5:まずは一歩
まるで雷の様に響き渡る、大勢の観客たちによる歓声。
大気がぶれて見えるほど凄まじいその合声は、正方形に建てられた客席に囲まれる台座のような舞台にまでその振動を伝え、遥か高い天まで轟く。騒音に追い立てられた鳥獣までもが興奮した咆哮を上げ、全く関係のない場所でちょっとした事件が起こりかけていた。
『―――さぁ、今年もこの季節がやってきました! 強者共が集う、刀槍剣戟の祭典! その名も武人祭‼』
歓声に迎えられるように、魔術を使った拡声器を持った派手な格好の男が舞台の中心に立った。
陽光を受けてさらに眩しく輝く衣装に身を包んだ彼は、周囲に飛び回る記録用魔術具に目線を合わせながら若々しい声を張り上げて進行役に努める。
彼自身が大きく目立ちながら、次に続く登場人物たちへの興味を引かせる、そんな話し方だった。
『ご来場の皆々様、大変長らくお待たせしました! まもなくここ、竹ノ宮の闘技場にて、本選出場をかけた予選が開催されます‼』
観客からの歓声がひときわ高く、大きくなる。
戦によって大きく領地を広げてきたこの国の民の大人は、ほとんどが戦を経験してきた者達である。無論太平の世を求めて戦に参加してきた者達も少なくはないが、単に戦うこと、己を鍛え競い合うことが好きな者も多い。
故に国で開催される武道の大会、特に年に一回開催される最大の武の宴には国中の武芸者たちや競技好きの連中が集まり、国を挙げての騒ぎにまで発展することとなっていた。
『規則はただ単純なもの! それぞれが全力を持って戦い、相手を戦闘不能にさせるか、もしくは降伏させる! 己の力を見せつけ、勝利を勝ち取るだけです‼』
観客の大概が国内の人間や、毎年通っている常連が多いために知っている者も多いが、進行の男は改めて観客たちに解説する。
初めて訪れる者は、規則が単純故に個人の身体能力が顕著に表れる戦いに強い期待を抱き、目を輝かせる。
やがて銅鑼の音が響き渡り、進行の男の左手側、東の門に人影が見えた。
『まずは青龍の門より! はるばる西のライデリカ国から腕試しに来たという長槍使いの武人!〝雷雲〟の異名で謳われる男、グウェン‼』
長槍の穂先を分厚い布で覆った、全身を筋肉の鎧で覆った大柄な武人が悠々と舞台の中心に向かって歩いてくる。
ゆったりとした衣服の下に除く傷の数々や、長槍の絵を握る手についた胼胝を見るに、かなりの経験を有した歴戦の猛者だということがわかる。これほど大きな舞台の中心に立っても微塵も臆していない様子からも、強い自信にあふれていることが伺える。
グウェンの姿を見た観客たちは、まるで絵に描いたような武人が登場したことで興奮し、大きな声援をもって彼を出迎えた。
『続いて白虎の門より! こちらは西へ東へさすらう若き侍! いつでもこの腕を買ってくれる者を待っているという自信にあふれた新星! 女剣士セツナ‼』
グウェンの反対側、進行の男の右手側の門から、今度は刀と鞘を縛り封じたセツナが姿を現した。
長槍使いとは異なり、少しだけ緊張の面持ちを見せる彼女だが、その足取りと眼差しには迷いのないしっかりとした適度な力が入っている。
観客たちはグウェンに比べてかなり華奢な女性が入ってきたことに若干戸惑いの表情を浮かべるが、凛とした横顔やまっすぐに相手を射抜く瞳の強さに惹かれ、グウェンに向けたものと変わらない声量をぶつける。
一つの舞台に揃った武人は試合開始前から互いの一挙一動に注目し、己の得物を確かめながら身構える。合図さえあれば、いつでも動ける状態となった二人の周囲に、張り詰めた糸のような緊張感が走った。
『それでは第一試合……開始!』
高く掲げた手を振り下ろし、進行の男がその場から飛びのいた瞬間、両者の持つ長槍と刀が轟音とともに激突した。
