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【初期版】創世の賢者【連載凍結】  作者: 春風駘蕩
第Ⅱ章 忠犬剣士と東の魔王
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2:黒犬の剣士

「ほう! やはりその出で立ち、魔術師殿でござったか!」


 ゴトゴトと揺れる乗合馬車の上、狭い席の一番端に座った黒犬の剣士セツナが、魔女とその弟子の格好を見ながら納得の声を上げた。

 ピコピコと動く耳や元気に振り回される尻尾を見るに、アザミたち魔術師を見て相当に興味を引かれている様子。向けられている黒曜石のような瞳からうかがえるのは、新しい玩具を前にして興奮している子犬のような、眩しいくらいの好奇心に満ちた眼差しであった。


 馬車は今草原を抜け、森の中の道を進んでいる。

 整備されているとはとても言えないが、馬車がどうにか二台は並んで進める幅の道をゆっくりと進んでいく。前方に目を向けてみれば深い森に続く道が見え、しばらくは緑の壁が続く景色を見ることとなりそうだった。


「実は某は魔術師を見るのは初めてでござるよ。故郷には一人も訪れたことがなかったもので」

「じゃあ、名前は知ってる? 眼帯の魔女アザミとその弟子シオンについて」

「…申し訳ない。魔術に関することはからっきしなものゆえ。有名な方なのでござるか?」

「…………」

「……なんであんたが落ち込むのよ」


 困り顔で頭をかくセツナの隣で、シオンががっくりと肩を落とす。

 あわあわと何かまずいことを言ったかと慌てるセツナに、アザミは心底どうでもよさそうにため息をついて首を振った。


「某の故郷は四方を山で囲まれた、人が足を踏み入れない場所にあるもので……外へ情報が出ることはもちろん滅多に世の噂が舞い込むこともござらんからな。大目に見てはくれまいか」

「…………大丈夫、気にしてない。ちょっとは有名になったかな、とか思ってないから。師匠の弟子として知れ渡ってないかな、とか思ってないから」

「……自惚れるな馬鹿弟子」


 暗い顔で目をそらすシオンの頭を小突くアザミは、改めてセツナの姿を観察する。

 背丈は平均か少し低いくらいだが、胸元や臀部は女性らしいふくらみに恵まれている。ピンと伸びた背筋や真っ直ぐに見つめてくる眼差しは生真面目な印象を与える、美少女と美女の中間に位置している見た目である。

 髪は少しだけ癖があるのか、毛先が外向きにはねているのが目立つが、艶やかな輝きを放っているために刃の輝きを思わせた。

 本人には悪いが、とても武芸者とは思えない麗しさであった。


「お二人もヤマトへ?」

「ん。そういうセツナも? 何か用があるの?」


 セツナの放つ真面目な雰囲気が気に入ったのか、シオンの方から積極的に話しかけている。決まった拠点もなく、ふらふらと旅を続ける生活ゆえにあまり友達を作れなかった彼女にしてみれば、ここまで気が合う相手もいなかったのだろう。

 あまり初対面の相手には歩み寄らない弟子にしては珍しいなと思いながら、アザミはシオンの向けている珍しい表情をしばし眺めていた。

 彼女自身も珍しく、穏やかな微笑を浮かべていることに気づかないまま、願わくば自分だけではなく他の人間ともかかわりを持ってくれればいいとため息をつく。


「左様。某は武芸者ゆえ、この腕を買ってくれる御仁を探してあちこちを旅しているのでござる。……しかし、いまだに某を買ってくれるお方は見つかってはいないのだが」

「セツナの眼鏡に適う人がいなかったの?」

「いや、すぐにクビになるのでござるよ」


 たはは、照れたように頭をかくセツナ。

 同情の眼差しを向けていたシオンの目が、恐ろしい勢いでジトっと咎めるようなものに変わっていく。セツナはチクチクと突き刺さるその視線から逃れようと、冷や汗を流しながら必死に目をそらし続けた。


