてしまう。
青年はわずかに口角を上げ、ムエイとアスカに背を向けると腹を抑えてうめくセツナを庇うように立っているアザミに飛び掛かった。
「ヒャハァ‼」
「しまっ…‼」
気付いたアスカがアザミのもとにとするが、内臓に強烈な衝撃を食らって動けないムエイが覆いかぶさっているために、身動きが取れずにいる。
異形のように醜悪で凶悪な笑みを浮かべた青年を前にし、魔女は嫌悪の混じった視線を向け、鬱陶しそうに舌打ちした。
「……胸糞悪い」
確実に敵を仕留めうる青年の斬撃を、アザミは杖を構えて受け止める。激しい火花が撒き散らされ、重い衝撃が轟音となってあたりに反響する中、アザミはぎろりと青年を睨みつける。
青年はそのまま幾度もアザミに刃を振るい、反撃を許さない連撃を繰り出していく。アザミの視線の向く方、そことは全く異なる方向から刃を振り下ろし、薙ぎ、いまだ見せない隙を引き出すかのようにいやらしくあらゆる方向から狙う。
アザミは徐々に後ずさりしていたが、背後に庇うセツナのことを案じてか青年の剣を弾きながら大きく方向転換する。青年はその後を追い、執拗に魔女の体を両断しようと刃を振り回し続けた。
「ひゃはははは‼ 防戦一方じゃねぇか⁉ 調子でも悪いのかぁ⁉ それとも……俺様がそんだけ強くなったってことかぁ‼」
「師匠!」
追い詰められていく魔女に、青年は耳障りに思えるほどの嘲笑を、弟子は悲痛な悲鳴を上げる。
青年の刃はいまだ魔女に触れる事さえ叶っていなかったが、後退していくうちに徐々に舞台の端にまで追い詰められている姿を見れば、時間の問題であることは間違いなかった。
青年は以前仕留めそこなった魔女を討てると確信したのか、その表情に恍惚としたものを混ぜながら無駄にしゃべり続けている。その高揚は剣にも表れ始め、先ほどよりも明らかに剣速も威力も上がりつつあり、アザミは確実に窮地に追いやられつつあった。
そう見えた。
「……馬鹿ね、あんた」
「あ⁉」
「……別にあんたを壊す為なら、この場所一体を吹き飛ばしてもいいのよ? 私は」
舞台の端を背にし、青年を見据えるアザミが呆れたように呟く。
猫に壁際に追い詰められた鼠かなにかのように考えていた青年は、この状況でこうも小馬鹿にしたような余裕綽々の態度を崩さない魔女に違和感を覚えるも、それ以上に苛立ちを覚えて特に何も考えていなかった。
アザミの口元に、罠にかかった獲物を見る猟師のような嗜虐的な笑みが浮かんでいることに。
「……でも私はそうしない。なんでかって?」
「ゴチャゴチャゴチャゴチャ意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞクソ魔女がぁ‼」
青年を見下すような言動ばかりを繰り返す魔女に焦れたのか、青年は激昂とともに魔女に向かって突進を開始する。自分こそが獲物を狩る狩猟者であり、向こうは怯えて狩られるのを待つただの標的、そんな意識を持つ青年にしてみれば、魔女の態度は不快以外の何物でもなかった。
しかしまわりにしてみれば、魔女の態度はただの虚勢にしか思えなかった。追い詰められた戦士が、最後はせめて敵に弱みは見せまいと立ち塞がるような、そんな態度に見えていた。
「アザミ殿‼」
セツナが叫んだ直後、アザミに向かって青年の刃が振り下ろされる。
決して離れられない距離、避ける暇さえない時間、青年が魔女を狩るには十分すぎる状況の中、魔女はもはや杖を構える事さえせず、肩に担ぎながら青年を見据えている。決死の覚悟を決めたかのようなその姿に、膝をついていたセツナが思わず目を見開いて手を伸ばす。
ようやく立ち上がったムエイとアスカも駆け寄ろうとしたが、両者の間には絶望的なほどに距離が開いていて、誰もが諦めを顔に表していた。
だが、それは後に杞憂と終わった。
「ガッ―――!?」
息を詰まらせたかのような声とともに、青年の刃が何の前触れもなく停止したからだ。
アザミの額すれすれで、紙一枚が挟まるかどうかのわずかな空間のみを開けて、青年は凍り付いたかのように動きを止めていた。
突然の事態に青年の顔は驚愕で歪み、見開かれた眼はぎろりとアザミを睨みつける。しかし動かせるのは目だけで、他の部分はピクリとも動かすことが叶わない。震える事さえできないほど、青年の体は青年の制御を受け付けようとはしなかった。
「な……てめっ…何、しやがっ…⁉」
「……あんたの支配を解除させてるのよ。あんたが使ってる……その子へのね」
頭の足りない子供に言い聞かせるような、どことなく困ったような笑みを浮かべ、アザミは青年の刀を横にどかして自分の額から離す。薄皮一枚アザミの肌には傷ついておらず、ましてや彼女が疲弊した様子は見えない。
青年は、そして周囲の剣士たちはそこでようやく、青年の動きを止めているものに気が付いた。
青年の持つ妖刀が、うっすらと透明な輝きに包まれている。次第にそれはいたるところで固まりとなり、徐々に妖刀の刀身全てを氷で覆い尽くしていっていたのだ。
傍から見ればただ凍り付いているだけ、しかし青年、正確には妖刀そのものには、自身を覆い尽くす氷がゆっくりと己の中に浸み込んできているのを感じていた。人間に例えれば、体の奥の奥、脳の中にまで氷が侵入し、好き勝手に弄られているかのような不快感がそこにはあった。