大気がビリビリと震動するほどの衝撃が響き渡り、観客席にまでその凄まじさを伝える。爆発でも起きたかのような風が吹き抜け、当人たちや観客たちの髪を荒々しく乱した。
すかさず離れた両者は武器を振るい、もう一度握りなおしてから再び相手に接近する。今度は真正面からの激突ではなく、相手の急所に鋭い一撃を叩きこみ、即座に決着をつけられる容赦のない猛攻の連続が始まった。
紙一重で躱し、反撃し、武器を交える甲高い音が連続して響き渡り、そのたびに観客が歓声を上げて二人の武人を称える声をぶつけた。
「……何でこうなったんだっけ」
暑苦しいほどの興奮が蔓延する観客席の一角で、一人だけ気だるげな表情で座り込む魔女が思わずつぶやく。
何やら爽やかでありながら、同時に必死の形相で激突するセツナの方を見てため息をつき、困ったように頭をかく彼女に注目する者はおらず、一人だけ温度に差があることを咎める者がいない事だけが幸いであった。
「……この間ちょっと暴れすぎたから、こっちではできるだけ大人しくしてようと思ったのに……やっぱり安易にあのバカのお願い聞くんじゃなかったわ」
正直武芸大会などに興味などなく、適当に弟子だけ送り出して放置することも考えていたアザミであったが、以前も一人で任せて騒ぎになったことを思い出して気が引けたため、渋々会場内に潜り込むことにしたのだ。
しかしここまで騒々しいのなら、見張り役に使いまでも放ってどこか遠くから監視していればよかったと後悔するが、今さら戻ることの面倒さが勝ったのか変更はなかった。
「つぇああああ‼」
「ぬぅああああ‼」
アザミがぼやいている間にセツナとグウェンの攻防はさらに燃え上がり、常人の目では追いきれないほどの長槍と刀の応酬が繰り広げられている。
一応相手を殺傷できないように刃を封じ、使用可能なのは打撃の身という縛りが設けられてはいるが、あれほどの速度や重さがあればほとんど意味がないのではないかと思わせる。ゲンに観客たちは徐々に勢いを増す二人の戦いに息をのみ、ハラハラと落ち着かない様子で行く末を見守っている。
そしてじきに、決着の時が近づきつつあった。セツナの放った払いがグウェンの長槍を弾き、致命的な隙を作り出したのだ。
「しまっ…!」
「でぇえええええええええい‼」
晒されたグウェンの腹に、セツナの渾身の薙ぎが叩き込まれる。
肋骨の下、体の中心の急所から少しずれた場所に重い打撃が食い込み、グウェンは白目を剥いて悶絶し、唾液を吐き出しながら膝をつく。
重い巨体がゆっくりと傾ぎ、やがてズシンと音を立てて倒れこむと、鮮やかな決着を目の当たりにした観客席からすさまじい歓声が沸き上がった。
息を切らせ、汗をぬぐったセツナは自分に向けられる声援にやや照れたように頬を染めていたが、悶絶するグウェンに手を差し出して晴れやかな笑顔を見せた。
「西の武人の御力……存分に見せて頂いた!」
互いに全力を出し切ったことを理解し、グウェンもニッと笑みを浮かべるとセツナの手をしっかりと掴む。
対戦相手の手を借りて立ち上がったグウェンはしばし固い握手を交わすと、おもむろにセツナの手首を掴んで天に向かって掲げさせた。勝者による顕示に観客たちがさらに声援を浴びせかけると、今度こそセツナは顔を赤くして黙り込んでしまった。
凛々しいと思えば可愛らしい一面も見せるセツナへの人気が高まっていく中、アザミは静かに彼女の様子を観察していた。
『これは凄い‼ 試合開始から早33秒! たったそれだけの間にセツナ選手! グウェン選手の長槍の乱舞を完封してしまったぁ‼』
「……ふぅん、刃を鞘から抜かなければ問題ないのか。どういう性格なのよ」
先日出会った直後の、賊を相手に暴虐の限りを尽くした戦闘を思い出したアザミは、今回の戦闘では見られなかった理由に当たりをつけて目を細める。