「……何しちゃったの」

「悪漢を討とうとして、ちと大暴れしてしまったもので……」

「あー…」


 セツナが白状すると、自分にも見覚えのあるシオンは同じように目をそらした。

 魔力の出力を制御できない彼女は、しょっちゅう与えられた杖を壊してしまっていた。師の持つ特別製の杖を使わなければまともな魔法は扱えず、かといって使ったら使ったで周囲に甚大な被害をもたらしてしまう自分の不器用さは、他の誰かを批判できるほどマシなものではなかった。

 互いが互いの目を見られずに、顔を背け合っている姿にアザミは思う。

『目くそ鼻くそを笑う』とはこのことだ、と。


「……ところであんた、その腰の業物のことだけど」

「え? あ! これでござるか⁉ さすがは魔術師殿、見る目が違いますな‼」


 アザミが切り出した話題に、これ幸いとばかりにセツナがのっかった。

 意気揚々と腰に下げていた刀を外すと、刀身を鞘に納めたままアザミの前に掲げる。流麗な装飾が施されたそれを両手で大事そうに持ちながら、セツナは興奮で上気した顔で口を開いた。


「これはある時、立ち寄った町で開かれていた市の骨董屋にて見つけた物でござる! 数打の籠の中にぞんざいに突っ込まれていたのだが、不思議と某の目を奪ってやまぬ物ゆえ、その場で即座に購入してしまったのでござるよ!」


 自分の好みの絵師を絶賛する絵画の収集家のように、キラキラギラギラとした表情でセツナは自分の持つ刀を褒め称える。シオンは単に装飾の美しさに目を奪われ、うんうんとほぼセツナの話を聞き流しながら見つめていたが、アザミはやや頬を引きつらせながら耳を傾ける。

 興味を持ってもらえたと勘違いしたセツナがさらに暴走し、ついには少しだけ刀を抜き、刀身の根元部分を見せながら解説を始める。

 すでに満員で狭っ苦しかったはずの馬車の中には、セツナを中心とした空間が生じていたが、話に夢中になっているセツナは気づくことはなかった。


「美しいでござろう? この直刃と鍔の装飾……きっと名のある剣士が使っていた名刀が、何の間違いかあのような肥溜めのような場所に紛れ込んだのでござろう。これほど某に合う業物は他にござらん! 店主殿には悪いが、某の懐事情にも優しい、実にいい買い物をしたでござるよ!」

「……そう」


 散々言いたかったことを言ってすっきりしたのか、実に満足げな表情でセツナはようやく口を閉じ、座席に腰を下ろした。自分の手に入れたかくれた名刀についての話を誰かにしたくてたまらなかったのだろう。

 もう少し落ち着いて、相手の反応を見ながら話していればそこまでフラストレーションがたまることもなかっただろうに、と思いながらアザミもやっと長い話が終わった安堵で肩をすくめる。

 するとふと、気になったことを思いついて再び視線を刀に向けた。


「……ちなみにその店主、その刀を売った時に何か言ってなかった?」

「はて? 別にこれといったことは申していなかったはずでござるが…………あ」


 首をかしげるセツナであったが、やがて心当たりがあったのか僅かに目を見開いて視線を虚空に向けた。


「そう言えば何か……変わった雰囲気を持つお方でござったな。ここより南の方の町であったゆえ、少し暑かったくらいなのに全身を黒い布で覆っていて……あ、それとなんとも猿のような甲高い笑い声をこぼすことの多い御仁でござったな」

「……怪しいとは思わなかったの?」

「多少は。しかし、そんな事よりもこの刀の方が気になったもので……うかうかしていたら、他の誰かに買われてしまったかもしれませんからな‼」


 堂々と、微塵も後悔を見せることなくセツナは笑顔を見せる。曰く付きであろうが、呪われていようが自分の気に入ったものなのだから問題などあるわけがない、という自信が透けて見え、アザミは思わず深いため息とともに頬杖をついた。