「……あぁ、ほんとに面倒くさかったわ。煩いし鬱陶しいし、あの子たちが邪魔で凍結もさせられなかったから、こんなに回りくどいやり方しなきゃならないんだもの」
冷気で吐く息を白く染めながら、アザミは気だるげに肩をすくめて呟く。
言外にもっとスムーズに終わったと言っていたが、幸いにも当事者たちは驚愕でそれどころではなく、心無い真実に心を痛めるものなどいなかった。
「……あんたがどんな術式使ってるか把握するのに時間がかかっちゃったからね。あの糞餓鬼らしい……妙なところでずぼらで杜撰な構造だったから、こっちの魔力を浸透させるのは案外簡単だったわよ?」
「何を……言って、やがる……⁉」
これまで自由に動かせていたからだが、青年の体がほぼ完全に己の制御下から外れていることに、妖刀は辛うじて動かせる口をぎこちなく動かして呆然と問う。
対象を乗っ取り、その身体能力を余すことなく奪うことに特化した妖刀にしてみれば、逆に自分が乗っ取られ支配されることなど決して信じられない、許されない事であった。
しかし、現に体はもう口を動かすことも叶わず、氷の中に閉じ込められるような不安が妖刀の中でにじみ出してきていた。
「……術式侵蝕、って言ってもわからないでしょうね」
フン、と鼻で笑い、アザミは妖刀の刀身を掴んで青年の手から引き抜く。さしたる抵抗もできずに妖刀は青年の手から離れ、ぞんざいに持ち上げられ見下した視線にさらされる。
これまで支配する立場にあり、その力で人間を恐怖の渦の中に陥れてきた妖刀にしてみればあまりの屈辱で、自身の理解の及ばない状況には恐怖が沸き上がっていた。
「……その子がどこの誰かなんて知らないけど、何も知らないまま消し飛ばすのは流石に忍びないからね。あんたの本体にぶつかりながら、ちょっとずつ私の魔力を侵入させて術式そのものを乗っ取ったのよ」
その言葉に、セツナは気づく。あの魔女はたびたび魔術を使い、あるいは杖を使い妖刀へ攻撃を加えていたことを。どれだけ魔術をぶつけようとも妖刀にはほとんど効いた様子はなかったが、打ち出した攻撃は全て余すことなく妖刀が受けていた。
あれがそもそも攻撃のためではなく、攻撃と見せかけて自身の魔力を妖刀の至近距離にまで届かせ、内部に侵入させるために放たれていたのだとしたら。
「……さぁ、とっととその体から出ていきなさい。鉄屑が」
―――ぐおおおお⁉ く……くそがぁぁぁぁ‼
追い詰めたと思っていた標的に、逆に追い詰められていたのだという事実に、妖刀は抵抗も何もできずにアザミの手の中で憤然と震える事しかできなかった。
いかに優れた能力を持っていたとしても、所詮武器は武器。使い手がいなくては動くことさえできず、ただの物として地面に武様に転がっていることしかできない。今まで使っていた青年は糸の切れた人形のように離れた地面に転がっていて、全く役に立ちそうにない。
数多の人々を混乱に陥れてきた凶悪な武器は、完全に詰んでいた。
「お…おお‼」
「そんな真似できるならさっさとやりなさいよ…‼」
厄介だった敵がようやく大人しくなったことに、やや不完全燃焼気味にムエイとアスカが苦笑を浮かべる。手を貸す必要はないという理由が今まさにわかった気がして複雑な胸中ではあったが、それでも難事件が終わったとほっと胸をなでおろしていた。
アザミは冷気を納め、杖を短く折りたたんで腰のベルトに片付ける。そして、傍らに立っていたセツナに横目を向けた。
「……いいとこどりは、あんたに譲ってあげるわ」
「心得た…‼」
力強く、待っていたとばかりに頷くセツナの前で、アザミは妖刀を思い切り振り上げ、天高く投げ飛ばした。
もう手に取る人間もおらず、落ちてくるだけの妖刀に、刃を抜いて猛然と向かってくる犬耳剣士を止める術などない。久方ぶりに、明確な害悪と判断された呪われた武器に向けて、セツナの提げる刀が眩くも妖しい光を見せた。
―――畜生…畜生ぉぉぉ‼ この俺様が……こんな奴らにぃぃぃ⁉」
「……たかが道具が、人間を使おうなんて大それたこと考えるんじゃないわよ。じゃあね」
まったく優しくない餞の言葉とともに、アザミは落下する妖刀と跳び上がるセツナに背を向ける。
長年追い続けた獲物がようやく一つ仕留められる、そんな満足げな笑みを浮かべた魔女は懐から煙管を取り出し、手早く火をつけて煙を吸う。仕事終わりの一服はかくも甘美なものか、と安らかな笑みを浮かべる魔女が、忌々しい鉄屑を見納めようと振り向いた。
「……は?」
そして、絶句した。
目の前にある光景が信じられず、アザミの思考が少しの間停止してしまう。
仕留めるつまりは真っ二つに叩き斬ってくれることを期待して任せた剣士は、あろうことか妖刀の柄をしっかりとその手に掴み、全く見当違いの方向に走り出していた。
右手には今しがたようやく止めたばかりの妖刀、左手にはこれまで滅多に抜いて来なかった自前の刀を、両腕にそれぞれ曰く付きの刀を携え、セツナは一直線に走り出していた。
「―――この時を、ずっと待っていた…‼」
そしてアザミは気づく。
セツナが向かう先、先ほどの青年と同等かそれ以上の速さでかけていく先にある、特別な身分の観客たちが着く席を。
そこにいまだ座る、この国の王たる男に向けている。セツナの異常なほどに濁った憎悪の眼差しを。
「トモナガぁ……覚悟ぉぉぉぉ‼」