こんな大きな舞台であんな残虐行為に及ぼうものなら容赦なく仕留めるつもりであったが、施した封印が解かれない限りはまぁ大丈夫なのだろうと肩を落とす。油断はできないが、常に気を張り巡らせ続けるほどではないのだと安堵のため息をこぼした。
「……あれはなかなかいい腕をしているな」
「全くだ……近頃の近衛も質が落ちてきましたからな。引く手数多でしょうや」
ふと、耳に届いた観客の中の誰かの会話に興味を引かれ、アザミは聴覚だけを向けて息をひそめた。
ほかの観客よりも上等な衣服を纏った男二人、おそらくは国の武人か要職についている者達は、観客に見送られながら控室へと戻っていくセツナに視線を向け、にやにやとやや下品な笑みを浮かべていた。
先の戦闘に向けていただけではない、セツナ自身の風貌や、着物の下に隠されている汗に濡れた体つきに目を向け、ちろりと小さく唇を舐めた。
「見た目もいい…しかしかなり堅物に見えるな。夜の方の腕前は期待できそうにはないか」
「おいおい、あんなのに任せたら愚息を握りつぶされるぞ」
「はは…恐ろしや恐ろしや」
他の観客には聞こえないように互いにだけ聞こえる声量で、何とも呆れたくだらない話に興じる男二人。
やれあの尻はいいだの胸も実は大きそうだの脚も良さそうだなどと、聞くに堪えない会話を続ける二人組を、アザミはジトっとした半目で睨み、おもむろに片手を足元に下ろした。
「……」
アザミの服の袖からシュルシュルと黒く細長い蛇が現れ、観客席の陰に身をひそめながら進んでいく。驚くほどの速さで影の中に消えた蛇はそのまま二人組のもとにまで到達し、姿を消した。
その直後、突然足首に走った痛みに顔をしかめた男たちは、そのあとに襲い掛かってきた激痛に顔中からぶわっと大量の汗を噴出させながら体を丸めた。
「うっ……⁉ 何だ…急に腹が……‼」
「い、いかん…厠……厠へ……‼」
ぎゅるぎゅると腹が凄まじい唸り声をあげ、中にため込まれたものを排出しようと当人を催促し始める。腹の中に電流が走ったような苦痛に苦しめられる二人組はすぐさま便所へと向かおうとするが、腹の痛みからまともに立つこともできず、そのうえ下手に動くとこの場で排出してしまいそうになり慎重に動かざるを得なくなる。
それでも大人として、人間としての矜持から激痛と苦しみに耐え、悲壮な形相でよろよろと去っていく二人組。その背中を追い、アザミはフンっと鼻で笑った。
「……どうでもいいけど、さっさとこの馬鹿騒ぎ終わらせてくれないかしらね」
戻ってきた蛇を袖の中に受け止めながら、目障りな二人組を視界の端から追いやったアザミは面倒くさそうにつぶやく。
セツナの試合はこの後だが、後日二回戦、準々決勝、準決勝、決勝と続いていくことを考えると気だるさがあふれ出てくる。参加者が多いためにふるい落としに時間がかかるのは仕方がないが、それでも興味がないことはさっさと終わらせてほしいと魔女はぼやき続けた。
よくもまぁ弟子もあの剣士も面倒くさがらないものだ、と感心していると、ようやく自分の待っていた組み合わせの時間となった。
『続いて青龍の門からは、灼熱の南の地より颯爽と現れた砂漠の戦士! 昼は傭兵、夜は曲芸師として活躍するナイフ使い! マリク・アッバーフ‼』
浅黒い肌に、全身にナイフを刺したベルトを巻いた美貌の青年が姿を現し、観客席からは女性を中心とした黄色い声援が雷の様に沸き上がった。
青年は己の眉目秀麗さを自覚しているのか、女性たちに向かって目配せをし、己が姿態を見せつけるような気取った歩き方で舞台の中心に移動する。衣服はゆったりとしているが、生地が薄いためか体のラインが表れやすく、鍛え上げられたであろう艶めかしい体つきが見せつけられ、尻の軽い女性たちはうっとりと頬を染めて青年に見惚れてしまっている。
逆に男性陣からは冷たい視線が向けられていたが、いざ罵倒をぶつけようとすればそれを瞬時に察した女性たちからの避難の視線にさらされ、舌打ちするだけにとどまっていた。
