17:魔剣は嗤う
魔女の小脇に抱えられたままの鈴々は、激しい混乱の最中にあった。
気のよさそうな青年が突如別人のように豹変し、自分を殺そうと迫ってきたかと思ったら、それを横から殴り飛ばした見知らぬ女に抱きかかえられているのだから。
武芸者の一人として多少は修羅場慣れしていると自負していた彼女であったが、あまりに多くの状況の変化で完全に理解が追い付いていなかった。
「へ……何⁉ なんなの⁉ ひゃわああああ⁉」
しかし、事態は彼女に落ち着く暇など与えてなどくれなかった。いつもとは明らかに異なる険しい表情を浮かべたアザミが錫杖を振るい、再び凶刃を向けてきたナギサと激突したのだ。
激しい火花が散り、激しい火花があたりに四散する中、互いの得物を挟んだ両者がぎろりと睨み合い、歯を食いしばる。片や狙った獲物を仕留めそこなったことへの苛立ちで、肩や向けられている刃に対して並々ならぬ憎悪の炎を燃やし、両者の眼は向き合わされていた。
「クソァッ‼ よりにもよっててめぇが気付きやがるとはな‼」
ナギサ―――いや、もはや先ほどまでそこにいた青年とは全く異なる何者かが、口汚く目の前で錫杖を掲げる魔女を睨みつける。温和で気弱そうな雰囲気を醸し出していた端正な顔立ちは、今や悪鬼もかくやという恐ろし気な形相を隠せていない。
それを真下から目の当たりにした鈴々が顔を真っ青にしている横で、アザミはにやりと不敵な笑みを浮かべて青年を見据える。
「……久しぶりねぇ。丁度この間の傷の礼を返してやりたかったところよ」
「はっ!」
青年は鼻で笑い、無理矢理刃を振りぬいてアザミを振り払うと、背後に跳んで距離をとる。畳を靴底で傷つけボロボロにしながら、青年は体勢を低くし獣のような前屈姿勢になり、妙な気配を発する刀を肩に担いだ。
青年の顔を映すその刃に、アザミは視線をさらに鋭くする。一見すれば何の変哲もない、しかし確かに優れた技術で打たれたことがわかる業物でしかないが、アザミの目を通せばそのすべてが異常な造りをしていることがわかる。
通常の炎ではなく魔術による炎で熱され、魔術を帯びた槌で叩かれ伸ばされ、鮮血や特殊な薬品に浸すことによって完成される代物。全工程において魔術が使用され、そして更なる血肉を食らうことでその質を上げていく悪趣味な技術の結晶体。
|人の手によって創られる《・・・・・・・・・・・》魔剣だということに。
「……ビンゴだったわね。あんた怪我はない?」
「は、へ? アンタ……あ、いや、あなたは……何で……?」
「……説明は後。今はとりあえず―――」
自分を助けてくれたのが、今さらになって誰なのか気づいた様子の鈴々に目を向けることなく、アザミはわずかに面倒くさそうに目を細め、ナギサを警戒したまま錫杖を構える。
わずかな気の緩みさえも許されない緊張の中、邪悪に支配された青年を前にしたまま、アザミはシャランと錫杖を打ち鳴らし、先端に魔力を収束させて術式を構築していく、そして。
「―――逃げるわよ」
「へ……ええええええ⁉」
錫杖をポイっと放り上げ、手が離れた隙に懐に手を入れて白く丸い塊を取り出すと、自分の獲物が落ちる寸前に床に向けて投げつけた。
床に接触した瞬間、アザミが取り出したそれは大量の煙とともに爆ぜ、室内を一瞬にして真っ白に染め上げていく。どれほど目を凝らしても人影さえうかがえないほどの濃い煙の中、錫杖が拾われシャランとなる音と鈴々の情けない悲鳴だけが響き渡った。
「チッ……逃がすかよぉ‼」
白煙に呑まれ舌打ちしながら、青年は耳障りながらも確かに聞こえてくる鈴々の声を目印に刃を振るう。感覚器官の一つが使えずともそれを補って余りある聴力が獲物の位置を正確に割り出す。