 シオンも時に気にした様子はなく、興奮した様子でセツナの刀について質問を始めていたため、アザミもあきらめたようにセツナに興味を無くした。

 しかし今度は自分の番かとでもいうように、興味深げな表情でセツナが顔を向けてきた。


「お二人はヤマトに一体どのようなご用が―――」


 尋ねようと身を乗り出したセツナの表情が、急激に変化した。

 犬の耳がピンと垂直に立ち、両の目が大きく見開かれる。尻尾の毛が逆立ち、張り詰めた空気を感知したようにぴたりと動きが止まった。

 アザミもまた、全方位から感じる複数の気配に目を細め、気だるげに視線を向ける。

 まだ気配に気づいていないシオンやほかの乗客たちが何事かと振り向き始めた時、突如馬車の車体に一本の矢が突き刺さり、馬が驚愕のいななきを響かせた。


「さ、山賊だぁああ‼」


 乗客の一人のあげた声を皮切りに、前後左右から勢いよく飛び出してくる黒ずくめの集団を目の当たりにした乗客たちから悲鳴が上がる。

 目以外を全て黒い布で覆い、血糊がこびりついたままの刃物や弓矢で周囲を取り囲んでくる男たちは、覆面の下で下卑た声をあげながら近づいてきた。


 商業が発達し、国と国の間のルートが開拓されたといっても、危険性が消えたわけではない。

 いつの時代も他人が貯えた財産を狙って横取りしようという輩は集うもので、この賊の集団は周囲の森を拠点に活動している連中であった。

 さらに言えば、国と国の間のルートは一つではなく、通過する国境が多いルート程広く整備された道を通るために安全性は高まるが、通貨税が嵩張って高い金銭が求められる。逆に越境を避けて比較的安いルートになればなるほど、獣道に近い道を通ることとなるために襲われる危険性が高まる。

 故に後者の道を選ぶ者は自分で護衛を雇うことが求められるが、通貨税を渋るようなものであるため賃金の安い冒険者程度しか雇わない事が多かった。

 ちなみにアザミたちが乗っているのは、最も料金が安い乗合馬車であった。


「ほっ……ほれ! さ、さっさと行けお前ら‼」

「こ、こういう時の為に高い金で雇ったのよ⁉ 早く役に立ちなさい!」


 すぐさま護衛として雇われた冒険者たちが、雇い主である商人や貴族に急かされて武器を手に馬車を飛び出していくが、どう見ても賊の方が数が多く、何より乗り合わせただけの冒険者たちとは比べ物にならない連携で襲い掛かってくる。幾分か奮戦は見せたものの、傍から見ればあっという間に仕留められ、ほとんど役に立たないまま半数がやられてしまっていた。


「……なっさけない」


 溝にはまった馬車を動かすのにも渋ったくらいだ、大した連中ではなかったのだろうと思っていたが、ここまで役立たずなのはアザミも予想外であった。

 いつの間にか護衛の冒険者も片手で数える程度の人数にまで減ってしまっており、標的が馬車の中に残った商人や貴族たちに向けられ始めている。

 いい加減動くか、とアザミが腰を浮かせた時だった。


「ヒッ……ヒィイイ‼」

「ここは某にお任せを‼」

「お、お客さん⁉」


 怯える御者や商人たちの肩をポンと叩き、刀を携えたセツナが、馬車の前へと飛び出した。

 突然の事態にアザミは凍り付き、賊たちを前に仁王立ちする黒犬の剣士を凝視してしまっていた。


「聞けぇ‼ 不埒なる山賊どもよ‼ 健全に日々を生き抜く人々に刃を向けるだけでは飽き足らず、徒党を組んで取り囲むとは何たる卑劣な奴らか‼ 男の子として恥ずかしくはないのか⁉」