『そして白虎の門からの登場はなんと! この世に知らぬ者はいない最高の魔女、アザミの最後の弟子! 無名故にその力は未知数!〝黒き福音〟シオン‼』
ガクッと肩を落としたアザミをよそに、マリクと相対するように杖の代わりに長い棒を手に出場したシオンが現れた瞬間、男性陣からの声援の量が大きくなる。可愛らしい少女の登場に、現金な男たちは口笛まで吹いて盛大に歓迎する。
女性たちは反対に、自分よりもしかしたら美しいかもしれない少女の登場に眉をひそめ、不満げな表情をあからさまに見せていた。
アザミはひくひくと頬を引きつらせながら、今まで聞いたこともない異名で呼ばれた弟子に呆れた視線を向け、頭を抱えてうつむいた。
「おぉ…‼ あの魔女の弟子‼」
「これはかなり期待が持てそうな組み合わせですな」
男性陣と女性陣の反応の差が顕著に表れる会場で、ほかの観客たちは感心したような声を上げているが、アザミにしてみればあまり大きな声で騒いでほしくない状況となっている。
何を自分よりも師の方が目立ちそうな紹介を許しているのか、というか聞いたこともないその異名はまさか自分で名乗ったのか、と弟子の痴態を見せつけられたアザミは恥ずかしさで顔をあげられなくなっていた。
「……あのバカ……‼ …って言うか何よ〝黒き福音〟って…今のところ災いしか引き寄せてないわよ」
ようやく顔をあげてみれば、ぶんぶんと大きく手を振るシオンとばっちり目があってまたため息がこぼれる。
自分のことがあまり世に知られていないことを気にしていたが、まさかここで名を上げるつもりではあるまいか。福音とやらは自分が黒猫であることをかけた洒落のつもりかなにかか。という歌詞である自分のことを全面的にアピールしすぎであろうが、と文句はいくらでも溢れ出てくる。
無駄に目立ちたがり屋な弟子の醜態に、アザミは切ない気持ちになりながら眉間にしわを寄せた。
『曲芸師対魔術師! 異色の組み合わせの戦いが今、幕を開けようとしています! それでは試合……開始‼』
嘆く師をよそに、進行の合図によって試合は遠慮なく始まってしまう。
マリクを応援する声が半分、シオンを称える声が半分と、男女の反応がはっきりと表れた会場の雰囲気の中、マリクは深いため息をついてシオンに目を向けた。
「フゥ……困ったな。僕は今回、強い奴と戦って賞金を獲得するために来たのであって、かわいい女の子をいじめるために来たわけじゃないんだけどな」
長い棒を持ったまま、何の構えも取らずに立っているシオンに、マリクは困ったように髪をかき上げて語り掛ける。
それだけでも女性陣の目には艶めかしく映るのか、キャーキャーと黄色い声援が聞こえてきてマリクの気分は良くなる。しかし、自分の対戦相手は可愛らしい少女であることを考えると、それほど彼の気分は盛り上がらなかった。
武芸の大会ゆえに仕方がないが、もしうっかり目の前の少女に怪我でもさせてしまえば、この声援が一気に罵倒に替わってしまうことは明らかだからだ。
「ねぇ君、アザミとかいう魔女がどんな人なのか知らないんだけど……魔術師なんだから武芸で僕に勝とうなんて無茶な挑戦は諦めたほうがいいんじゃないかな? 君には血なまぐさいこの大会は似合わないよ」
故にマリクは、シオンを説き伏せる戦略に変更する。優しい笑みをたたえ、恋人に語り掛けるような甘い声でシオンと相対する。
女性陣から圧倒的な人気を誇る美貌と素晴らしい声質を駆使すれば、これまで落とせなかった異性など存在しないという自負が、マリクにこのような戦略をとらせていた。
ほぼ異性を口説くような口調になってはいるが、異性に邪険に扱われたことも、ましてや拒絶されたこともない彼にとって些細な問題であった。