だが、確実にとらえたと思われた青年の刃は、目標に触れる寸前で途端に手応えを失った。さすがに目を見開く青年の頭上をほんの一瞬だけ影が通り抜け、背後に気配が映った直後にあわただしく駆け抜けていく音が聞こえてくる。
「ひゃはははははは‼」
しかし青年も呆けるばかりではなかった。開け放たれた戸を蹴り破ると、白煙を突き破って部屋の外へと脱出し、アザミの足音を追って全速力で通路を駆け抜けていく。途中出くわした大会の係員や見張りの兵士は、目の前を駆け抜けるアザミによって蹴り飛ばされ道のわきに薙ぎ倒される。
抗議の声を上げかけた彼らは、さらにそのあとを走り抜けていく凶器を提げた青年の姿を目にすると揃って言葉を失った。そして通路上に置かれていた用具などが斬り倒されていく光景を目にし、皆一様に表情を青く染めていった。
薄暗い通路を獣のように犬歯をむき出しにする姿は、もはや人の断りを逸した化け物にしか見えなかった。
その攻防は、騒音となって会場の方にも伝わっていた。
青龍の門の奥の舞台袖から聞こえてくる悲鳴、崩れるような破壊音が舞台上にまで聞こえてきて、観客や係員だけでなく準決勝出場選手までもがどよめきを見せていた。
「ん?」
「何でござるか…?」
いつまでたっても残る一人が現れないことを不思議がっていたシオンやセツナも、何事かと音のする方に目を向ける。ミグモマルは横目を向けるだけであったが、悲鳴が徐々に近づきつつあることに気づくとその目を不機嫌そうに細め始めた。
そしてしばらくすると、青龍の門が突然轟音とともに破壊され、大量の瓦礫と煙を吐き出しいた。かと思えば、その中から少女を抱えた黒衣の魔女が飛び出し、舞台上の地面を滑りながら体勢を合って直し、錫杖を突き立てた。
「し…師匠⁉」
「アザミ殿⁉」
域内派手な登場を果たした師で恩人の魔女に、シオンとセツナは驚愕に目を見開きその場に立ち尽くす。
アザミはそんな二人に振り向くことなく、しかし二人の前に抱えていた鈴々を放り投げ、錫杖を握りなおして土煙の方を睨みつける。駆け寄ろうとしたシオンだったが、師の放つはっきりとした敵意に思わず立ち止まり、同じく土煙の上がる方を見据えて身構えた。
突然の異常事態に観客たちは恐慌状態に陥り、気の弱いものは我先にと逃げ場所を求めて走り出している。まだ理性的な者達も不安にさいなまれ、巻き添えを危惧して急いで魔女のいる方から距離を獲り、通路に向かって走り出していった。
『み、皆さま! 落ち着いて下さい! 落ち着いて、お近くの衛士の指示に従って速やかに避難してください!』
試合進行役の男や兵士たちが必死に避難誘導を行うが、自分一人のことに必死になっている観客たちは好き勝手に走り回り、誰も言うことを聞く余裕がない。
悲鳴と怒号があたりに響き渡るサンジの中、主賓席で膝を組んでいたトモナガは不機嫌そうに目を細め、舞台上に立つアザミを見下ろしていた。
「チッ…あいつ、しくじりやがったな」
苛立たし気に舌打ちし、錫杖を構える魔女と背後に控えるその弟子と友人らしき犬耳の少女、仁王立ちしたまま動かないミグモマルを見やる。
明らかな非常事態にその場を離れようとしない彼らの胆力は確かなものだが、それを確かめるつもりなど今はトモナガにはなかった。これからの試合でそれを確かめ、大会の終了した後でじっくりと口説き落とすつもりだったのに、こんなごたごたがあった後では会う時間さえ取りづらくなってしまいそうだ。
無表情で佇むアザミを睨むトモナガは、次いで土煙を裂いて姿を現した人影に忌々し気に眉間にしわを寄せる。
「……無駄に暴れやがって」
明らかに危険な気配を放つ刀を携えた、大会中特に勇猛そうに見えていた青年が凶悪な笑みを浮かべて歩み出てくる姿を見て、トモナガはまた舌打ちをこぼすのだった。
「アザミ殿‼」