「……なんでわざわざ山賊を前に説教かましてんのよあいつは」


 どこかズレたことを恥ずかしげもなく叫び、真正面から向き合おうとしている彼女にアザミがぼやく。

 シオンはシオンで堂々と立ちふさがっているセツナを興奮気味に見つめていて、この状況の危機感を忘れてしまっている。商人や貴族たちは端から怯えて蹲るばかりで役に立たないため、味方のいないアザミは天を仰ぎながら顔を手で覆った。

 とりあえずは、馬車の後方に迫っている賊から何とかしておくべきかと考え、短く畳んだ杖を手早く展開させた。

 馬車の前方では、いまだにセツナによる賊への説得が行われていた。


「おとなしく退け‼ 一度ならば某は見逃してやる‼ か弱き人々を襲うことなどやめ、まっとうに生きよ‼ 貴殿らはまだやり直せる! こんなことはすぐにやめ―――」

「うるせぇクソアマが‼」

「いっぱしに正義の味方気取ってんじゃねぇ‼」

「お前ら、獲物よりも先にこの女をたたんじまえ‼」


 当然、説得などまともに受け取る輩ではない。

 話を最後まで聞こうともせず、苛立ちに顔を歪めた男たちが一斉にセツナに襲い掛かってきた。セツナは自分に向けられる心無い罵倒に一瞬愕然とした表情を浮かべるが、すぐに自分や背後の人々が窮地にあることを思い出して首を振る。

 自分の言葉が届かなかったことに悲しみを抱きながら、剣士は苦悶の表情で自分の刀に手をかけた。


「……どうやら、一度痛い目を見なければわからぬようでござ―――」


 心苦しい、やりたくない、そんな迷いを抱きながら、セツナがゆっくりと鞘から刃を引き抜いていく。

 その刀身が徐々に露わとなり、銀色が木漏れ日を反射した瞬間であった。


 セツナを取り巻く空気が、一瞬にして変化した。



「―――いや、一度死なねば馬鹿は治らぬか」



 感情の一切が消失した、低い声がセツナからこぼれる。

 剣士に起きた雰囲気の変化に、馬車の後方で敵を見据えていたアザミだけではなく、周囲の賊たちも表情を変える。

 しかし振り上げた刃が止まることはなく、いまだに剣の柄に手をかけただけのセツナは防ぐ様子も避ける素振りも見せない。若干の戸惑いの表情を浮かべた賊の数人が、セツナの脳天に複数の刃を振り下ろそうとした。

 が、振り下ろした刃は、次の瞬間自らの腕とともに消失していた。


「―――ひっ」


 賊の口から、短く悲鳴がこぼれる。

 一瞬何が起こったのか理解していなかった彼らの目に、足元に転がるあるものが映る。

 ゴロゴロと転がる黒い布に覆われた何か、先ほどまで自分の肘から先にあったはずの、体の一部であったもの。その数は、セツナを斬り殺そうとした賊の人数のちょうど二倍であった。

 断片からは赤い肉と白い骨が見え、溢れ出た血潮が地面に広がっていく。赤く広がっていく水面に映ったものは、冷たい氷のような目を向けるセツナと、肘から先を失った自分たちの姿であった。


「ひぃえああああああ⁉」

「腕っ……おれの腕がぁあああ⁉」


 傷口から大量の血を流しながら、悲鳴を上げた賊たちが血だまりの上に倒れる。自分で流した赤色に汚れ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった彼らがゴロゴロと転げまわった。

 目の前で起きた惨劇に、賊たちの間に動揺が走る。さっきまで悪事をやめさせようと暑苦しい説得を行っていた剣士が見せた残酷な所業に、誰もが思考を止めてしまっていた。


「こっ、こいつ! ただものじゃねぇ‼ いつ抜いたんだ⁉」

「落ち着けぇ‼ 相手は一人だ‼ 囲んで手足の自由を……」


 冷静さを保っている賊が指示を放つが、ふいにその声が途切れる。

 何が起きたと振り向いた賊の仲間は、驚愕の形相を浮かべた仲間の首がゆっくりと堕ちていく光景を目の当たりにした。

 ブシュゥッと噴水のように勢いよく鮮血を噴出させ、賊の体が倒れ伏す。その向こう側に立っていた黒犬の剣士は、自らが真っ赤に汚れるのにも構わず、ヒュンと血がこびりついた刀を振って振り向いた。