「君がもし、こんな大会に出なければならないほど暮らしに困っているというのなら、僕は喜んで手を貸してあげよう。何なら、僕の手を取るというのであれば一生分の幸せを約束してあげよう。君のきれいな肌に傷などつけたくはない……わかってはくれないか?」
「…………」
マリクの気障なセリフにシオンは全く答えないが、美貌の青年は諦めない。
間違いなく自分の言葉は届いている、きっと自分の願いと目の前に差し出された選択肢に心が揺れ、迷っているのだと確信していた。どんな女性も本当は刀槍剣戟に対する魅力など抱かず、平和で安全な場所で花を愛でていたいのだと、マリクは自分だけの経験から信じていた。
若干台詞に己の欲望が混じっているのは否めなかったが、シオンの顔を見ているうちにマリクの口は止まらなくなっていた。
「困惑しているんだね……無理もない。出会ったばかりなんだから信用できないだろう。でも僕は女性に対して嘘をついたことは一度もないよ。君はそれに値するほど美しい」
反応を見せないシオンに、マリクは一歩ずつ近づいていく。
最初はただ棄権させるために優しく説いているだけだったはずが、いつの間にかマリクはシオンに惹かれ始めていた。夜のような髪も、黄金色の瞳も、人形のように整った顔立ちも、全てが魅力的に見え始め、マリクはただただ己が手の中に留めておきたくなってしまっていた。
その欲望が、一端の戦士であるはずのマリクに、相手に不用意に近づくという愚を起こさせる結果を選択させてしまった。
「さぁ……そんな物騒なものを置いて、僕の胸に飛び込ん―――でぶげぁ⁉」
キラキラと輝く艶めかしい笑顔に、突然黒い棒が叩き込まれる。
芸術品と言っても過言ではなかった美しい顔に深々とめり込んだ棒は、そのままマリクの体を浮き上がらせ、思いっきり吹っ飛ばす。
歪な悲鳴だけを残し、気の毒なほどに顔面を崩壊させたマリクは、そのまま力なく頭から舞台の上に落下し、声もなく倒れ伏した。
「…………ん? あれ、なんか言った?」
隙があったからブッ飛ばした、ただそれだけであったシオンは、大した攻防もなくあっさりと試合が終わってしまったことに戸惑い、訝しげな表情で首をかしげていた。
しかし渾身の薙ぎが決まったことはわかっているため、シオンは誇らしげに胸を膨らませてフンと鼻息を吹いた。
「まずはこれで第一歩。優勝賞金は私がもらう」
『し、試合終了! シオン選手、マリク選手の甘言に一切惑わされることなく、無傷で勝利してしまったぁ‼』
呆然としていたのは観客席も同じで、マリクが倒れピクリとも動かなくなっている光景を見ても何の反応も返せなくなっている。
ようやく進行役の男が勝利宣言を行うことで、気障で生意気な優男を吹き飛ばしたことへの歓声と女性陣からの悲鳴のような罵倒の声が上がり、シオンにぶつけられる。
全員から自分が称えられることを望んでいたシオンは、思っていた結果と違うことにかなり不満げに唇を尖らせるも、渋々片手を上げて歓声を受け止める。
弟子の試合を見ていたアザミも、この結果には呆れるほかになかった。
「……あれに敗けてたら、お仕置きじゃすまなかったところよ」
戦闘らしい戦闘はしていないし、褒められるようなことは何一つ行えていない。口説かれたことにも気づいていないようだが、あれだけ油断されていたなら喋り始める前に決着をつけられただろうと、無駄な時間を過ごしたことを咎めたくなる。
言わなければならないことがいろいろ湧き出てくるが、とにかくこれで今後の試合も付き合わなければならなくなったと嘆くアザミは、周囲にじろりと視線を向けて目を細める。
「……まったく、また妙なものに巻き込まれやしないでしょうね」
セツナとはまた異なる注目の視線が集まっていることに気づきながら、アザミはまた自分が面倒な一件に巻き込まれるのではないかという、いやな予感に苛まれるのであった。