破壊された門をくぐって現れた青年を目にしたセツナが、険しい表情で佇むアザミのそばに寄って刀の柄に手をかける。
とんと事情は理解できずにいたが、少なくともこの状況が望ましくない状態であり、その原因がナギサを呼ばれていた青年にあることだけは漠然と理解していた。
「もしや……此奴が最近噂の辻斬りとやらでござるか⁉」
「……そうだともいえるし、そうじゃないともいえるわね」
「な、なんなの⁉ あの人に何が起こったの⁉」
説明しようと口を開いたアザミだったがその前に、今までアザミに抱きかかえられ、散々振り回された挙句外に連れ出された鈴々が狼狽しながら誰にともなく問いかける。
鬱陶しそうに目を細めたアザミだったが、手間は同じかと思いなおしてこの場にいる全員に聞こえるように少し声に力を入れた。
「……あんた達、多重人格者って知ってる?」
「は⁉ え、えぇっと…一人に二人以上の人格があるっていうアレ⁉」
「……んー、まぁかなりざっくりした説明だし間違いもいっぱいあるんだけど、イメージ的にはそんな感じだわ。で、あれと似て非なるような存在なのが、今のあの子」
気だるげに錫杖の先端を向ける先で、青年はケタケタと気味の悪い笑い声をこぼしながら刀を揺らめかせている。端正な顔立ちが台なしな醜悪な笑顔に、シオンと鈴々は生理的な嫌悪感を感じて後ずさってしまう。
それに構うことなく、アザミは自虐気味に口元を歪めて青年を、そして青年の持つ刀を鋭く睨みつけた。
「……すっかり騙されたわ。どっかの馬鹿が糞餓鬼の刀に手を出して夜な夜な辻斬りに及んでいるんだと思ってたら、実際は真逆で刀の方が肉体を操っていたんだもの。我ながらどんだけ間抜けなのって話だわ」
「は…?」
「……あれは持ち主の心に寄生し、その意思を乗っ取る厄介な代物。自我を持ち、自分を使わせる剣士を無理矢理操ることで極限の能力を発揮する、大戦の負の遺産……所謂、妖刀と呼ばれるもの」
アザミの語る説明に「正解だ」とでもいうように、青年の刀はかすかに刀身を赤く光らせる。それだけでその刀が異常な存在であることを察し、セツナは鞘から刀身を抜きながら冷や汗を流す。
聞くだけでは眉唾物の話だが、青年の放つ禍々しい気配やアザミの真剣な眼差しを見る限り疑う気にはなれない。荒唐無稽さに戸惑いはするものの、事実と認識すべきだろうと直感的に思っていた。
「妖刀…⁉ そんなものが…」
「……倫理的に問題がありすぎて、表立って伝わってなかった代物よ。そんなものを作って使わせていた国がどんな評価を得るか、考えなくてもわかるからね」
アザミが面倒くさそうに呟いている間にも、妖刀を携えた青年は奇声を上げながら魔女に斬りかかってくる。限界まで見開いた目を血走らせ、涎を垂らす獣の様だが、その動きは熟練の達人のそれであり、アザミは舌打ちしながらその一撃をどうにか受け流す。
その後次々に斬撃が振るわれ、アザミはそのたびに大きくその場を跳躍して攻撃を躱し続ける。シオンたちの方に注意が向かないよう自らが前に出つつ、決して一太刀も受けないように頑丈な錫杖で受けると、金属同士が擦れ合う嫌な高音が響き渡り火花が四散していった。
「師匠!」
「……手ぇ出すんじゃないわよ、シオン。こいつはあんたの手には負えない」
駆け寄ろうとするシオンを制し、アザミは錫杖の石突で地面をトンッと叩く。
その直後、地面の温度が急速な勢いで降下し、無数の氷柱が点に向かって聳え立ち、アザミとシオンを遮断する氷の壁が作り出される。他の誰も近寄れないようにするための壁が作られ、生死を無視しようとしたシオンはたまらず後ずさってしまった。
氷の壁を背にし、改めて青年に向き直ったアザミだったが、そこへ更なる乱入者の声があった。
「むぅ…‼ よもやこの誉れ高き大会に斯様な俗物が紛れ込んでいようとは‼」