「手足が……何だ?」


 改めて正面から見えた、剣士の双眸。

 一切の感情が抜け落ちた、氷の人形のように冷たく無機質な目。一度たりとも目をそらした覚えはないのに、見た目も格好も全く同じ人物であるのに、先ほどの人物とはまるで別人のようである。

 そして彼女が持つ刀の切っ先が、残る賊の一人に向けられた。


「バッ……バケモノだぁあああああ‼」


 限界を迎えた賊たちが、武器を放り出して逃げ出していく。

 恥も外聞も放りだし、ただただ自分が生き残ることしか考えられなくなった彼らは、互いに押しのけ合いながら這う這うの体で走っていく。押し倒した仲間を踏みつけ、足を引っ張り、自分だけが生き延びようと醜い姿をさらしながら、とにかくその場を離れる事だけで頭をいっぱいにした。

 そんな彼らをセツナは無言のまま見据え、前傾姿勢になる。妖しく光を放つ刀をぶら下げ、殺意も怒りもなくただ再び殺戮を続けようとした。

 だが彼女が走りだそうとした瞬間、その体ががくんと停止した。


「……そこまで」


 セツナの背後に音もなく立ったアザミが、呆れた調子で声をかけた。

 駆け出す寸前の体制のまま、微塵も動くことができないセツナは目だけを動かして背後の魔女を見る。

 視線を動かせば、魔女の足元の影から伸びた黒く太い縄のようなものが巻き付き、セツナの四肢を縛り付けている。それが数匹の黒い蛇の体だと気付いたのは、セツナの表情に徐々に感情の色が戻り始めてからであった。


「……ずいぶん暴れたものね。忠告を無視されてそんなに鬱憤がたまってたわけ?」

「……あ」


 アザミの冷たい言葉に、セツナはようやく我に返る。

 聞こえてくるうめき声の方に目を向ければ、腕を失った賊や逃げた仲間が苦悶の声を上げて転がっている。よく見れば、全員の体にセツナを縛るものと同じ黒い蛇が巻き付き、縛り上げているのが見えた。

 正気に戻ったことを確認すると、セツナの体から蛇が離れてアザミの影の中に戻っていく。

 自由を取り戻した身体でセツナはふらふらと後ずさり、全身を赤いまだら模様で汚した自分自身を見下ろして愕然とした表情を浮かべた。


「あ、あああああ‼ や、やってしまった……またしてもやってしまったでござるか……⁉」


 赤い染みになるのも構わずその場に膝をつき、セツナは激しい後悔をあらわにして頭を抱える。

 アザミはそんな彼女に一切気を遣うことはなく、馬車の中から引き攣った顔で硬直しているシオンに目を向けた。


「……シオン、こいつら縛っておいて。もしかしたら賞金がかかっているかも。それと、最低限の止血と手当てを」

「う、うん」


 アザミに言われ、どうにか平静を取り戻したシオンが転がっている賊や負傷した冒険者たちの方へと歩み寄る。体の一部を欠損させた者の治療は困難を極めたが、何とか怪我人が限界を迎える前に必要な治療を終えた。

 賊を縛る蛇に代わって手持ちの縄で拘束し、適当な一でひと固まりで放置すると、あらためてシオンはセツナに戦慄めいた目を向けていた。シオンだけではない、命を救われた立場にあるはずの馬車の乗客たちでさえ、化け物を見る目でセツナを凝視していたのだ。

 そんな視線にさらされ、セツナは居心地悪そうに目を背けるだけで言い訳もしない。

 ぎこちなくなってしまった二人を見やりながら、アザミはまた、深い深いため息をついて天を仰ぐのだった。


「……これは、まだしばらく波乱がありそうね」

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