怒りに満ちた声とともに、どすどすと喧しく駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。ややげんなりした様子でアザミが横眼を向けると、すでに抜刀したミフネが憤然とした様子で観客席を跳び越えて向かってくるのが見えた。
思わず氷の壁を張りかけたが、そこまですると今度は自分の戦闘に支障が出かねないとすぐさまやめ、向かってくる侍をあえて放置することにした。
「悪しき魔の刀め! 拙者が直々に叩き壊してくれるわ!」
「よく言いました友よ! ならば私も、あなたの心意気にこたえねばなりませんね!」
完全にナギサを狼藉者と認識し、仕留めようと駆け込んでくるミフネの後を、槍を携えたギャラハッドが猛然と突進してくるのが見える。
大会でも好成績を収めた二人が加勢しに来る光景は傍から見れば確かに頼もしく見えたが、アザミからすれば暑苦しい脳筋二人が増えただけで、正直言えば邪魔でしかない。
しかしこの二人が、アザミが止めたぐらいで言うことを聞くようには見えなかった。
「決闘を汚す愚か者めがぁ‼」
「……だから手ぇ出すんじゃないって」
一応二人に聞こえるようにアザミが告げるも、案の定侍と騎士は左右から青年に向かって襲い掛かり、互いの得物を振り下ろす。
普通であれば避けることなど叶わない見事な速さと正確な一撃であったが、同時に放たれたそれらは完全に空を切り、二人は体勢を崩しながら目を見開いて硬直する。一瞬思考が停止する二人の背後に回った青年は、獰猛な笑みをたたえながら妖刀を横に薙いだ。
「ぐわあああ⁉」
「うぐあっ⁉」
強烈な一撃を食らい、二人して血反吐を吐きながら、ミフネはゴロゴロと地面を転がされ、ギャラハッドはアザミの方に薙ぎ飛ばされていった。アザミはすぐさま躱したため、ギャラハッドのみがその後ろの氷の壁に激しく激突することとなる。
あまりの衝撃で分厚い氷の壁と鎧は粉々に砕け、ギャラハッドは大きな血の塊を吐いて地面に崩れ落ち、がくりと項垂れてしまった。
「雑魚に用はねぇ……俺が斬りてぇのは、そこにいる糞魔女と……旨そうな犬女だ…‼」
二人の介入をさしたる邪魔とさえ感じず、青年は妖刀の刃をゾロ炉と舌でなめ、にんまりと口元をゆがませる。唇の端が耳にまで達しそうなほど歪んだその醜悪な形相に、視界を遮っていた氷の壁が無くなったシオンは恐怖に頬を引きつらせた。
アザミは倒れた二人を面倒くさそうに見やり、呆れたような深いため息とともに視線を外した。
「……だから言ったのに」
「何でござるかあの強さは……⁉」
「……妖刀の蓄積した、数々の殺しによる膨大な戦闘経験、そしてどこからか手に入れた尋常じゃない能力を持った肉体。そんなもんに簡単に対抗できるわけないでしょ」
青年が見せる思った以上に鋭く速い妖刀の一撃に、さすがのアザミの表情にも焦りが滲み始める。最初に相対した時よりも格段に技術を上げつつある妖刀の動きに、アザミは内心で毒を吐き散らす。
間違いない、この兵器は独自に進化を続けている。戦闘経験を蓄積し、宿主であるナギサ青年を完全に支配下に置き、己の戦闘能力を急上昇させている。ただ獲物を探してこの大会に潜り込んだのではない、多種多様な武芸者の情報を宿主の目を通して習得し、自身の経験として解析・把握し続けてきたのだ。生半可な実力者では相手にもなりはしないだろう。
「……それに、ただでさえあの刀は頑丈にできてるからね。討ち取るのは至難の業よ」
「…なるほど、心得た」
「……何で今のでやる気になるのよ」
アザミがそう言うと、セツナはやや表情を引きつらせながら自身の刀を鞘から抜いていく。露わになっていく刀身に、間近で彼女の刀を観察したのははじめてだと場違いな事を考えるが、すぐにそんな場合ではないと思い出して口を開きかける。
しかし、真横から見えたセツナの表情にすぐに説得を諦める。ブレることなく相手を見据えるセツナの目はすでに臨戦態勢に入り、いつぞやのような凶暴性まで滲ませつつあった。
「……ダメね、これは」
「ひゃはああああああ‼」
自身の読みが甘かったことを反省しながら、どうにか相手を止める手段を考え続けていたアザミだったが、青年が再び襲い掛かってきたことで思考を停止せざるを得なくなる。
ケダモノのようでありながら、すきのないやりづらい斬撃をどう受け止めるべきかと身構えていたアザミだったが、その寸前に二つの影が割り込んでくる。
一瞬眉を顰めたアザミの前で、その二つの人影―――ムエイとアスカが青年の斬撃を受け止めてみせた。
「手ぇ貸すぜ……魔女殿」
「借りばかり作るのは性に合わないのよ‼」
片や不敵な笑みを、片や不機嫌そうでありながら挑戦的な笑みを浮かべ、相当な膂力のこもった一撃を二人掛かりで抑え込もうとしている男女に、アザミは思わず半目で凝視していた。
四肢で散々やりあっていた二人が仲良く肩を並べているという状況もそうだが、他の連中は手を出すなと言っておいたはずなのに、むしろ喜び勇んで駆け寄ってきているのは一体どういうことか、とアザミは自分の発言力の弱さを嘆き頭を抱えるばかりだった。
「……あんた達ねぇ」
「おっと、余計なことは考えねぇでくれよ? 俺たちだって伊達や酔狂で加勢すんじゃねぇ。この辺でお偉いさん方にいいとこ見せとかにゃ、勤め先にありつけなくなっちまいそうなんでな」
「……で、あんたは?」
「さっき言った通りよ……慰められたまんまじゃ、居心地悪いったらありゃしないのよ」
青年に刃を弾かれ、大きく背後に飛びのきながら、ムエイとアスカはぶっきらぼうに答える。
見栄や保身というそれらしい言い訳を考えてきてはいるようだが、アザミを見る目には隠し切れないお節介さが覗いて見える。見返りなどを望まない純粋な善意という、アザミが最も苦手とする感情を向けられ、魔女はどうしたものかと状況も忘れて考え込んでしまっていた。
ムエイは後ろで悩む魔女の心境に苦笑しながら、悍ましい気配を発する青年を見据えたまま獲物を握りなおした。
「とりあえず、俺たちゃなにしたらいい?」
悪びれた様子もなくそう問いかけるムエイに、アザミは深いため息をついたまま半目で肩をすくめる。
正直一人でもどうにかなりそうだったが、それを言って場をしらけさせるのも気分が悪い。思っていたよりも少しばかり手間がかかったことを考えれば、このお人好し達の手を借りるのもそう悪い事ではないかと考えつつも、やはり向けられる好感情に居心地の悪さを覚えてしまう。
少しの間口を閉ざしていたアザミだったが、やがて諦めたようにため息をついた。
「……しばらくアレを抑えてなさい。寄生されてるあの娘を解放するためには、ちょっと準備に時間がかかるのよ」
「承知!」
「了解」
「わかったわ…!」
「……シオンはその子をどこか別の場所へ。いいわね?」
「う、うん…」
妙にやる気を漲らせるセツナやムエイたちに声をかけてから、セツナの後ろで固まっていたシオンに声をかければ、弟子はやや青い顔ながらも指示に従って鈴々の方へと駆け寄り、力の抜けた彼女に手を貸してその場を急ぎ離れていく。
残った武士たちを横目で見やり、アザミはやりづらそうに眉間にしわを寄せ、目を細めた。
「……好きにしなさい。ここから先は、自己責任よ」
アザミの言葉に、セツナ達は不敵な笑みを浮かべながら小さく頷き、それぞれの得物を構えなおしていく。
急遽集まった四人の武人を傍らに置き、アザミは邪悪な力を持った刀を携えた青年に向き直った。




